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禄太郎の姿が見えなくなるまで、響は口を開くことが出来なかった。
綾女もまた、そんな響を思いやったのか、黙ったままその時を待った。
やがてーー
「綾女さんはあの男を知っているんですか?」
その質問に綾女はすぐに答えた。
「あなた、西ノ宮については知っている? あの男はねその『宮家陰陽寮』を束ねる四家の一つ青龍の家系である蒼鬼家の人間よ。蒼鬼百太郎。それが彼の本当の名前」
「……蒼鬼」
その名前に聞き覚えがあるような気がした。だが、ハッキリとは思い出せない。「さっきボクについて……玄野響という人について教えてくれると言っていましたよね」
「そうね、そう言ったわ。私の一存でこれを話していいかどうかはわからない。でも、黙っているのもキミにとってはプラスにはならないでしょうね」
「教えてください」
綾女は小さく頷いてーー
「玄野響、それはね宮家陰陽寮を束ねる四家、玄武の家系である玄野家の長男だったのよ。若くして優れた陰陽師と噂される人だった。人望も厚く、いずれは必ず宮家陰陽寮の首領となる人物と見られていた。そして、その結果、お家騒動の中で暗殺された」
「暗殺……それじゃ、その犯人があの人」
「その詳しい事情は私も知らない」
「でも、あの人はそう言っていました」
「そうね、でも、あいつが本当のことを言っているとは限らない。あの男の言うことをそのまま受け入れないほうがいいわ。あいつの言葉は毒でしかない」
「じゃあ、真実は」
「自分の目で見つけるしかないでしょうね」
「見つけられるんでしょうか?」
「見つけたいんでしょう?」
響は頷いた。
そうだ。真実は自分の目で見つけるしかない。
了