第五話 で、す、わ。
適量の髪を挟んで、スゥーーーっと下げる!
クルんっ!
スゥーーーっと下げる。
くるくるクルんっ!
…………。ま、真っ直ぐにならねぇぇぇ。アイロンの意味!!
くるっくるっクルン!!
ーーうん。見事なまでの縦巻ロール。感服です。
こんなにも可愛い顔立ちなのに、不釣り合いな縦巻ロールが邪魔をする。スッピンになったせいで、余計に際立つ。
言うなればヘルメット。顔と髪が奏でる一体感、ハーモニー、セッションのような〝それ〟がない。
時間もない。手段もない。ないない尽くし!
ッッ‼︎ ないならないなりにない頭を使え!!
…………切るっ! 縦巻ロールを刈り取る!!
必死に棚を漁った。ハサミが欲しい! ハサミ! ハサミ! なんか色々やばい物が入ってるなこの棚……。
余計な事を考えてる時間は無いッ!!
……あった!!
ふかふかベッドから降り、大鏡の前へ。うん可愛い! アヤノ可愛い!!
……余計な事を考えてる時間は無いッッ!!
チョキ。チョキ! チョキチョキ‼︎
なにこれ? 羊の毛でも切ってるかのようで意外と楽しい。
チョキチョキチョキチョキチョキチョキチョキ!
楽しい!! なにこれハサミが進む!! 切るの楽しいっ!! あははっ!! これクセになるやつだ!!
真っ白なタイルの床に、無残に散らばる金髪の縦巻ロールたち。
今までありがとうロールちゃん。アヤノ生まれ変わるの!!
清楚系ショトカガールになるの!!
レオ様を虜にするのっ!!
◇◆
しかし……鏡の前に写るその姿、髪型は……
〝五月人形〟。いや〝金太郎〟だった。
う、うそだろ?! うそだと言ってくれ……。
鏡に頬を付け自分に語りかけた。
チラッ。チラチラッ。
ーーうわぁぁぁぁん。
俺はふかふかベッドに移動して四つん這いになり布団に顔を埋め泣き崩れた。
バンバンッ、バンッッ!
手をグーにして布団を叩いてみた。
アヤノ可愛い。アヤノは可愛いんだもん! そんな気分でベッドの上から鏡を覗いた。ーー絶望。鏡に映るは金太郎。
確かにさっきまであった希望、美少女。清楚系ショトカガールへの夢。
マスコット系幼JKの面影も消えていた。
切った髪は元には戻らない。
今期、俺嫁候補の一角を、この手でこのハサミで終わらせてしまったんだ。
悲壮感に浸りながらふかふかベッドの上で終わりの時を待つ事にした。
◆◇
トントンッ
「アヤノ様、至急お伝えしたい事が。フゥーフゥー」
「お入りなさい」
ガチャンッッ
爺さんは呑気に火傷した指をフゥーフゥーしながら入ってきた。
もういい。今回は逃がす迄のくだりを話す元気もない。
「あ、アヤノ様?! その髪型はどうされたのですか?!」
「おだまり‼︎」
フゥーフゥー音と共に静かな時間が流れる。おだまりと言ったからか、セバスは勇者が乗り込んで来た事すら言わない。
従順と言うか、間抜けと言うか。ちょっと心配になっちゃうよ。
四回目があったら、上手く使ってやるからな。今回はごめん。フゥーフゥーしててくれ。
女としての自信を喪失してしまったのか、レオ様きゅんきゅんモードに入らない。ーーこのまま死んだら絶対に痛い……。
頼むよ……きゅんきゅんモードに入ってくれよ……。
俺は心の中できゅん♡きゅん♡と叫び続けた。
レオ様きゅん…………………♡。