第三十七話 仲良しですわっ!
シュゥゥゥゥ。
ゆーっくりと地面に近付く。
シュタッ。
「ふぅぅ。はぁぁ。と、到着ー。バカヒメナ……」
コツンとヒメナちゃんの頭を叩くも、エリリンは心底疲れ切った様子だ。
それも当然。ヒメナちゃんがずっと脚をバタバタして騒いで居たのだから。
揺れると必然的に密着度は高まる。
間に挟まれる俺はもう死んでも良いと思えるほど、ギュウギュウに。それはもうパラダイスでした。
──ヒメナちゃん、グッジョブ‼︎
◇
此処は、多分……王都。
目に見える場所に宮殿もある。
人通りは殆ど無いけど、住宅街のど真ん中。
大丈夫なのだろうか……サンドウィッチから一気に現実へ引き戻される。ガクブル。
テクテクテクテクテクテク。
ヒメナちゃんが木造二階建ての外階段を上り始めた。現代風に言うならアパート的な建物。
「あーーーーー。もぅ‼︎ 何考えてるのっ?!」
「喉乾いたぁ。エリリン水ちょうだーい」
アパートの階段を上るとエリリンが怒りだし、ヒメナちゃんは喉が渇いたと言う。
ん? えっ?
「ごめんねアヤノちゃん。狭いけど遠慮しないでね」
手を引かれ「ほら、行こっ」と続けた。
ん? えっ?
この雰囲気、この感じ……このアパートは……。
エリリンのお家?! まさかっ……一人暮らし?!
もしかして俺、お持ち帰りされちゃったの?!
ドクンドクン。ゴクリッじゅるり‼︎
◇◆
「はーやーくぅー! あーけーてーー!」
鍵のかかったドアをガチャガチャして急かす。
そんなヒメナちゃんに諦めモードのエリリンはドアの鍵を開けた。
ガチャンッ。
鍵が開くなり「いっちばーん」と勢いよく玄関に入った。一人通るのでやっとの狭い玄関。「んっしょっ」と座り、さっそくブーツを脱ごうとしだした。
──絶景‼︎
◇
エリリンは何かを思い出したかのように慌てだす。
「あっ、待ったヒメナ! あんた脚、そのブーツ!!」
……キョトンとするもおかまいなしに「それー」っとブーツを脱ぎ捨てた! ──絶景‼︎
「多分ね、もう大丈夫! 空飛んでたからなぁ? 蒸れてる感じゼロ! ほらっ乾いてるっ!」
「そういう問題じゃないから。やっぱり帰って」
「ほら、臭くないでしょ?! ほらほらぁ〜」
手で仰いで匂い玉ならぬ空気の風を送りだした。
半畳もない狭い玄関。一人座るので精一杯。
座っているヒメナちゃんに対し、エリリンは立っている。この足と鼻の距離ではどんなに仰ごうと届かないっ!!
「ねぇ、もうやだ。無理! 帰って。……帰れ‼︎」
「待ってよ。それじゃまるであたしの足が臭いみたいじゃん。絶対帰らない‼︎ だって臭くないもん‼︎」
「だーかーらー、蒸れてたんでしょ?!」
「蒸れてない。いいから嗅んで確かめて‼︎」
な、なんと‼︎ ついに仰ぐのを辞め強行手段に乗り出した。ヒメナちゃんの足が、ニーハイが‼︎ 宙を舞い上がるっ!! ──絶景‼︎
身軽にスッと避けるのかと思ったが、エリリンはヨロめき一歩後退するのみ。
三人乗りでの飛行が堪えているのだろうか……強気な口調とは打って変わって身体は弱々しくみえる。
「臭くないから嗅いで!」
「嗅ぎたくないから帰れっ!」
「嗅いでぇー!」「嗅がない!!」
一触即発。
〝嗅がせたい女〟と〝嗅ぎたくない女〟
話は平行線。このままではバトルに発展しかねない。
エリリンの疲労度はMAXだ。戦う力は残っていない。
助けてもらった恩義は返す。
この戦いを止めてみせる‼︎
◇◆
「臭い女と誤解されたまま帰れるもんかっ。絶対に嗅がせてやるっ!!」
そうさ。ヒメナちゃんは臭くない。知ってるよ。見ればわかるさ。多分。
「そういう問題じゃないっての! 嗅ぐわけないでしょ。バカ‼︎」
エリリン。大丈夫だよ。後は任せて。
──俺にはこの戦いを止めるだけの力がある。その力を今、行使する。二人には仲良しで居てほしいから。
ただ、それだけなんだ。
ワンーーン‼︎




