表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/62

第五十五話 本物が欲しい……ですわ!

完結に向けストーリーを動かしていきますっ!!


 すぅーはぁぁぁ。ふんっはぁぁぁ。



 ──10分ループは370回目を超えていた。


 あくまで360回は仮定。大丈夫。まだ大丈夫。


 1時間で6回。なぁに、まだ2時間にも満たない。誤差の範囲。焦らない焦らない。


「ひゃあっ」

「ほんと、アヤノちゃんは耳が弱いんだからぁ」

「うー、違うよぉ〜!」


 焦ることなど……ない。

 うん。焦る必要は……ないな。これ。




 10分ループを繰り返すことでお姉さんの指の動きは巧みになっていった。指耳掻きの〝匠〟になってしまったんだ。


 ぐりぐりぐりぐり。


 弱いところを的確に攻めてくる。


 人差し指を両耳に突っ込まれ、ぐりぐりぐりぐり。


「来ちゃダメって何度言ってもわからない子には、おしおきしないとね」

「ひゃっひゃぁぁぁぁ」



 〝〝もっとお願いしますっ!!〟〟


 ◇ ◆ ◇


 たぶん400回目くらい。もう正確には数えていない。さすがにここまで来ると月曜日計画の破綻を認めざるを得ない。



「ふぅー、ふぅぅぅぅーー」

「ひゃぁぁ、そ、それはだめぇぇ」


 耳に息を吹きかけられる。耳が宇宙に旅立ってしまいそうだ。ゾクゾクが止まらないっ。



 「これやってくれたらもう来ないから……」

 そんな嘘を吐き続けた。お姉さんを助ける為の必要な嘘。優しい嘘を。


 でも、これから先はただの嘘。この世界に来てもお姉さんを助けるすべがないのだから。ううん。すべなんか最初から無かった。すがるだけの望みがあっただけ。


 でも、それは儚くも消えた。月曜日は来なかったのだから。


 いよいよをもって、今を楽しむことしかなくなった。

 このまま無限にこの世界で……お姉さんと……。


 あ、あ、あ、アバンチュール!


 ◇ ◆ ◇


 ──それは突然に。なんの前触れもなく、お楽しみ中の時におとずれた。もう完全に諦めていて欲望全開、お楽しみモードの真っ只中の時に……。



「うわぁぁぁ、お、お姉さん……もっと、もっとお願いします!!」

 




『あ、あやのちゃん?』

「……………………っ?!」


 確かにお姉さんと話していたはずなのに、突然チロルちゃんに名前を呼ばれた気がした。



 ……うん。こりゃ、呼ばれたな。



 だって、ここは意識の中の真っ暗な世界。


 TVのチャンネルを変えるかのように、あっさりと一瞬で切り替わったのだろうか。それとも夢中になり過ぎて気付かなかったのか。


 いや、そんなことはどうでもいい。


 アカシックレコード的な何かで見られてると言えど、生の声をリアルタイムで聞かれてしまったんだ。


 親フラ的な何か。羞恥心の極致。


 恥ずか死ぬ……こんな再開って。


 ──あまりにも残酷で無慈悲。



 ……ノックくらいしてくれよ。

 いきなり来るなんてひどいよ。



 月曜日がおとずれる事を、チロルちゃんとお話する事を待ち望んでいたはずなのに、急に現実に引き戻されたようで、心が青ざめていく。


 チロルちゃんに痴態を晒した事はもちろんだけど、10分ループが終わるかもと思うと、切なくも悲しい。



 もっと、いろんなことがしたかった。もっともっとたくさんいろんなことがしたかった。


 あんなことやこんなこと。たくさんしたかった!!



 悲壮感に浸りながらもお姉さんのあの時の言葉が脳裏を駆け巡る。


 〝わたしがパジャマとして使ってるキャミソールはもっとヨレていて色褪せているわ〟


 く、くそっ。こうなったら必ずGETしてやるよ。本物ってやつを!!


 それでチャラとはならない。等価交換にもならない。


 しっかりとお持ち帰りしてもらう。それで、リセットされない10分のその先を、続きをするんだ!!


 これで終わりじゃない。ここからが本当のスタートだ!! 俺とお姉さんのビューティフルデイズを、あの日した約束を……果たすんだ!!


 

 ◇ ◆ ◇


 一通り話も終わり、さぁ戻るぞ! っと思った時、チロルちゃんが少し気まずそうに話を続けた。



『あのね、あやのちゃんがこっちに戻って来れる方法がわかったの。漠然とした想いの正体がわかったんだよ。……それはね、勇者レオと結ばれる事』


 身の毛もよだつ、とんでもない言葉が飛び出してきた。


 つい数分前に新たな門出、ビューティフルデイズを心に誓ったばかりなのに。



 ──勇者レオと結ばれる事? 勇者レオとビューティフルデイズ? いやいや。絶対嫌だ。



「チロルちゃん、それはつまり、どういう事?」

『うん……っとね。生前のアヤノ・ゴクアークは勇者レオに片思いしてたみたいなの……。愛する人に殺されて……なんかよくわからないけど、それで今、こんなことになっちゃってるみたい』

「いやいや、そんな良い男じゃないよ? あいつはドクズだよ? わかってるでしょ?」

『うん。でも、それが〝想い〟だから……』


 意味がわからない。俺はこの世界で勇者レオと付き合わなければいけないのか? 嘘でしょ? 嫌なんだけど。


 

 何より、俺はこの世界にとどまりたいと思っている。帰りたいとは……思わない。


 返す言葉が出てこない。何か言わないと……沈黙はよくない。けど……、


 ジャスミンお姉さんの事が好きだ。

 ヒメナちゃんの事も好きだ。

 カシスちゃんの事も好きだ。

 エリリンの事も好きだ。


 みんなみんな大好きだ。付き合いたいと思ってる。ずっとずっと一緒に居たい。恋、しちゃってるんだよ。


 それに、みんなと仲良くなったこの状況で、ぬけぬけと勇者レオと付き合うなんてこと、裏切りに他ならない。仲良くなった分だけ、裏切りの度合いが増す。


 好きな人を裏切り、好きでもない奴と付き合うのか?


 そもそも体は女だけど……俺、男だし。ボーイズラブになってしまう。


 色々無理がある。チロルちゃん、これは無理だよ。



『やっぱりそうだよね……』


 とても悲しそうな声色でボソッと小さく聞こえた。

 無言が長すぎたせいか、悟られた……?



 ……あれ、そう言えば……心の声、届いちゃうとかなんかそんな感じの無かったっけ。あれ、あ、あれ?!


『な、ないよっ! そんなのないから大丈夫だよ! な、なにも聞こえてないから安心して!!』


 ほっ。良かった。一安心。


 って、あれ? 俺、いま……何も言ってないよね?!



 ──どうやら全部、聞かれちゃってたみたい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リンクはここ→◆◆◆◆◆◆ ツンデレ聖女の幼馴染は『ラッキースケべ』が大嫌い☆ ◆◆◆◆◆◆
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ