第三話 ですわ……。
あはっはははっ! あはははは!!
この胸の高鳴り。もう抑えられない。
決めたっ。もう決めたっ!
どうせ死ぬんだ。だったら楽しむ!
人生楽しんだもん勝ちっ! あはっ!
さて、お楽しみをするには……セバスが邪魔だな。
どうせ瞬コロされるだけ。逃してあげるか。
「セバス。あなたは逃げなさい」
「いえ、この命、アヤノ様と共に」
「命令よ。あなたに此処に居られると不愉快なの。おわかり?」
「あ、アヤノ様……?」
なんという忠誠心。まぁ、屈強の戦士たる見た目の爺さんがメイド服な時点でおおよそ察してたけど。
「タキシードに着替える事、城を出たら振り向かない事、余生は幸せに暮らす事。これは命令よ。逆らったら死んでも許しません。よろしくて?」
棚に置いてあった扇子を広げ、蔑んだ目でベッドの上から見下ろしてっと。──完璧ッ!
「う、うわぁぁぁぁぁん。アヤノ様…………アヤノ様ぁぉぁぁ」
やめろって。二回目でもこれは堪える。
ミニスカメイド服で男泣き。はぁ。
扇子を閉じ立ち上がり……ドアに向けてっと。
よしっ。それらしいポーズの出来上がり。
「お行きなさい!!」
「なりません。アヤノ様、、アヤノ様ぁぁぁぁぁ」
「さぁ行くのよ。サーン、ニー」
「この御恩、死んでも尚、来世に渡り忘れません」
「イーチ。さぁ、セバス! 急ぎなさい!!」
「感謝の極み。うぅ」
〝スッ〟
じゃあなセバス。三回目があったら、また会おうな!
さ・て・と。ふふふっ。
これでこの部屋には俺だけ。
ふふっ。ふふふっ。
やばいやばい。勝手に顔がニヤけてしまう。
レオ様ぁぁぁ!!
アヤノはこのベッドの上に居ますよぉぉぉぉ!!
──きゅん。きゅんっ。
あの耳打ち……ベッドの上で仰向けになれば、馬乗りに押し倒されて……覆い被りながら……きゃっ!
えへ、えへへ。
だらー。あっヨダレが……はぁはぁ。
レオ様きゅんっ! レオ様きゅんきゅんっ!!
あはっ♡
……………………。
……………………。
クソッ。もう一人の俺……出しゃばってくれる。
でも、この気持ちを受け入れれば死への恐怖は無くなる。
上等ッ! 受け入れてやるよ!!
──さぁ、キュン死にルートの開幕だ!!
◆◇◆◇◆
バタンッ。
「ゴクアーク! 追い詰めたぞ!」
来たぁ! イケメンのレオ様ぁぁ!
勢いよくドアドンをして登場したぁ!!
──きゅんっ。
「ひゃぁッ」
ベッドの上で怯えるフリ。ふふふっ。
タタタタタタッ。走って来なくても逃げないよぉ。レオ様、わたしはここです。アヤノはふかふかベッドの上から動きません!!
「お嬢さん。悪く思わないでくれよ」
はぁはぁ。剣を突きつけられ馬乗りでの耳打ち。
もう死んでもいい。最高ッ。
でも……欲が出ちゃう。
このタイミングでさらに怯えるフリッ!!
「ひゃぁぁ。死にたくないよぉ。死にたくないです……」
本当の気持ちだけど、今はそれよりも……。
「ごめんな。俺は君を殺さなければならない。せめて安からに」
ボーナスステージきたーー!!
〝〝耳が幸せぇぇ!!〟〟
スパァーーーーン。一閃。
微かに残る理性の中で、真っ赤に染まるシーツが見えた。前回より幸せに死ねた。不思議と痛くない。
──もう、いいかな。
ありがとう人生。
ありがとう異世界。
ありがとうレオ様。
◇◆◇◆◇◆◇◆
『変態!! 最低ッ!!』
脳に声が響く。あっ、このパターンは……。
『ごめんなさい。でも無理だよ。どう安からに死ぬかって事だけ。それで精一杯。幸せに死ねた。もう悔いはないよ』
『残念ね。あなたにもう少し女子力があれば……。所詮はおじさんって事ね』
ピキッ。……やめよう。
言い返すだけカロリーの無駄。
『そうですね。では、もう終わりにして下さい』
『貴方に魔道具を二つあげるわ。清楚系美女になるのです。縦巻ロールにさよならを告げるのです』
──話聞いてる?
◆◇
ハッ!! 三回目……だと?
棚の上に不自然に置かれる二つの物。
化粧落とし? と、アイロン?!!
──こうして三回目の一時間ループが始まった。
二つの魔道具を駆使して…………はい。死ぬ事になります。
だってこれ、どうみても魔道具じゃないもん。