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第十四話 で……す……わ……。


 大変な事を思い出してしまった。

 クマゴロウの正体。わかった……。



 あの熊はカシスちゃんのエア友達。


 熊から声は出ているけど腹話術‼︎

 カシスちゃんが魔法で操っているだけッ‼︎


 つまりはカシスちゃんッ‼︎



 その事をみんな知っている。でも知らないフリをしている。それに気付かないカシスちゃん。



 うわぁ……思い出さなきゃ良かった……。



「姉さん、はよ! こっちやこっち」

「はいはいクマゴロウ」



 こっちに来る……平常心。平常心。



「ほな、姉さんたのんますわ。アヤノちゃんは動いちゃダメだぞぉ〜!」


 

 これ。これこれ。ところどころ語尾がおかしくて、エセ関西弁なのはカシスちゃんが喋ってるからなんだよなぁ……。




「ゴクアーク。両肩に手を乗せるわよ? 動かないでね?」


 ジャスミン姉さんが目の前に。ふかふかベッドの上に正座をした……。アヤノちゃんと呼んでくれない……。


 前回はこの胸に顔を埋めてたんだ。こ、今回だって‼︎


「わんわん‼︎」

「はぁ? あぁ?!」

「ご、ごめんなさい……わかりました動きません」


 あわわ。めっちゃ怒ってる……。

 ぶさかわじゃないと愛でてくれないのかなぁ……。

 こんなにも近くに居るのに遠い……。切ないよぉ。


 ◆



「うっひょお〜! おっきなお山が1、2、3、4つも‼︎ 絶景かな? 絶景かな? どれどれ、ツン! ツン! ツンツン‼︎」


 右手と左手を交互にワンツーをするかのように。胸をツンツン。ーーこ、このタイミングで⁈



「あーん。もぅ! クマゴロウやめて! 神秘の泉でジャッジするんでしょぉ?」


 こ、これをカシスちゃんがやってると思うと……深い。深過ぎる……‼︎



「しゃーない。今は我慢したるわ!」


 か、カシスちゃぁぁぁぁぁん‼︎

 深過ぎるよ、色々とぉぉ‼︎ もっとやってもいいんだよぉぉ‼︎



 ──カシスちゃん本体は……ヒメナちゃん、レオ様とお話中。

 何事もないような涼しげで普通の顔をしている。


 深い……。


 ◆◇



「慈悲深き水の女神よ…………」


 ジャスミン姉さんが詠唱を始めた。割と大規模な魔法らしい。


 あ、目の色が湖のように青く変わった。


 「ジャーーッジ‼︎ バキューーン‼︎」


 えー⁈ 両手で鉄砲のポーズをして撃ってきたぁ?!


 あ、やばい。目の中に吸い込まれる感覚……あ、意識が……意識が……うわぁぁぁぁぁ。の、飲み込まれるぅぅぅ……。う、うわぁぁぁぁ。



 ◇◆◇◆



「あれ……わたし……?」

「おはようさん! よう頑張ったなぁ! ええこや」


 クマゴロウがイイコイイコと言わんばかりに頭ではなく胸を撫でてくれた。おい!



 五分ほど寝ていたらしい。ジャスミン姉さんはまだ寝てる。けど、じきに目を覚ますとの事。



「なぁなぁアヤノちゃん! うちの近くにな美味しいクレープ屋さんがあるねん! お家帰ったら行こなぁ」


 クマゴロウ……いや、カシスちゃん。


「うん。行ってみたいな」

「ほんなら、約束や! カシスちゃんも呼んで三人で行こな!!」



 はぁ。どうしよう。死にたくなくなって来ちゃうよ……。嫌だなぁ。こういうのは苦手だ……。


 死にたくないなぁ……。


 ◇


「ハッ‼︎ はぁはぁはぁはぁ。ジャッジは白よ‼︎」


 ジャスミン姉さんが目を覚まし〝白〟と言った。生存ルートに光が見えた瞬間だった。



 だった……はずなのに、お腹から剣が飛び出してきた。


 真っ赤に染まるシーツ。

 真っ二つで横たわるクマゴロウ。


 どうやら背中から刺されたみたい。


 ──痛いとか驚くとかはもう少し先。今はただ、剣を認識するので精一杯。



 ──ごめん。クレープ屋さん行けそうにないや。


 ◆◇


 生に執着しようとした途端にこれだ。


 糸のように何重にも絡まって解けない。救いようのない破滅エンド。


 ──運命? そんな生易しい言葉では片付けられない。

 だって、死にたくないって思っちゃったんだから。生きたいよ……。


 ◇◆


《氷結ッ! アイスホールド》


「アヤノちゃん大丈夫?!」



 刺された箇所が凍っていく。

 剣は刺さったまま。止血……。



「ぐはっ……お、お姉さん……名前で呼んでくれた……。わ、ぐはっ。わんわん‼︎ がはっ」

「バカ! 死なせないわ」



 多分もうじき死んじゃうけど、不思議と痛みはない。



 ──あぁ、そうか。わんわんモード。


 ◇



「ころすころすころすころす。エリリンころす」


 禍々しいオーラを纏いカシスちゃんが歩きだした。ダメだよ……。



 ──この場にはもう一人居たなぁ……。すっかり忘れてた。


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