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第六十話 ファーストキスは突然に。

あと二話で完結いたします。最後までお付き合いいただければ幸いでございますっ!


「わたし……おじさんと結婚するっ!!」


 それは唐突に、チロルちゃんから告げられた。

 何もない、真っ白な空間で。


 今日は月曜日。いつも通りなら意識だけの真っ暗な空間に飛ばされる。でも、今回は違った。目の前にチロルちゃんが居る。姿形がある。


 向こうでは深夜だと言うのに、チロルちゃんの化粧はバッチリ決まっていて、何故か学校の制服を着ていた。


 初めて会った時よりもスカートの丈は遥かに短くて、ワイシャツからはショッキングピンクのとても攻撃的なブラが透けている。

 その姿は何処となく不慣れで、満足に着こなしているかと言えば違う。


 だからこそわかる。これは勝負服……。

 準備を整え、覚悟の上……「結婚する」この言葉は放たれたんだ。


 きっと、いっぱいいっぱい無理をしたんだ。背伸びをして俺好みに大人ぶって。



 全部、俺のせいだ。

 こんな決断に至るまで、

 チロルちゃんを追い込んだ。


 目的を見失っていた。


 遊び呆けていた。美少女たちに欲望の限りをぶつけてきた。楽しかった。楽しかった。楽しかった。


 ここに来る直前は〝本物のキャミソール〟に身を包みきゃっきゃうふふしていた。


 もう、この人は勇者レオを口説かない。あっちでよろしくやってくんだ。きっとそう思ったに違いない。


 正解だよ。俺は異世界で楽しく過ごすつもりでいた。次第に思い出さなくなっていた。月曜日が来るのが、むしろ憂鬱だった。


 ──ごめんね。チロルちゃん。結婚は……出来ないよ。



「高校はいかないと……ダメだよ」


 何言ってんだ俺。そんな事じゃないだろ。


「いかない。高校なんていかない。おじさんと結婚するっ」


「ダメだよ。高校は行かないと」


 だから何言ってんだよ。違うだろ。


「……じゃあ通い妻になるっ。学校終わったらおじさん家いくっ!」


 恥じらいながらもストレートに言葉は放たれる。

 普段と違う攻撃的なスカートの丈のせいか、時折太ももを気にする素振りも見せる。


「元気な赤ちゃん産んで立派なママになるっ!」


 俺が欲してるであろう言葉が次々に飛び出してくる。


「おじさん家に終身雇用するっ」


 ──もう、いいんだ。ごめん。ごめんね。


「あ、あのね! 毎日ご飯じゃ飽きちゃうだろうから、たまにはパンやラーメンも食べて来ていいから!! チロルは重い女じゃないからっ! り、理解ある大人の女だから」


 もう、これ以上無理はさせられない。だってチロルちゃん……泣いてるじゃないか。


 バサッ。

 俺にこの子を抱きしめる資格がないのはわかってる。……でも今だけは、許してほしい。



「大丈夫だよチロルちゃん。そんな事しなくても勇者レオは必ず口説くから」



 ──バカヤロウ。大バカヤロウだ。


「な、何言ってるの? え、おじさんどういうこと?」

「チロルちゃんの事を振ったんだよ。チロルちゃんと結婚なんてお断りだ!」


 バカヤロウ。大バカヤロウだよホント。

 こんなチャンス二度とない。異世界でハッピーに過ごす事も、元の世界でハッピーに過ごす事も。そのどちらも捨てるなんて正気の沙汰じゃない。


 でも、ダメだ。どうしょうもなくダメなんだ。


 だって、チロルちゃんが幸せになれないから。



「チロルは幸せだよ。おじさんと結婚する……」


 ずるいなぁ。キツイよ……心の中はやっぱり読まれちゃうんだから。それでも……。


「チロルちゃんと結婚しなきゃいけないなら、俺は勇者レオを口説かない」


 はぁ。どうして俺は……こんなにもバカなんだろう。


「おじさん……どうして……」


 掠れた声でぎゅっと胸元を掴んでくる。理解できないんだよね。わかるよその気持ち。俺もわからないから。


 でも、これは絶対に正しい選択。それだけはわかる。


 最後くらい、それっぽい事をしなくちゃ。



「勇者レオを口説こう。きっとこれが最後、ううん。憂鬱な月曜日はこれで最後にする。約束だ」

「おじさん……」


 それ以上は何も言わずにぎゅっぎゅっと胸元を掴み、涙を拭いていた。


 ◆ ◆


 落ち着いたところで本題を切り出す。やるなら確実に、明確な目標が必要だ。

「結ばれるって具体的にどこまですればいいの?」


 きょとんと首を傾げるチロルちゃん。え?


「好きって言われればいいのか、キスをすればいいのか、男女の関係に……ベッドの上で……とかね。籍を入れて結婚するのかとか。どこがゴールなのか教えてほしいんだ」


「き、き、き、き、キス?!!」


 いや、何をそんなに驚いてるんだよ?! こっちがビックリしちゃったわ!

 さっき結婚するとか赤ちゃん産むとか言ってたはずなんだが……。

 これは、キスより先の言葉が耳に入ってなさそうだな。なんてこった。



「あっ、ごめんね。確認してみる。バタフライエフェクト!!」


 胸に手を当て目を瞑った。なるほど、こういう感じなのか。程なくして答えを見つけたらしく目が見開く。そう見開く。とても驚いた表情だ。なんとなく察しが……。


「ま、ま、真っピンクだよお!! キス……までで、お、お、お、OKみたい」


 おいおいまじかよ。ずいぶんお子様ちっくな〝結ばれる〟の定義だな。キスしたら子供が出来ちゃうとか思ってなきゃいいけど……。


「えっ? なになに?」


 もう隠す気もないのか。心の声に返事するのやめて!!


 でも、初めてが勇者レオ。男か……。

 どうせきゅんきゅんして、まんざらでもなくなっちゃうんだろうけど。……それもまた一興か。




 それは不意に、突然のことだった。


 ちゅっ♡

「違うよ。ファーストキスはチロルっ!」


 えっ?! その唇は温かくも少し震えていた。


「無事に……帰ってきたら、続きいっぱいしようね!」



 ──バ、バカヤロウ……!!

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