第三十四話 さすギャルですわっ
「なにこれー、ほんとぷるんぷるんだぁ……」
「ひゃぁっ。だ、だめだよぉ」
レオ様の為に、食べ頃ゼリーな唇を演出したはずなのに、エリリンが興味津々に人差し指でグイグイと……。
ふかふかベッドの上に女の子座りで対面。過度なボディタッチならぬ唇タッチ。
「んー、これはなんだろう……水あめ? ハチミツ? ペロッ」
「ッッ?!」
な、舐めたぁーー?! 唇を触り倒したその人差し指をペロッと?! か、間接キッス……。
「甘くなぁーい……。あれ、爪もぷるんぷるんだね! 今度こそ水あめだ! パクっ」
「ひゃ、ひゃあっ」
ドクンドクン。ドクンドクンドクンドクン。
な、何してるのこの人……? そんなに指を舐めないで……水あめじゃないからそれっ。食べ物塗ってないからっ……。
「うげー、甘くないんだけどぉ……?」
人の指をいきなり舐めて嫌そうな顔しないでよ……。
ギャルだからとか、女の子同士だからとかで片付けられる話じゃない。まさか、エリリンはペロッ娘属性を持ってるのか?!
──違う。美への探究心。さすギャルだろうっ。
「なぁーんか、シラけちゃうなぁ。全然甘くないしぃー」
あまりにも身勝手な着地点……。でもやばい、あからさまに不機嫌になってしまった。
◇◆◇◆
「す、すごい! すごいよアヤノちゃん!!」
リップグロスを塗ってあげたら、子供のように目をキラキラさせて喜びだした。ひとまず安心。
やっぱり可愛いなぁ。出会いは背中からの一刺しだったけど、そんな事はどうでもよくなってくる。
「それあげるっ! 良かったらだけど……もらってくれる?」
「ううーー、まじ?! い、いいの?!」
可愛い。もうなんでもあげちゃうよっ!!
「ありがとうだよっアヤノちゃん!!」
ギューっと抱きしめられ大き過ぎず小さくもない、程々のエリリンの胸がギュウっと押し付けられる。
ほっぺが触れ、控えめな長さのツインテールが鼻をなびく。くすぐったくも甘い。
ギャルの匂いに浸っていたその時、
二人が視界に入る。いつかのあの光景が。
「カシス。いつも悪いな。こんな役回りばかり……」
「いいえ。レオの為でしたら、わたしは構いません。力になれて嬉しいです」
あぁ、この展開か。結局、また死んじゃうんだ。
わんわんモードへは移行出来そうもない。
──いっそ揉んでしまうか?
な、なぁーに。女の子同士のなんてことないボディタッチだ。い、いいよね? 痛いのは嫌なんだ。
もういい揉んでしまおう! と、決断した時、
エリリンも二人の話し声に気付いたようで「あーあ」と小さく声を漏らした。
「はぁ。雑音が聞こえるなぁー。うざいなぁー」
よしっと動きだし、ニコッと笑ったかと思えば抱き付く手を離し、箒に跨った。
あっ始まる。戦闘態勢に入ったんだ。どうしよう……。もう揉めない。
「ほら早く! 乗って乗って!」
えっ? 乗る? 箒に? 俺が?!
予想外の展開にあたふたしていると、「もうっ」と、強引に後ろに乗せられてしまった。
えっ?
「落ちないようにちゃんと掴まっててねー!」
「あっ、うんっ」
ピタッと背中にくっつきギュッと抱き付く。
綺麗なうなじ、華奢な背中。
周囲を静かに風が纏い始める。小さくも頼もしいギャルの背中。当たり前のように二人を乗せ浮く箒。
地に足付かない初めての感覚。
さらにギュウっと強く抱きしめていた。
「あ、アヤノちゃん……そこは……違う……」
少し泣きそうな声を発しながら振り返った。顔は赤面、女っぽさが溢れる表情だ。
ドクンドクンドクンドクン。
無自覚の鷲掴み。ドクンドクンドクンドクン。
「ご、ごめんなさいっ。ま、間違えちゃった」
「うん……。手はここ。ここね……?」
なんという奇跡。青春時代に体験出来なかった自転車二人乗りの極。ラッキースケベの頂をまさかこんな形で経験出来るとは。
ありがとう。もう、思い残す事はないよ。
──七回目、最高に幸せでした。




