第二十六話 デスワーチ!
チロル視点です。
ハリケーンゲッツの残数は1、2、3、、、、23個‼︎
幸せな一週間だったぁ。
でも、退屈で辛い事もたくさんあった。
いわゆるタイムパラドックスは起こらないようになってるみたい。何処と無く偽物というか、やっぱり、現実味を帯びないというか。そんな感じが漂う……。
ウィッグを買ってあげたかったんだけど……お姉ちゃんもママもパパもお小遣いをくれなかったの。
離れて暮らすおばあちゃんにも電話をした。「また金か」って怒られちゃった。初めてなのに……。
もう一人のおばあちゃんにも電話をした。「もう金ならないよ」って。もうって何……。初めてなのに。
変な詐欺に引っかかってそうで心配になっちゃったよ。
これはきっと因果律ってやつだよね! お小遣いがもらえないようになってるの。
この世界線ではウィッグを用意できない。
きっとそう。そういう事なの。因果律の収束なの!
でも! ハリケーンゲッツは本物!
チロルはこれさえあれば細かい事は気にしない!
◇
はーいはい月曜日さんこんばんわぁ!
ーー毎週恒例。憂鬱な深夜0時。
バタフライエフェクトの扉が開かれる。
今週のアカシックレコード……えっ?
168時間? えっうそ?!
なにこれ、ここどこ?
、、、、えーーっ?!
ゴ、ゴクリ。……ヨレヨレのTシャツに色褪せたトランクスを着る可愛い女の子。ってこれアヤノちゃん?!
中身はおじさん?
あっ! そんなとこ掻いちゃダメッ!!
だ、だらしない……これは絶対におじさんだぁ。
でも向こうの世界に居た時と様子が違うような。なんだか切なげ。
前回行った時は暗くてわからなかったけど、すごい部屋。
六畳くらい。真ん中にベッド。ドアを開けたらすぐベッド。部屋の中心にベッドがあるの。
ベッドを囲うように棚、デスク、TV。この部屋にテーブルは無い。
ベッドを中心として全方位に夢を詰め込んだような部屋。
ーーうーん。やっぱり何処か切なげだなぁ。勇者を追放するんだぁ! ハーレムを築くんだぁ! って言ってた頃の威勢はどうしちゃったの。
も、もしかして自我を喪失してる?!
◇
やっぱり様子がおかしい。一日中フィギュアを眺めてる。箱から出す事もせずにただ眺めてる。
次の日は……。また?! フィギュアを眺めてる。違うっ! ベッドの上に並べてる。なんなのこれ。
さらに次の日。泣いてるの? ねぇ、おじさんどうしちゃったの?
さらに次の日。4日目。
放心状態。無気力……。抱き枕が破れてる。暴れちゃったのかな。
5日目。
あれ? 服装がずっと同じような……ねぇ、あやのちゃん? お着替えは? お風呂は?
6日目。
そんなとこ掻いちゃ、めっ! あやのちゃん!!
7日目。
フィギュアを前にして泣き崩れてる。も、もしかして、自我の崩壊?!
やばい。多分色々やばい。ハリケーンゲッツを食べてる場合じゃなかったんだ。
あやのちゃん、おじさん!
おじさん、あやのちゃん!
『おじさん!! ねぇおじさん!!』
だめ。反応がない。どうして……。バタフライエフェクトの扉は開かれてるのに。
もしかして、死んでないから? 生きてるから?!
ーー行かないと。おじさんの家に行かないと!!!!
バタンッ! 勢いよく部屋のドアを開ける。当然閉める余裕はないっ! 着替える時間もない。パジャマ!
タタタタタタッ。廊下を走る!!
タンタントントンッ。階段を降りる。
ドーンッ! 最後はジャンプで着地‼︎ 玄関へGO!
待ってておじさん。今行くから!!
あー、もう靴紐が!!
「どうしたのちひろ?」
「ちょっと出掛けてくる!!」
「出掛けるってどこに?」
「おじさんとこ!!」
カタッ。タタタタッ。
「ちひろ‼︎ 何を言ってるの? 今何時だと思ってるの? パジャマ姿でおじさんのとこに行くの?!」
しまったぁ。それはもう鬼のような形相で両肩掴まれゆっさゆっさと玄関で靴紐を結びたかっただけのわたしは尋問されました。
の、脳が揺れるぅ〜、ママぁそんなに揺らさないで……。
ーーお、おじさん……。あやのちゃん……。




