第三十八話 チワワですわ!
「ちょっ、あはっ、はははっ、くす、くすぐったいよぉぉ」
クンクンクンクン。うっ……こ、これは、
あぁ、青春の匂いだ。そうだ、青春。青くもほろ苦い、決して甘くはない。……夏の青春ッ‼︎
──意識が、遠のく。何処かへ消えてしまいそうだ。
しかしチラッと顔を上げればヒメナちゃんの……絶景が‼︎ 黒とピンク‼︎
刈り取られそうだった意識が一瞬で舞い戻る。刹那の時間‼︎
シュタッ‼︎ ハッ‼︎
わんわんモぉぉぉード‼︎
クンクンクンクン。うっ……意識が……。チラッ
わんわんモード‼︎
クンクンクンクン。うっ……意識が……。チラッ
わんわんモードの強制発動と強制終了。
思わぬ発見。なんという収穫!!
幸か不幸かわんわんモードの制御に成功した。
この感覚、忘れるてたまるか!!
クンクンクンクンクンクンクンッ! はぁぁぁぁ。
クンクンクンクンクンクンクンッ! はぁぁぁぁ。
◇
「あっ、んんっ。も、もうダメッ……くすぐったくてやばいっ。あ、アヤノちゃん、じゃ、ジャッジは?!」
クンクンクンクン。はぁはぁ。はぁはぁはぁ。
「挽きたて……焙煎……香ばしい‼︎」
「……? ひきたて?!」
「癖になるやつ‼︎」
「あっ、コーヒーの事かな?」
「多分そんなとこっ」
少し言葉を濁らせた。
俺はこの戦いを止めるんだ‼︎
ヒメナちゃんはすごい嬉しそうに、俺の後ろに居るであろうエリリンにドヤ顔を向けた。
「はぁ。上がっていいわよ」
「やったねっ!!」
良かった良かった。丸く収まった……。
力ある者が争いを止める。成し遂げたんだっ!
◇
「気使わせちゃってごめんね。でも、ありがとう」
背後からの耳打ちっ。エリリンの声。
ゆっくり振り向くと頭を撫でられた。
その顔は優しくもどこか安堵しているように見えた。
──今の彼女はチワワ。魔力は殆ど残っていない。
キャンキャン吠える事は出来ても戦えないんだ。
◇
ガチャン。
「ねぇ! 先にお風呂もらっていい? 汗でベトベトするぅ。流したーい」
「はぁ? 泊まってく気?!」
「もちろん。さすがに今日は帰れないよ」
ほんの少しマジ顔になるヒメナちゃん。意味深。緊迫。
……………………。
「まー、今日が終わればどーせレオの事だから、任務完了って虚偽報告するでしょ。それでこの件は終わりっ」
「絶対するね。平気な顔して嘘つくからねぇ」
「「あははっ」」
ちょっぴり緊迫した空気が流れるも一瞬で和んだ。
ネタか? いやガチっぽい。笑い事ではないだろ‼︎
最低な男だ……。あのイケメン勇者。笑い話に出来るほど、嘘をついてるって事かよ。許すまじ。
でも、嘘をつく事に抵抗の無い最低男だからこそ、生存ルートに辿り着けるのか。感慨深い……。
◇◆◇◆◇◆
──で、どうして俺は今……下着姿のヒメナちゃんに脱衣所で壁ドンされてるんだ?
手に持ってるそれは……。
まさか……嘘だろ……?! 嘘だと言ってくれ……。




