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お隣さんは魔王でした @Web  作者: 赤点太郎
一章 少年と魔法
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お熱と謎の魔力量



「あらまあ大変! お熱があるわ!」


 妹が熱を出した。

 いつもと違う様子に真っ先に気付いたのは、着替えをさせようと部屋に来たサーファではなく僕だ。


「……にぃにぃ」

「サーちゃん、えらい?」


 真っ赤な顔にトロンとした目で見上げてくる妹を覗き込む僕。

 いつも元気に僕の後ろを付いてきていた妹の力ない姿を目にすると、僕も元気がなくなってしまう。


「お坊ちゃん、移ってしまうので他の部屋に行きましょうね」

「……やだ!」


手を 他の部屋に連れていこうとするサーファの手を振りほどいた僕は、妹の手を取る。

 僕から離れる事を酷く恐れるようになった妹を安心させたかったんだ。


「どうしましょう、奥様」

「治癒魔法を使うと免疫が出来る機会を失うから、なるべく魔法は使いたくないのよね。でも重くなったら迷わず魔法を使うとして……仕方ないわね。サーファさん、この子も熱が出るかも知れないから注意して見てて貰えるかしら」


 僕の我が儘に大人が折れる中で、僕は妹の手を握り続け……翌日すっかり回復して元気になった妹の隣でしっかり熱を出したのだった。







「呆れたな。あれだけ絞ってもこの規模か……。魔力オバケだな」


 目の前に出来上がった広大な農地(・・)を見て溜め息を吐くマさんに、僕も半分は同意だ。

 さっきまで草で荒れていた地が、魔法が発動したと思った途端に土が踊り出して農地と姿を変えた。

 その範囲はこの実験場を越えて軍が造った土堤の前の草原だった場所をほぼ覆い尽くしていて、奥へも随分と広がっていた。

 無心で詠唱するいつもの豊穣の舞いと比べても、三倍どころか五倍、もしかしたら十倍近くも広い範囲に効果が及んでいたのだ。

 気のせいか、林の一部まで食い込んでしまっている様にも見えなくはないような?

 一部の木が根っこから倒れているのは気のせいなのかな。


「どうだ、どのくらいの量で良いか、感覚は掴めたかな?」


 尻を思いっきり叩かれて絞りに絞った魔力は、最初に出そうとしていた魔力の百分の一、いや、千分の一にまで絞ったかも知れない。

 イメージとしては小さい頃に遊んでいた泥魔法を今再現しようとした時と同じくらいか、更に絞ったくらいだと思うけど……出来た!

 今まで頭を空にして恥ずかしい詠唱をしなければまともに発動しなかった魔法が、詠唱なしでちゃんと出来たよ!!

 やっぱり僕はやればデキる子なんだ!!


「ぃやったああぁぁぁ!! 出来た! 出来たぞぉぉぉぉぉ!! それも特大のをぉぉぉぉ!! やっぱり僕は魔王を倒せる力があるんだぁぁぁぁ!!」


 隣でマさんが呆気に取られた後に苦笑しているけど、今はそんなのは気にもならない。

 不遇で役立たずな属性と言われる土属性で、且つ魔力暴走させてまともに魔法が使えない駄目な奴とレッテルを貼られ続けられたけど、それも今日までだ!


「喜ぶのも良いが、狙っていた広さては無いのではないか? 今は取り敢えず魔力暴走せずに発動したというだけだろう。もっと自分の感覚と実際の発動状態を合わせなければ、他の魔法は恐くて使えないぞ」

「う、確かに……」


 小さい頃の泥魔法は、何も考えずに適当にやっても発動していた。

 いや、たぶんあの頃は結構魔力を絞り出していたのではないか……。

 一回発動させたらそこで妹と二人で留まって遊んでいたから、一日に一回、多くても二回しか使ってなかったのを思い出す。

 それも、よく思い出せば、二回泥魔法を使っていたのはグッスリと昼寝をしていた時で、魔法を使った日は夜もグッスリじゃなかったかな。


「それよりも、魔力切れはまだ感じないか? まあ、あれだけ絞ったんだから心配は要らないと思うが……」


 うん、全然平気。

 学院でもそうだったけど、実地実験でみんなが次々にギブアップする中、僕だけは淡々といつまでも農地を耕し続けていた。

 それこそ丸一日やっていても平気なくらいだ。

 マさんの言う魔力オバケは認めたくないけど、少しは自覚している。

 ってか、マさんの言う通り漏れた魔力で発動していたのなら当たり前か。


「これだけの範囲魔法を放てば、自分の魔力量に頼っている者なら魔力が危うい筈なんだが……オーヴ君の魔力量は計り知れないな。たぶんその魔力量のせいで細かい調整が出来なくなっているのだろう」


 魔法を使う時にはふたつの方法がある。

 ひとつは自分の魔力量だけに頼った魔法の発動、もうひとつは周囲の魔素を取り込んで利用し魔法を発動させる方法だ。

 前者は威力はあるが魔力量によってその規模や数に制限があり、後者は威力はないが周囲に魔素がある限り理論上は(・・・・)使い続ける事が出来る。

 どちらも魔法行使には集中力が必要なので、延々と使い続けられる訳ではないのだが。

 中にはその両方を使って魔法の威力の底上げをしている器用な者もいるらしいけど。


「何か暴走するようになってしまった切っ掛けは無かったのかい?」

「切っ掛け……いや、特には」


 マさんの問いに僕はそう答えたけど、実は嘘だ。

 僅かにだけど、その時の記憶が残っているのだ。

 それと言うのも、その時に初めて魔力暴走を起こして一緒にいた妹に怪我を負わせてしまったのだから。




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