初めての魔法と穴ぼこ魔法
「にぃに、おみじゅでた!」
ある日、突然妹が魔法を覚えた。
僕が魔力暴走と格闘しながらコッソリと泥魔法を使おうとしていた矢先だった。
僕のやっているのを見て真似たらしい。
「あっ! スーちゃんすごい!」
それまでもおっかなびっくりで魔法を掛けようと試していたけれど、その度に妹がしがみついてきたので魔法の発動までには至っていなかった。
しがみつかれる度に、あの魔力暴走を起こした事件を思い起こして辛うじて踏み止まっていたんだ。
「しゅごい? にぃに、すぅしゃんしゅごい?」
パアッと満面の笑みを向けてくる妹は、正に絵本で見た天使のようだった。
その顔を見て、僕は更に妹を褒めた。
「うん、サーちゃんすごい! おみずだせるもん!」
僕は庭で泥んこを作るしか出来なかったけど、妹は水が出せる。
僕は純粋にその事を喜び、褒め称えるのだった。
◆
そんな昔のおぼろ気な小さい頃の記憶を思い起こしながら、自分の起こした惨状に目を向ける。
大規模な魔法なんだからこれくらいだろうって出そうとしていた魔力は、どのくらいを出そうとしていたのか想像がつかないけど、万一当初の魔力量で発動したとすればかなりな範囲に影響を及ぼしていたみたいだ。
かなり魔力を絞り込んだつもりでもこの規模なのだから、当初の想定が大間違いだった事は明らかだ。
もし当初の量を暴走でもさせていたら、マさんが誇る建物の結界やマさん自身の防御魔法が無事ではなかったかも知れない。
……て事は、僕自身も無事ではなかった!?
「さあ、慣れるまで続けようか。どんどんやっていこう」
ゾッとしていたところ、マさんが次の練習を促してきた。
容赦ないよ、この人。
こんな若い僕にも乱暴な言葉使いはせずに優しいけど、根っこは体育系なのかも。
魔法学園に入学して暫くの間指導してくれた先生は、小規模魔法で僕向けのやり方を確立させてから大規模魔法を教えてくれたけど、きっとそれが間違いの少ない一番安全な方法だったんだろう。
その指導してくれた先生は定年で直ぐに居なくなってしまったけど、三年間ずっと指導してくれていたら何か違っていたかも知れない。
その後、他の慣れていた土木魔法も放ってみるが、それらは何れも失敗して魔力暴走となってしまった。
マさんにビシバシ叩かれた結果、泥魔法よりも抑えた(つもりの)魔力を奥の方に放ち、耕された土の上に畦道を作ろうとした僕。
しかしそれでも絞りきれてなかったらしく、着弾|(!?)と同時に爆発した。
……火魔法を放ったつもりはないんだけど。
結果、僕の魔法で耕させた農地には幾つもの穴ボコが開き、更に最奥の一角に一際大きな大きな大穴がポッカリと開いてしまった。
幸い奥の方だったから良かったものの、土堤に当たっていたらと思うとゾッとしてしまう。
まだまだ魔力を絞りきれていないようだ、尻が痛い。
泥魔法以下くらいまで絞れば良いと思ったけど、その魔法ごとに適切な魔力の量は違うらしいから、やって覚えるしかない。
マさんからは、少ない方が規模が小さくなるか発動しないだけだから、魔力暴走のギリギリを探すよりも出来るだけ絞る練習をした方が良いとアドバイスを貰った。
「あ゛? なんじゃこりゃ!」
今度は軍で教えてもらった覚えたての土堤のを教化する魔法を練習しようとしていたところだったけど、その土堤の上に登ってきた人が。
服装を見ると同業者のようだ。
軍の、それも各小隊毎に制服の色が異なり、実戦中に一目で判別出来るようになっていた。
そうして見てみれば色は黄緑、陸上一般兵である事が分かった。
突然鳴り響いたその声に、何だ何だともう二人が顔を出して土堤の先の惨状に目を丸める。
定期的に見回りをしに来ている陸上一般兵のようだけど、これでは危ないから魔法の練習は出来ない。
下手に魔力暴走させてしまって思わぬ方向へ向かってしまうと、あの人たちに被害が及んでしまう。
「うむ、これはちょっと騒ぎになってしまうかも知れないな。少し説明しに行ってこよう」
えっ、それは当人である僕の役目では?
だけど、マさんは軍の人間が魔力暴走を起こしたと言うよりも、魔道具の試作品が思わぬ動きをしたと言っておいた方が収まりが良いからと、説明に行こうとした僕を止めたのだけど……。
「ん? おい、あれってもしや!」
土堤の上の兵の一人が奥の方を指差して叫ぶと、他の兵たちも奥に目を凝らす。
「なっ! おいおい、まだ数日早いだろ。至急基地に連絡、スライムの大量発生第二弾だ!」
ええっ!?
僕がこの町に引っ越してきた日にもスライムの大量発生があったばかりじゃないか!
ちょっ、今日は仕事休みの僕はどうすれば!?