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お隣さんは魔王でした @Web  作者: 赤点太郎
一章 少年と魔法
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父の休日とアメーバスライム



「オーヴ、魔法は使ってないだろうな」


 仕事が休みの父さんが、外で遊んでいた僕たちに近付いて声を掛けてきた。

 この頃になると、僕は再び泥魔法を使えるようになっていた。

 幸いな事に妹が水魔法を使えるようになっていたので、それがカモフラージュになっていた。


「……まあ良い。そんな事を忘れるように、今日から剣技を教える」


 何とか隠す事が出来たとホッとする僕だけど、きっと子供の隠し事などはバレバレだったのだろう。

 だけど、僕は父さんの剣技という言葉に目を丸くした。


「おにいちゃんたちがやってるの?」


 二人の兄たちも早朝から父さんに剣技を教わりながら稽古をしていた。

 もっとずっと大きくなってから教わるものだと思っていた僕は、もうお兄さんなんだと心を踊らせた。


「魔法が使えない間は剣技に集中しろ。最悪、魔法を封印されても剣で名を馳せるくらいになれば、この先食う事に困らなくなるだろうからな」


 父さんの言っている事はよく分からなかったけど、兄たちの格好良い姿に憧れていた僕は即快諾した。


「すぅしゃんもやう~!」


 すると、妹は仲間外れにされそうな事に危機感を抱いたのか、自分もやると言いだした。

 その可愛らしい膨れっ面に父さんも抗う事は敵わなかったらしく、溜め息を吐きながら顔を緩めるのだった。






 ~ スライム ~


 形を(とど)めない軟体の魔物であり、成体となっても人が襲われる事は殆どないので最弱とされる。

 主に水辺などで大量に発生し、陸上に上がってくる。

 異臭悪臭の元となる害獣でもある。

 無色透明の種、緑色の種が多く、中には固有の形を保つものもある。

 数種類の大きな分類に分けられるが、その細かい種類数は無数にあり確認しきれていない。


 その元となるのは、目にも見えない極小さな単細胞の原始的な生物アメーバであるとされる。

 元が水の中が主な生育場の為か火などに弱いとされるが、水中では火の効果は限定的なので陸上に揚げてから処置するのが望ましい。

 切るだけでは分裂していく性質がある種もあるので注意。 


  * 図解はじめての世界魔物図鑑 より抜粋。




「緊急連絡用の花火を! 緊急呼集だ!」


 見回りの兵から呼ばれた分隊長らしき人が堤の上から指示を出す。

 すると、詰所にいた兵たちが慌ただしく動き出した。


「うむ、我社も呼集しないと。オーヴ君、悪いけど魔法の練習はここまでで、私は失礼するよ。ああ、今日は休日で工場は休日出勤の者しかいなかったんだ。仕方ない、冒険者ギルドに依頼するしかないか」


 やはり慌ただしく動き出すマさん。

 周囲がこうも慌ただしく動いていると自分も何かしなければならないと気が急くけど、実際にどう動けば良いのか分からない。

 仕方ないから、見張りをしていた陸上一般兵の人たちの所に行って分隊長に指示を仰ごうとそちらに行く。



「あの~。ちょっと良いですか?」

「ん? 何だ。一般人は危ないから退避するんだ……って、もしかして冒険者か? 相手はアメーバスライム、剣で斬るのは御法度だ。終わるまで横で見ていろ」


 緊急連絡用の花火が高々に打ち上がった後、指示を出していた分隊長に僕は声を掛けた。

 しかし、分隊長が帯剣している僕の姿を見て冒険者だと判断したらしく、無下にあしらう。

 でも、そうじゃないと訴え掛けた。


「僕は魔法部隊の魔法士です。今日は非番で偶々ここに居合わせたんだけど、どうしたら良いのか分からないんで、指示を貰えると……」

「何? 魔法士だって? 火魔法分隊か? 火魔法が使えれば手を貸して欲しいんだが」

「いや、土魔法分隊です。Z隊の」

Z隊(ゼッタイ)……か。火魔法は……使えない、よなぁ。どちらにしろ、今は何もする事はないから、隅で待機していてくれ」


 Z隊と口にすると、あからさまにガッカリと肩を落とす分隊長。

 どちらにしろ、交戦が始まって暫くしてからしか土魔法分隊の出番はなく、斬っても分裂してしまうスライムには剣しか使えない冒険者もお呼びではないと相手にしてくれなさそうだ。


「ところで……なぜここにいたんだ? 非番だからって、こんな場所に用があるとは思えないんだが」


 ある程度の指示を出し終えた上、足の遅いスライムが相手という事もあって少し余裕の出来ていた分隊長が僕に問い掛けてきた。


「ちょっと魔法の練習に……」


 そう答えてからシマッタと口を押さえた。

 先程、マさんが魔道具の試作機の実験か何かにしておいてくれると言っていたのを思い出したからだ。


「……魔法の練習? まさかあの惨状はお前の仕業なのか?」

「あ、いや……」


 否定も肯定も出来ずに言い淀む僕に、分隊長は目を細めて睨み付けてきた。

 だがその時、堤の上から兵が大きな声で報告してきた。


「分隊長、スライムが奥の倒木を越えてきます!」


 その報告を聞いた分隊長は、僕への詰問を途中で取り止めて更に指示を出す為に堤の上に掛け上がっていった。

 僕も様子を見るべく、その堤の上に上っていくのだった。



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