第二十話 でーすですですでーすーわ!
「あわわわわ! アヤノちゅわぁぁん! どないしたんやぁぁ!」
ダメだ。涙が止まらない。
前回のあの結末が脳裏に浮かんで消えない。焼き付いてしまっている。
「ねぇ、レオ。ゴクアークの様子、変じゃない?」
「あぁ。極悪非道の限りを尽くしたにしては拍子抜けだな」
「そうじゃなくってぇ、もぅ!!」
ジャスミン姉さん……。
◇
「あーあー、しらけちゃうなぁ」
このタイミングでエリリンが喋り掛けてくるのか。こっちに向かってくる。
あぁ、もうダメだ。ルートをなぞれなかった。ゲームみたいに割り切れないよ……。無理だよ。
でも、次に繋げたい。観察……するんだ。
◇
「泣いてりゃ助かると思ってんのぉ? ねぇ?」
ふかふかベッドの前に来た。箒に乗ったまま脚を組み、やや上から見下してくる。
そーっと見上げる。……見えたっ。見下ろし感謝!
ふむ。黒の見せパン。
「やめーや! エリリン! 今はクマゴロウさんがお話をしてるんや!!」
「あー、まじ怠いこのクマ。ーーねぇカシスぅぅ! 邪魔なんだけどぉ〜?」
「シカトするっちゅーんか。ずいぶんと偉くなったのう? おいッッ!!」
お腹に手を突っ込みナイフとフォークを取り出した。
ーーそこ、ポケットになってるんだ。って、クマゴロウまさか戦うつもり?
「はぁ。そっちがその気ならカシス諸共、やっちゃってもいいーんだけどぉ?」
シュッ。
「今、刺せたで?」
「この、クマぁ!!」
エリリンは箒に乗ったまま猛スピードで距離を取る。しかしクマゴロウはぴったり着いて離れない。室内だからかイマイチ速度が出せていないようだ。
ーーそうか。エリリンは近接が苦手。
「ちょっとぉ、辞めなさいよ二人とも!」
ジャスミン姉さんの声は届かない……。
結局、クマゴロウを振り払う事が出来ず、エリリンは箒に乗ったまま壁を背に止まってしまった。
「13回や。このフォークを突き刺せるのに見逃した回数。生かされた気分はどうや?」
「ははは。舐めた口を聞くじゃない……」
苦笑いをするも動じる様子はない。ーーササッ。
「あー、あかんで? 少しでも怪しい素ぶりをしたらグサッ! と、フォークで刺したるからのう?」
フォークをぷらんぷらんとさせ嫌味満点! さすがはクマゴロウ!
「うっ……。そっちがその気ならこの城ごと吹き飛ばしてもいいのよ?」
「な、なんやて?! それはあかん!」
ドドドドドッ。
「はいはい。そこまで。おしまい! ほらカシス、クマゴロウを止めてあげて」
パンパンッと手を叩く音が響き渡る。
さすがです。ジャスミン姉さん!
「はぁ。わかりました。ーークマゴロウおいで! もうおしまいだよ」
「なんや? カシスちゃんに言われたらしゃーないのう!!」
グサッ。グサグサグサッッ。
背を向けた瞬間だった。一本の剣がクマゴロウを貫通した。そのまま五本、十本と立て続けに刺さる。
儚く散るクマゴロウ。
「あー、くだらない。ねぇ、くだらないと思わなぁい?」
壁に追い詰められていたはずのエリリンは脚を組み直し、高らかに笑いながら語り掛けた。
カシスちゃんがギロッと睨みつける。
深く溜息をつき、ジャスミン姉さんが口を開いた。
「はいはい。カシス。気持ちはわかるけど落ち着こうね。こうなったのはあなたにも原因があるんだから」
「…………」
カシスちゃんは返事をしなかった。そんな様子を見かねてか、ヒメナちゃんが駆け寄る。
「クマゴロウは後であたしが治してあげるよ!」
「ありがとうございます……」
「ともだちだもんね!」
そっと抱き、肩を寄せ合った。
二人の姿をジャスミン姉さんが、わたしをシカトして良い度胸してるわね? と、言わんばかりに見ていた。
そして、攻撃的な口調で……。
「あらやだ。シカトかしら?」
ーーなんだかヤバイ空気に……。
◇
レオ様は…………。
床に座りサンドウィッチを食べていた。
俺、関係ねーし。知らねーし。
そんな感じが伝わってくる。
前回は曲がりなりにも止めに入ってたのに。血が流れて初めて焦るタイプ?
それともこの程度は日常茶飯事なの?
◇
ーーあっ、察し。
この人間関係はギリギリなんだ……。
仲の悪いギャルとロリが相容れないっていう簡単な話じゃない。もっともっと根深い。
ねぇ、レオ様。しっかりして!!




