第二十九話 ですわんばー!
「あやのちゃん何飲むぅ?」
「ううん。一緒に行くっ!」
なんて幸せな時間だ。
仕方なく母ちゃんの服を拝借して外に出たところから始まり、仲良く色違いのワンピースを買ってお着替え!
そのあと美容院に行って毛先を整えてもらい、ファミレスで昼食。
王道ドリンクバー何飲むトーク!
しかも全部奢り。お金がないと泣いていたはずなのに、お財布からはポンポンとお金が出てくる。
女子中学生に奢られる。なんとも情けない話。必ず返すからねっ。
ーーいつでも向こうへは戻れるらしい。一時間ループは好きなタイミングで開始できる。
自我喪失のリスクがある以上、次で確実に勇者レオを射止める。だから女子力を磨く旅に出たんだ。
でもこれはデート。目的を忘れて楽しくなっちゃってる事は秘密。
◇
「ねぇねぇ、それコーラだよね?」
「ん? そうだよ!」
「ど、どうしてガムシロップ入れるの?! ねぇあやのちゃん?!」
「えへへ〜!」
うん。なんて幸せで楽しい時間なんだ。ガールズトークってやつかな。きっとそう。
テーブルを挟んでジュースを飲んでるだけなのに楽しいッ!
「それはなぁに?」
「うんとね、レモンにガムシロップをかけて、お砂糖を振りかけてー。ん〜美味しい!」
「あやのちゃん‼︎ だ、ダメだよぉ‼︎」
「えへへ〜!」
ガールズトーク最高だぁ。まさかこんな日が来るなんてなぁ!
◇
「レオはさ、女ったらしでハッキリしない奴なんだよ」
「だよねぇ。アカシックレコードで見てるからわかるよぉ。なんて言うかだらし無い男だよね……」
「だよねだよね? どうしてあんな男がモテるのか謎っ!」
「うんうん。結局さ、惚れたら負けなんだよぉ!」
そして、恋話! ナイフとフォークでハンバーグを突きながらの! こんなに美味しい料理は初めてだぁ!
肉をむしゃむしゃ食べながらする恋話!
この瞬間だけは肉食系女子とでも言っちゃう?
「顔だけは良いからね。実際、近くに寄られると胸がきゅんきゅんしちゃうもん。悔しいよ……」
「それは……イケメンの特権だね。レオってさ四股みたいな事してるんでしょぉ。ありえないよ! あやのちゃんっ騙されちゃだめだよ?」
「わかってる。わかってるけど……イケメンだからなぁ」
「だーめ!! チロルと約束してっ?」
「うんっ! 約束する!!」
四股ってわけでは無いけど、恋バナガールズトークは盛ってこそ火がつく!
じゅるるるる。
ジュースが無くなればおかわりをする!!
止まらない終わらない幸せな時間!!!!
「惚れさせて追放するっ!」
「そーだそーだ勇者追放! あやのちゃんその意気だよ! クズ男に鉄槌を‼︎」
指差してマジ顔のチロルちゃん。どっかでみた事あるポーズ。可愛いのはもちろんだけど、勇気をもらえる。
ひとりぼっちじゃないんだ。
TS転生しただけでもご褒美なのに現役JCがサポーター。しかも気が合う。仲良くなるのに時間は掛からなかった。
魂の共鳴? シンパシー?
もうね、チロルちゃんとはズッ友だよ‼︎
◇
「気掛かりはわんわんモードだよねぇ。発動条件さえわかれば……」
言えない。チロルちゃんにギュってされて興奮したからわんわんモードが発動したなんて絶対に言えない。
極度の興奮状態さえ治れば解除される。簡単な話!
「そ、そうだねッ!!」
しかし、ここは知らないフリをしてやり過ごす。
チロルちゃんはまだ知らなくていい大人の世界の理なんだ。ごめんね。優しい嘘だと思って許しておくれ。
◇◆
「わんわん‼︎」
「わんわん‼︎」
「「あははっ!」」
突如始まるわんわんごっこ!
初めてのデートで幸せな楽しい時間。
この時間が永遠に続けば良いのに。
ーーだからこそ、お別れをしなくちゃいけない。
この世界への未練が大きくなる前に、大切な物を売り払う。
明日はきっと今より辛くなる。明後日はもっと。
チロルちゃんとのさよならは確定してる。
一日でも早く、向こうの世界へ出発しなければ取り返しがつかなくなる。
空っぽの財布の中にレアカードを忍ばせて来た。部屋に飾っていた家宝の限定カードさ。手始めに今日、これを売る。
大きな一歩を踏み出す。
この世界にさよならを告げる為の一歩を。
ウィッチたちの事は放っておけない。
チロルちゃんを縛り付ける魔法もどうにかしてあげたい。
この世界にとどまってもバッドエンドにしかならないんだ。
ハッピーエンドをこの手で掴み取る‼︎
ブクマありがとうございます‼︎




