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第四十五話 ペットですわ!


 バタンッ。タタタタタタタタタタタタッ!


「エリリンッ! あなたねぇ?!」


 ジャスミン姉さんだ!

 ノックもせず、土足で入ってきたかと思えば一直線にエリリンのもとへ。


 胸ぐらを物凄い形相で掴んだ。

 

「汗臭い。とりあえずお風呂入ってからにして」


 掴まれた胸ぐらを振り払う事もせずに、グッと堪えた表情で言葉のみで返した。謝るつもりも馴れ合うつもりもない。けど、最大限に譲歩した結果……だろうか。




「あははっ。ムカつくガキね。なら、お風呂いただいて良いかしら? 昨日から入ってないのよ」


 笑いながらも安堵のため息。恐らくジャスミン姉さんはやる気だったんだ。乗って来なかった為に、拍子抜け……でも、目はまだギラギラしている。



 靴を脱ぎ玄関へ置き、そのままお風呂場へ向かった。


 ──ビックリした。ジャスミン姉さんも探し回っていたんだ。ヒメナちゃんの鎧がもたらした影響は特大だ。



「ナイス我慢です。……悪く思わないでください。ヒメナが死んだと完全に誤解してましたから。一発殴りたいとこぼしてましたよ」

「わかってるー。なぁーんかこういうのめんどくさいよねー」


「はい。めんどくさいです。でも、それだけの事をしたのですから、これくらいは我慢して下さい。アヤノちゃんとのビューティフルデイズはすぐそこです‼︎」

「ガキのくせにいい事言うじゃない」


 「「はははっ」」


 この二人は多分アレだ。喧嘩するほど仲が良い。うん。そう言う事にしとこ。



 ◇◆


「ねぇ、着替えとかないのかしらぁ?」


 バスタオル一枚でご登場!! ふんっはぁ!!


「タンスに入ってるからお好きにどーぞ」


「ありがとう。あら? そこにある下着は新品かしら?」


「あっ、忘れてました! アヤノちゃん用なのでこれはダメです。ごめんなさい」


 ──チャンスッ‼︎


「わたしはいいよぉ。ジャスミンが使ってぇ!」

「あ、そう」


 冷たっ。ゴマスリしてると思われたかな……悪手。けど、今はそれどころじゃないんだッ‼︎



「いや、それはアヤノちゃんのだから」

「そうです。アヤノちゃん用です!!」


 クッ。やはり妨害してきたか。エリリン&カシスちゃん。


 ──負けてたまるかッ‼︎


「ううん。エリリンと一緒がいい。同じがいいのぉ!!」

「あ、アヤノちゃん……。そうだね。一緒の使おっか!!」


「まったく。しょうがない人です。好意は素直に受け取るべきなのですよ。もうワンセットあるので取りに行ってきます」


 タタタタタタタタッ。バタンッ!!



 風のように出て行ってしまった。

 カシスちゃん……。お気遣いありがとう……。


 ◇◆◇◆◇◆



「ねぇ、暑くなぁい? どうにかならないのかしらぁ?」


 氷結魔法を扱う者。暑さには弱いのかなッ。


 額から垂れる汗……飲めてしまいそうな程に綺麗なミルクティーの髪。ゆるカール。湿った肌。キャミからはみ出るブラとたわわな胸。


 フェロモン満点のシチュエーション。

 でも、今のジャスミン姉さんは怖い。


 明らかに苛立っている。

 

 昨日まで和やかに温かく囲んでいたテーブルに今はその影はない。ガールズトークに花咲かせ心踊る雰囲気はゼロ。


 ◇


「帰れば? さっきからずうずうしいんだよ。今日はこれからアヤノちゃんの日用品揃えたりで忙しいんだから」


 ──え、エリリンっ。出掛けるってそういう事だったんだね!! この家で飼ってもらえるんだ‼︎


 でも、そろそろ限界っぽい。チクチクと後輩いびりのようなジャスミン姉さんの小技が刺さる。エリリンに手を出させようとしているのだろうか……。



「ねぇ、この子を匿ってどうするの? リスクしかないでしょ? 今のあなた、見るに耐えないわ」


 ──呆れた様子。でも正論。


「黙れよ。アヤノちゃんとこの家で一緒に暮らすんだ。邪魔するなら容赦はしない」



「無理。現実的に考えなさいよ。あなたらしくもない。この子は人間。ペットじゃないのよ? それも元辺境伯の令嬢。残念だけど、ミルフィーユ王国にはもう住めないわ」


「ずいぶんと保守的になっちゃって。歳は取りたくないなー。バレた時はその時考えればいいっしょー」



 ツインテールのテール部分がふわふわと浮き出した。

 ずっと堪えていた。さすがにもう我慢の限界に達してるようだ。

 今日のエリリンはチワワじゃない。


 しかし、風と水。相性は最悪のはず……。


 テーブル越しにピリピリした空気が立ち込める。



「ほんと失礼なガキね。……甘ちゃんのお子様思想って怖いものね」



 ピリ。ピリピリピリ。


 ひんやり冷たい空気が部屋を覆う。

 氷結魔法スタンバイ。



 ヒメナちゃんは爆睡。俺が止めないと……。




 タタタタタタタタッ。バタンッ!


「おまたせですッ!」



 おっ、ナイスタイミング! カシスちゃん!!



「はぁ。少し痛ぶってあげようとしたのに」

「ずいぶんと上からの物言いだねー。お・ば・さ・ん?」


 ピキッ


「ほんっとに生意気ねぇ?」



「あわわわ! あ、あの!! あの!!」



 「「うるさい」」



 ダメだ……カシスちゃんじゃ止めれない……。


 シュンっと肩を落とし泣きそうな表情だ……。急いで戻って来ていきなりこれは可哀想過ぎる。


 ツンツン。ツンッ。〝元気出して〟と脇腹にフタツン。モールス信号ならぬツン信号!


「──ひゃあっ」


 むぅ。っと見つめてきて胸をフタツンされた。


 静かに頷き、二の腕にフタツン。


 仕返しと言わんばかりにフタツンがまた胸に返ってくる。ツンツンツンツンツンツン。


 次第に笑顔が戻る。良かった‼︎



 頬をつきジャスミン姉さんがツンツンを不思議そうにみていた。


「カシスも垂らし込まれたの? この子に? どうなってるのかしら」


「は? 垂らす? いい加減にてくれないかなー? やる? わたしはどっちでもいーけど?」


 ツンツンしてる場合じゃなかった。完璧にスイッチが入ってしまっている。


 

 ──もう、無力なチワワは嫌だ。ペットなチワワになるんだっ‼︎


 この家で飼ってくれる(一緒に住もう)と言ってくれた。傍観者は終わりだぁッ!!



 今ならなれる気がする。ペットモードに。


 エリリンの胸に飛び込むんだ!

 この争いを止めるんだ!!


 ──キャンキャーン!!


「むぎゅ。エリリン……喧嘩はやだよ……」

「あ、アヤノちゃん……」

「やだよ。やだやだ。むぎゅぅ」


 届いてくれ。もう嫌なんだ……頼むよ……。


 静かに頷き、ゆっくりと息を吐いた。そして、


「ジャスミン。そういう事だから。もうやめよ」


 ふわふわ浮いていたテールがおさまる。

 戦闘態勢OFF。──思いが届いたッ‼︎



「嘘でしょ? ねぇ、どうしちゃったのよ?! 冗談も大概にしなさいよ?」



 ピクリと歪んだ表情を見せるも、「大丈夫だよ」と、優しく撫でてくれた。


「アヤノちゃんが嫌がってるから……もう許して。ごめんなさい」


 エリリンが……あのエリリンが〝ごめんなさい〟をした。抱きつく俺の手を解き「ちょっと待っててね」と言い、ジャスミン姉さんに頭まで下げた。それも深く。



「嘘よ嘘よ嘘よ。こんなの嘘よ……」


 ジャスミン姉さんは頭を抱えてしまった。テーブルの上にたわわなお胸が乗ってしまったっ。

 無理もない。あのエリリンが争いを避け、しかも謝って来たのだから。



「これが現実です。エリリンにべったりだからと嫉妬に狂うジャスミンは見たくありません。アヤノちゃんとはこれからゆっくり親睦を深めればいいじゃないですか」


「嘘よ……嘘……ありえない……」


 カシスちゃんの声は届いていないようだ。とても嬉しいことを言ってくれているのだが、今、この状況では全く的を得ていない。


「なるほどねー。途中からなんとなくそんな感じはしてたけど、やっぱりそういう事だったかー。おばさんの嫉妬ってまじこわー」


 なんですと。的を得ているのか? 全くもってそんな感じなど1ミリも読み取れなかったけど……ジャスミン姉さんは嫉妬していただけ? 俺にLOVE?



「ありえない……こんなのありえない……」


 うん。これは絶対に違う。この状況に理解できてないだけ。おばさんと言われたのに怒る様子もない。軽い放心状態に近いなにか。



「ジャスミンは嫉妬に狂っておかしくなってしまいましたね。もう放っておいて行きましょう。アヤノちゃんのお泊まりセットを買いに‼︎」

「だねー。時間が勿体無い。可愛いお洋服も買わないと!!」



 ──三人でお買い物?!


 ◇◆


「嘘よ……嘘よ……嘘よ……」


 支度を終え、買い物に向かうその時になっても、ジャスミン姉さんは念仏のように声を漏らしていた。


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