第十話 でっすっわっ♪
やだ。だめ。絶対だめ!
ここまで、セバスの功績……1つもない!
鏡に映るセバスは自信ありげ。
さぁて、歯磨きでもしようかな? そんな当たり前の雰囲気。
知ってるんだから。
アイロンで火傷して指をフゥーフゥーしてた事。
おしとやかな美しいメイドを連れて来なかった事。
じじいの癖にドジで間抜けで、
涙脆くて……人間味があって……。
わたしの事を一番に大切に思ってくれて……。
死ぬとわかってるのに側に居てくれる。
ダメよ爺や。もっと自分を大切にしてッッ!
ううん。いいの。アヤノはいいの。
もっと自分を大切にしてッッ!
…………。途中からおかしくなっちゃったな。
このジジイはダメだ。絶対ダメ。
下手したらマルコメ。上手くいってもスポーツ刈りにされてしまう。
「セバス。そこまでよ。わたくし、自分で切りますわ」
「さようでございますか。残念至極」
その言葉はおかしいでしょ?!
シュンっとあからさまに元気を無くしやがったし。
危なかった。髪の毛ジェノサイドになっちゃうところだったよ。
「下がりなさい。そしてこの部屋から出て行きなさい」
「かしこまりました。ご用件があればまたお呼びください。残念至極……」
〝スッ〟
また言いやがった……残念至極って二回も言った。
遊びじゃないんだよ。女の子にとって髪は命なの!
でも、椅子を持ってきた事は評価しよう。
あとはアラームだな。勇者が乗り込んできたと毎回教えてくれる。
勇者乗り込んできましたよアラーム要員さん。
立派に責務は果たしてるじゃないか。
少し不器用なだけ。そういう事にしとこ。
◆◇◆
チョキチョキチョキチョキチョキチョキ。
あはっ‼︎ 梳きバサミ楽しいっ!!
切っても切っても長さが変わらない‼︎
チョキチョキチョキ。
チョキチョキチョキ。
あはっ‼︎ これ癖になるやつ‼︎
チョキチョキチョキチョキチョキチョキ。
…………。
やっちまった。なんだろうこのお約束。
癖になっちゃだめだろぉぉ……。
──うん。梳き過ぎてしまった。
〝切った髪は元には戻らない〟
俺の人生というなの教科書に刻もう。
なにごとも経験さ。今回はお勉強という事で。
二回目だから……今回〝も〟だな。
三回目はない。これは断じでフラグではない。
二回目で極地に到達したッッ!!
〝切った髪は元には戻らない〟
忘れない忘れない。絶対忘れないッッ!
◇◆
アヤノ可愛くなるんだもんっ!! 諦めない……。
要はボリュームを出せば良いんだ。
出でよっ! マドーグワックーース!!
……。気分だけでもね?
カチッ。ド中古ワックスの蓋を開ける。
パッケージを見る限りナチュラル系。
時の経過を感じさせる残量1割。
容器の端でちょっと固まってしまっている。
しかしこれは好都合!
ハード系ワックスさんこんにちは!
固形っぽいそれを取り、手のひらで伸ばす。
伸ばして伸ばして……。
髪に〝バサッッ〟揉み込む揉み込む……。
ふっわふわ!!
ふっわふわ……。ふっわふわ……? なにか違う。
サイドのこの辺り、1〜2cmを三つ編みに──。
◆
トントンッ。
えっ? もうセバスアラームの時間?
まだ途中なんだけど? 終わってないんだけどぉぉ?
「勇者が乗り込んで来ました。御覚悟を」
はい。アラームご苦労様。お疲れ様セバス。
──色々と中途半端。今回もまた……ダメかもしれない。




