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第五十話 むぎゅぺろ……ですわっ。


 ガクガクブルブル。

 やばいやばい。どどど、どーしよ。


「ごめんなさい……」


 誠心誠意謝る。そしてササッ。お山から離れる。

 背を向け隅で体育座り。万策尽きた。


 ……いや、そもそもノープラン。女の子同士だからと調子に乗りまくった末路。

 

 〝変態さんなのね〟この言葉が脳裏を駆け巡る。


 変態さん。変態さん。変態さん。


 変態さん……変態さん……。へんた……い。


 

 ドクンドクンドクンドクン。



 哀れなチワワ。理由を付けてはクンクンした。


 無自覚なボディタッチに託けて、クンクンツンツンスリスリムニムニを正当化してた。


 単なる欲望。抑えきれない衝動。


 その正体は〝変態さん〟だったんだ。


 情けない。生存ルート確保だの、チロルちゃんを救いたいだの言っておきながら、やってる事は変態さんに他ならない。


 ──消えちゃいたい。もう、消えちゃいたいよ。



「あのね、気にしてないから大丈夫よ? そんな些細な事……はぁ。気にしてどうするのよ? 神話等級の魔法に選ばれ、この世界に存在しているのだから、もっと胸を張りなさい!」



 些細な事……? 男なんだよ? おっさんなんだよ?


 騙されるな。哀れんで同情してくれているだけだ。

 同情してしてしまうほど、哀れって事だ。



「おいで! アヤノちゃん!」


 両手を広げOPENの体勢。


 ──わかってる。これは同情。


 しかし身体は正直だ。

 吸い込まれる。まるでブラックホール。


 気付いたら勝手に……


「ワオーーンッッ!」


 バサッ。むぎゅむぎゅむにー。


 ──飛び込んでいた。




「良い子。意固地になって無理しちゃダメよ? 好きにしていいんだからね。今は……ね」


 お姉さん……お姉さん……同情だとわかってる。

 けど、もうダメだ。抑えられない。


「クンクンクン。ぺろっぺろっ!」


 首筋から垂れる汗。


「あははっ、ほんと変態さんね!」


 不思議だ。変態さんと言われると胸がきゅんっとなる。心の壁にヒビが入るのを感じる。



 全てを包み込むお姉さんの極地。

 大人の余裕。フェロモンと母性が織り成す年上女子の包容力。ハーモニー。


 あぁ、なんて心地が良いんだ。


 心に刻まれた罪も何もかも全てを包み込んでくれる。


 悪い事なんてしていない。後ろめたい事もない。


 そう、この温もりには全てを肯定してくれる優しさが詰まっている。浄化されていく。



 むぎゅむにペロッ!

 むぎゅむにペロッ!



 ──これが年上の包容力ッ!


 ◇◆



「アヤノちゃん。お楽しみのところ悪いけど……よく聞いて。もうじき、今のわたしは居なくなる。そうなったら……くっつくのは暫くおあずけ。いいわね?」



 そう。この時間は限定的。

 最初から時間が無いとお姉さんは言っていた。


「大丈夫っ。たくさんむぎゅむにした。元気満タンだよっ!! でも……もう少しだけ。時間の許す限り……最後の時まで……良い……?」


「もうっ。あたりまえじゃない! 好きにしていいのよ?」


 夢中にむぎゅぺろした。がむしゃらに……時間が許される限り。




 ──ポタッ。


 汗だと思いペロッていたそれが、涙だと気付くのに時間は掛からなかった。



「ごめんなさい。なにかしらこれは……そうね……。うん、不思議ね……今のこの気持ち。時間が無かった事になるのって、……死んじゃうみたいで……」



 結局は……ひとりよがりだった。


 時間にして十分前の自分に戻る。

 それはつまり、今、この瞬間を生きている彼女は死ぬのと大差ない。



「人の領域で神話級魔法に干渉した。当然の罪。死ぬ訳じゃないのよ。そういう意味では優しい魔法。神話級魔法は世界の理を覆すとも言われている。その一片に人として干渉出来た。魔法使いとして誇るべき事。自慢出来るわねっ! って覚えてないのよね……あははっ」



 お姉さん……無理しないで。


 魔法名を俺は知っている。でもそれだけ。当人のチロルちゃんですら何も知らない。けど、



「その神話級魔法は※※※※※※※※※※……あ……れ?」


 言葉にならない。


「※※※※※※※※※※」


 世界が一瞬歪むような感覚。なにこれ……?



「アヤノちゃんは魔法名がわかるのね。でもね、干渉出来ないのよ。今のわたしは世界の理からズレちゃってるから、ノイズとして認識出来る。それだけでも奇跡よ。本来、干渉出来ないから」


 

「ごめん……ごめん……どうする事も出来ない……」

「気を遣わせてしまったわね。一番辛いのはアヤノちゃんのはずなのに……」


 辛い事なんて何もない。毎日パラダイスだった。

 俺は死のうが生きようが……クンクンむにむにしていただけだ。


「もう二度と、神秘の泉は使わせないから……お姉さん……ごめん」


「アヤノちゃん。泣かないで。記憶は無くなる。でもね、想いは残せるかもしれない。さっきも言ったけど、この魔法は優しいのよ」


 ◇


 ひんやりと左背後が涼しくなるを感じた。



《氷結ッ! サムジェルドアート》



 ──魔法……?


「お姉さん、これは……?」


「はぁはぁ。解けない氷のアートよ。消えて欲しくないな……多分、きっと……収束される過程で消えちゃうと思うけど……これがわたしの想い。負けないでねアヤノちゃん……」



 手渡されたそれは……フィギュアだった。

 お姉さんと俺が幸せそうに抱き合っている。


 想いって……。


「お姉さん……お姉さん……お姉さん?!」


 もう、声が届く様子はない。

 魔法を使った途端に息が荒くなり、静かに眠るように……。



 ──そして、ジャスミン姉さんだけが大きく歪み、あの時に戻ったようだった。


 神秘の泉から目覚めるその時に。


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