第三十一話 ですですわんわんGOGOGO!
二千文字弱と普段よりも少し多くなってしまいましたが、これにて二章はおしまいです!
ピンポーン。
ーーガチャンッ。
「いらっしゃい。……あら、お人形さんみたいで可愛い子ね!」
「おじゃまします。今日はよろしくお願いします」
「あらあら、礼儀正しくて良い子ね〜」
「もーぅ! ママは出てこなくていいからぁ!」
ギュゥギュッと奥に追いやられる。仲は良さそうだけど、中学三年生らしい、微笑ましい光景だ。
「あやのちゃん! 上がって上がって〜。今日は楽しい事いっぱいしようねっ! 忘れられない……夜にしようねっ!」
誤解をしてはいけない。特に深い意味はない。
わかってはいるが……わんわん‼︎ ニッコリ笑顔で大きく頷いてしまうのだ。
チロルちゃんはお姉さん面をしてくる。それがまた堪らなく……わんわん‼︎
この三日、無自覚なボディタッチで意図も容易く「わんわん」としか喋れなくなる事、十数回。なんとも情けない話だ。幸か不幸かわんわんモードが今の関係を築き上げた。
時折、心配になる。
中身が俺。そう、おじさんだって事、忘れてないかい?
◇
カチャンッ。乙女の部屋改め、エデンの扉は開かれる。
「どしたの? 入って入って!」
扉の前で立ち止まる俺は、強引に手を引っ張られ……
夢と希望が惜しみなく詰め込まれた部屋に、足を踏み入れる。
綺麗な新築一戸建て、草木の手入れまで行き届いているチロルちゃんの家。
その部屋はなんと、四畳半だった‼︎
端にベッド、勉強机、真ん中にはテーブル、TVに大きな鏡、棚が二つ。
壁には学校の制服が掛けてある。紛れもなくここはエデンの園!!
無造作に置かれるファッション誌やコスメの数々がさらなる乙女を演出する。
息を吸えば乙女の香りが漂う。
タンスと畳の匂いが充満する俺の部屋とは別世界。
四畳半という空間の狭さにチロルちゃんと二人きりッ!
はぁはぁ。目の前の光景に理解が追い付かず、意識がもうろうと……次第にフラついてーー。
「大丈夫? 疲れちゃったのかなぁ?」
「わんわん‼︎」
やはり。そうなるよな。
この部屋は〝わんわんゾーン〟
もはや魔法陣だ。
どうやら、今夜のパジャマパーティーに言葉は無いらしい。
「んー、困っちゃったねぇ。とりあえず横になろっか!」
優しく抱えられベッドへと……。
「わんっ‼︎」
こんなんだから、お姉さん面が定着してしまったのだろう。決して不幸ではない。これは紛れもなく幸福!
「あまりこっちの世界に長く居るなって事なのかなぁ。日を重ねるごとに〝わんわんモード〟の時間が伸びてる気がする……」
えぇ、そうですとも! 日を重ねるごとに仲良くなってボディタッチも増えてますからねっ!!
まさか、あの日の嘘がこんな風に作用するとは。
でも言えないんだよ。これは大人の理。チロルちゃんにはまだちょっと……早いんだ。
「くぅーん……」
「大丈夫だよ。側に居るからねっ!!」
「くんくんくん。わんっ! わんわんっ!!」
「もーぅ! あやのちゃんっ、くすぐったいよぉ」
「ワオーーン‼︎」
ーー幸せだワン‼︎
◇
ベッドの上に並べられる二つのルームウェア。
フードにうさぎの耳がついたやつと、犬の耳のやつ。
言わずとも選択肢は決まっている。
「わんわんっ!!」
元気よく吠え犬耳フードのルームウェアを手に取った。
「あははっ! 良い子良い子。じゃあ行こっか!」
「わんっ‼︎」
◇
ちゃぷちゃぷちゃぷちゃぷワンワンわん‼︎
ちゃぷちゃぷちゃぷちゃぷワンワンわん‼︎
◇
さすがに刺激が強過ぎた。危うく死ぬかと思った。
だからこそ、わかった事がある。一人の女として精一杯に接してくれている事に。
だってもう、俺は男では無いのだから。
この気持ちだけは裏切れない。
賢者のように、聖者の心で接する!
「わんわん‼︎」
ーーしかしわんわんモードが全てを否定する。
この国、日本で初めて優しくしてくれた女の子。
仲良くなった子。遊んだ子。一緒にお出掛けした子。この世界で数えきれないくらいの初めてをたくさんもらった。
多分もう、好きなんだ。今思えば、一目惚れだったのかもしれない。
…………。あれ、何処かで聞いた事あるようなセリフ。ーー気のせいか。
好きなんだ。大好きなんだっ!!
「わんわんっ!!」なんだ!!
「はいはい。お着替えしましょうねぇ〜」
「ワンっ!」
◇
楽しい時間はあっという間に過ぎる。あんな事やこんな事。
チロルちゃんに腕枕されながらベッドで横になった。
そして、幸せの背後からひしひしと迫り来るさよならを意識し始める。
ーー気付いた時には大粒の涙を流していた。
そんな様子に気付いたのか、ギュッと頭を抱きしめてくれた。チロルちゃんの体温を感じる。
「ごめんね。全部わたしが悪いんだ。本当に……ごめんね。巻き込んじゃって。ぐすっ」
違うんだ。この誤解は解かなければいけない。
さよならの前に。感謝しかないんだよ。
この涙は君の事が好きだから。大好きなんだ。
「わんわん」
「わんわん」
「わんわん」
伝えたい事を何一つ言えずに七回目を迎えるのか?
嫌だっ。そんなの嫌だっ!! 絶対に嫌だ嫌だ嫌だ‼︎
「俺はチロルちゃんの事が好きだ‼︎ 大好きだ‼︎」
あっ。それは唐突に出てしまった。どうせワンワンとしか喋れない、そう思っていたんだ。
泣きながらも驚いた様子のチロルちゃん。今度は俺が頭を抱きしめた。
「大丈夫だよチロルちゃん。全部任せて。この戦いは俺が必ず終わらせる」
「う、うぅ。おじさん。おじさん‼︎」
やっぱりわかってたんだ。いっぱい無理させちゃったね。
「チロルちゃんには感謝してるよ。ずっと空っぽだったんだ。コップの中に無理やり砂を詰めてくような人生だった。飲めもしないのに。今は、綺麗な聖水が注がれている。それも溢れんばかりにさ!」
「なにそれ、よくわからないよぉ! あははっ。ぐすっ」
「ありがとうって事だよ。あやのちゃんになれた事、チロルちゃんと出会えた事。全部ありがとうなんだよ!!」
「でも……でもっ」
さらにギュッとし頭を撫でた。
こういう時に掛ける言葉が思い浮かばない。持ち合わせていないんだ。そんな人生だった。
「わたしも……おじさんの事……好きっ」
また、無理させちゃったね。
でもわかる。これ以上言葉はいらない。〝好き〟の意味はたくさんあるのだから。
ーー泣き止むまで、涙が枯れるまで撫で続けた。
あの憎たらしい天の声がこんなにも可愛いくて良い子だったなんてな。最初の俺に教えてやりたい……。
会ってみないとわからない事、たくさんあるんだなぁ。
チロルちゃん。本当にありがとう。
◇
ーーそして、俺は七回目へ旅立った。
二章完!ここまでお付き合いいただきありがとうございました‼︎
ブクマ、評価ポイントもありがとうございました!!どうにかここまで書く事が出来ました!
次話から三章へ突入いたします。
何話か書いてみて辻褄やバランスを調整してから投稿いたしますので、お時間をいただきます。少々お待ちくださいm(__)m
予定では最終章です!
引き続き最後までお付き合いいただければ幸いでございますm(__)m




