第四十六話 ツン道ですわ!
俺は今、究極の選択を迫られている。
このルート始まって以来、最大の危機。
──どうしてこうなった?
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
たくさん買い物をして、カシスちゃん行き着けのパンケーキ屋さんでホッと一息! 無一文なのはこの際、気にしない。
これから始まる新生活に心が踊る!!
「では、週一に決定です。二言はないですね?」
「はいはい。いーわよ。アヤノちゃんがそれで良いって言うんだからさー」
ちょっと不機嫌になるエリリン。ごめんね……。
だって、だって……カシスちゃん家にもお泊まりしたいんだもん‼︎ こればっかりは仕方のない事‼︎
「ツンナイトフィーバーしましょうね」
小声での耳打ち。意味はわからないけど、とてつもない夜になりそうだ。ツン友最高!
──たくさんの荷物を抱え、エリリン家へと戻る。辺りはすっかり暗くなっていた。
ガチャン。
「おかえりー!」と出迎えてくれたのはヒメナちゃん。
「なんでまだ居るの?」
「ちょっと大切な話があるの」
お馬鹿なヒメナちゃんが珍しく真剣な眼差しだ。
嫌な予感がする。何かあったのだろうか……まだまだ安心はできない。
◇◆
「無理。絶対無理。とっとと帰れっ!!」
テーブルを挟みガールズトーク。でも、ギスギス……。空気が重い。
「えー、だって一週間は七日でしょぉ。三日でも最大限の譲歩だよぉ?」
「その話は聞き捨てなりません。ヒメナが週三? それならわたしも週二がいいです」
──んーー‼︎ 俺の取り合い‼︎ 幸せ過ぎてやばいッ‼︎
「じゃあ、わたしは週一でいいわよ」
まさかのジャスミン姉さん?! どういう心境の変化?!
「今更なにー? やっぱり最初からアヤノちゃん目当てだったんだー? もう遅いからねー」
「しらじらしい人です。好きなら好きと最初から言えばいいものを。ジャスミンには週一すらくれてやりたくないですね」
取り合いは深刻化を深めた……。そして……
「「「ねぇ、どうするの?!」」」
──判断を委ねられてしまった。
◇
決められる訳がない。
しかし決めなければならない。
一週間を誰の家で何日過ごすのか。
究極の選択……。
ロフトで一人一人とサシでお話しする事になった。
面接? 面談? オーディション? プレゼン?
丁寧に防壁、防音魔法まで貼られ、ロフトは密室空間になった。
トップバッターはカシスちゃん
何を話せばいいんだ……。──緊張。
◇
「どうもです!」
ぴょこんとウサギのように顔を覗かせ可愛らしく入ってきた。
「よいしょ。よいしょ!」
1畳半程の縦長のロフト。四つん這いにハイハイしながら近付いてくる。……近付いてくる。
えっ、止まらないっ。ハイハイが止まらないよ?!
止まらない。止まらない! 止まらないハイハイ‼︎
「えーい!」
──そのまま押し倒されてしまった。
「やっと二人きりになれましたっ」
「そ、そうだね」
ドクンドクン。──近過ぎる。
いや、近いなんてもんじゃない。ゼロ距離。
ほっぺとほっぺが触れちゃってます……。
ドクンドクン。
「これじゃ、お話し出来ないよぉ?」
「むぅ。〝ツン友の儀〟よりもお話のほうが大切なのですか?」
初耳だよ……唐突過ぎるよぉカシスちゃぁぁん!!
いつの時代も求められるのは臨機応変な対応だ!
「ううん。ツン友の儀しよっかぁ!!」
「もちろんです!! 」
◇
ムニムニ。ムニムニ。ムニムニ。
「く、くすぐたいよぉ〜むにむにしないでぇぇ!」
「我慢して下さい。まったくもう!」
むにむに。むにむに。むにむに。
「あはっ、あははっ。だめ、カシスちゃん、もうだめっ」
「あと少しです。もう少しです!!」
ムニムニ。ムニムニ。ムニムニ。
「胸はSS、二の腕はS、太ももA、ふくらはぎA、ほっぺA、足の裏B、うなじB──」
なんだ? どうしたって言うんだ?!
「各ツン部位の採点終了です。で、では……どうぞ……アヤノちゃんの番です」
なんだと……? 熊さんTシャツを脱ぎ捨て仰向けに寝っ転がった。恥じらいながらも肘で目を隠してっ。
か、カシスちゃん? むむむ、ムニムニしていいの?
しかしこれは、ブラ越しだが……
「この胸は……C」
ハッ。無意識に溢れてしまった。
「え。Cって。酷いです……確かにアヤノちゃんと比べたら小さいですけど……Sはあると自負してます。ぐすっ」
僅かに肘をズラし泣きそうな顔で見つめてきた。
違うんだ。今のアルファベットはカップ数なんだ……。
「…………むにむにもせずツンツンもせず。ノーツン、ノームニでの採点。まさかっ、アヤノちゃんは〝ツン眼〟をお持ちなのですか? それも開眼済み?! ツン道を極めし者?」
さっぱりわからない。もうダメだ……正直に謝ろう。
「違うの……。さっきのは……その……胸のサイズ……」
「……なるほどです。まったく、紛らわしい人です。てっきりツン眼を開眼させてるのかと思いましたよ」
ツン眼ってなによ!!? 開眼?!
◇
「では、ここをむにむにツンツンしてS判定して下さい」
堂々と当たり前のように指示を出すが、
その姿は肘で目を隠し、頬を赤く染めていた。
ドクンドクン。
「なにしてるんですか。早くツンツンむにむにして下さいよ。ここです」
涼しい声色で急かしてくるが、カシスちゃんの頬はさらに赤く染まる。もちろん俺の鼓動はフルスロット。
ドクンドクンドクンドクン。
「ぐすっ。むにむにする価値は無いとでも?」
泣かないで。自尊心やら背徳感の波がパないの。
「ぐすっ……」
このままでは関係にシコリを残す。や、やるしかない……。
覚悟を決めろぉぉぉーー!!
──ワオーーンッ!!!!!!




