小さな小さな大事件と大陸
僕の思い出す事ができる最も古い記憶。
「にぃに?」
それはいつも一緒にいた幼く小さな妹が、様子のおかしい僕の顔を覗き込んで腕を引っ張る姿だ。
「にぃに? にぃに!」
いつもならすぐにその声に反応するのだけど、この時ばかりは他に気を取られて腕を引く妹にまで気が回らなかった。
「にぃに! にぃにぃ!」
その内に、その妹に引っ張られる利き腕に異変が起きだしたんだ。
「にぃに!!」
それを感じ取ってなのか、不安になったからなのか、それとも僕の気を引きたいからなのか……その腕にしがみ付く妹。
しかし、まさかこの事があんなにも大事になろうだなんて、同じく幼かった僕には思い付く筈もなかったんだ。
◆
セブンコンティネンツ。
この世界の、最大にして唯一の大陸の名である。
名前の由来は、七つの大陸がある訳ではなく、大陸が七つの地区に分かれているからである。
中には小国家が集まって成り立っている地区もあるのだが、各地区にはそれぞれ五つの国とひとつの連合が治めている。
ただ、中央の地区だけは支配する国家は存在していない。
そこは人が立ち入るのを拒む程の大自然と凶悪な魔物が闊歩する前人未踏の地であり、それぞれ周りを囲む国家がその溢れ出してくる魔物を駆除する役を担っていた。
過去には国家間で戦争が起こった事もあったのだが、その何れもが国家消滅の危機に至り、更に周辺国家まで疲弊する事態に陥っていた。
その理由に、それぞれの地区にも魔物の発生源がある為、余計な戦力を割いているような余裕はどの国にもないという事情があった。
そんな世界的危機の過去があった為に、今では各国家間は不戦協定を結ぶだけに収まらず、協力関係を築いていた。
ひとつの国が傾けばあっと言う間に魔物が溢れ出て近隣の国にも影響が出る為、今ではどの国も協力を惜しむ事はしない。
戦争はないが魔物が原因で危うい、そんな世界であった。
その証拠に、近年では各魔物の倒し方が確立していて必要最低限の戦力で対処出来るようになってはいたのだが、今でも時折魔物の異常氾濫があり、対処が追い付かない事があった。
最近では十数年前に起きた中央区の魔物の異常氾濫がそうで、各国で計百人をも超える戦死者を出していた。
舞台はその戦死者を大陸中で最大の32人も出した国、凪の国カルム王国である。
暫くの間、12年前からと現在のふたつの時間軸のまま話を進めていきます。
本日、午後(14時頃)に次話を投稿予定です。
よろしくお願いします。