03
地図ワープでファンタズム召喚課の校舎にやって来ました。
おお、モフモフがいる!
既に召喚を終えてダンジョン探索から帰ってきた人たちでしょうか。
私も早く、早くダンジョンに!
そのためにはパートナーです。
私を守ってくれる前衛のモフモフをゲットするのですよ~。
校舎に入ると、受付カウンターがありました。
学校の校舎なのに、なんか想像してたのと違います。
まあゲームだし、ファンタジーだし、普通の学校とは違う部分が多少なりともあるのは仕方のないことなのでしょうね。
こんにちは、召喚しに来たんですが。
「おやおチビちゃん。あなた新入生ね、召喚は初めてかしら? お名前を聞かせてもらえるかしら」
はい、メリザンドです!
「メリザンド……メリザンド……確かに。ようこそファンタズム召喚課へ。召喚の儀式を行うには、受付に声をかけてね」
はい、召喚したいです。
「召喚の儀式には2種類あるの。まずひとつ目は通常の召喚の儀式。これは儀式に必要な媒体であるマナ晶石が100個あれば可能よ。そしてふたつ目は特別な召喚の儀式。これは儀式に必要なマナ金貨が100個必要になるわ」
どちらも持ってないのですが?
「最初の召喚に必要なマナ金貨は、入学したお祝いとして学園が負担することになっているの。だから特別な召喚の儀式を行うことができるわ。今から行う?」
やります!
やらせてください!
早く、早くガチャりたい!
「分かったわ。……じゃあ校舎3階に行って、そこでギュードゥルン先生に召喚の手ほどきをしてもらいなさいな」
3階ですね。
さすがに校舎にテレポーターはないようで、階段で上がるようです。
3階ですしね。
うん?
なにやらプレイヤーたちがこちらを見てヒソヒソと話をしていますね。
何かおかしなことでもあったのでしょうか。
周囲に異変なし。
彼女たちの視線はこっちを……いや、私を見ている、ようですね?
何かついているのかな。
メニューで全身鏡を出して見ますが、特におかしなことは……っていやいや、ちょっと何この小さいの。
そういえば私、最年少入学とか言われてましたよね!?
周りのプレイヤーたちはみんな中高生くらいの女の子たちばかりなのに、私はどう見ても小学生ですよ!?
いやよく考えなくても12歳は小学生でした!!
つまり彼女らはちんまい私を見ていたのです!
しかし今更、私がこのアバターを捨てるためにログアウトしてアカウント作り直すだなんて……そんなことできるわけないじゃないですか!
だって今、実況中なんですよ!?
生で!!
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配信中です!!
……アバターなんてどうでもいいんです。
鏡を出さなきゃ見えない自分の姿より、早くモフモフを手に入れましょう。
◆
3階の一番奥にある教室のプレートに『召喚の儀式の間』とありますから、ここでしょうか。
こんにちは~。
「おや、これはまた小さいのが来たものだ」
あなたがええと……先生ですか?
「ギュードゥルン。特別召喚の儀式の顧問をやっている」
失礼しましたギュードゥルン先生。
先生は犬派ですか?
「なんのことだ?」
いやウェアウルフだし。
「私がウェアウルフなのは確かにそうだが、それがどうかしたか。ウェアキャットの……まだ名前を聞いていなかったな」
メリザンドです、ギュードゥルン先生!
「よろしくメリザンド君。まあ君がこの先、私にどのくらい縁があるのかどうかは分からないが、少なくともこの最初の召喚の儀式のときだけは私が担当だ」
そうですよねえ。
先生、課金しないとなかなか会えませんもんねえ。
さて唐突ながら視聴者の皆様にこの『マグ学』の課金仕様についてご説明しましょう!
通常の召喚の儀式に必要なマナ晶石とは、ダンジョンのボスやクエスト報酬で得られるそうです。
出てくるのは特殊な素材やアイテムなど。
一方で特別な召喚の儀式ではパートナーが召喚されます。
しかし特別な召喚の儀式に必要なマナ金貨とは、特定のクエストをクリアするか、課金して入手するしかないのです。
つまり課金しなければ、この3階に上がってガチャが回せる頻度は必然的に少なくなるのです。
ちなみに私はリセマラはしませんが、課金はします。
まあこのゲーム、課金すべきところはガチャじゃないんですけどね。
そこはおいおい。
「始めてもいいか?」
あ、はい。
ギュードゥルン先生、お願いしますっ!
「よし。では召喚の儀式を始める。……繋がれ幻想界の扉。数多いる幻想の住人よ。ここにある召喚者メリザンドに契約の機会を与えたまえ」
おお、床の魔法陣が凄い勢いで輝き出しましたね。
このゲームのガチャ演出は初めて見るので、当たり演出などがあるのかどうか。
……ん?
……んんん?
なんかシルエットが……あ、ちょ、駄目、それ違う。
「契約はここに成れリ」
ああー……。
モフモフじゃない奴が来ちゃいました。
ご覧の通り、木です。
トレント、という奴ですね。
いや待て。
これ、ただのトレントじゃない!?
《エルダートレントを召喚しました!》
エルダー!
ええと年老いたって意味ですっけ?
ゲームによく出てくる強そうな冠詞のひとつですね。
そうかそうか、おじいちゃんか。
モフれる奴じゃないのは残念ですが、まあハズレじゃなさそうなので良しとしましょう。
「エルダートレントは魔術を使うことのできる強力な種族だ。便利だぞ」
おお、強さに関しては先生のお墨付きをいただきました。
前衛のくせに魔法使いでもある、と聞くと中途半端になりそうですが、この巨体ならその心配もないでしょう。
《「クエスト:ダンジョンに行こう!」が発生しました!》
お、次はようやく実戦ですね。
そういえば寮で受けられるようになったクエストをクリアできますね。
両方とも受注しましょう。
《「クエスト:ファンタズム召喚課へ行こう!」をクリアしました!》
《報酬として『授業表』を手に入れました!》
《「クエスト:幻想召喚をしよう!」をクリアしました!》
《報酬として『帰還の札×5』を手に入れました!》
おっと即クリアになりましたか。
ええと、報酬は……アイテムですね。
『帰還の札』はダンジョンから脱出するためのアイテムらしいです。
『授業表』は大事な物の中に入ってますね。
どうやら名前の通り、いつ何の授業が行われているのかが書かれています。
授業……そうです、私はただゲームをしに来ただけではなく、学生生活を送るために来たんです。
ちょっとガチャとかゲーマー魂をくすぐる要素に一喜一憂してたので頭の中から転がり落ちてましたけど。
というわけで、授業も受けていきますよ。
薬草学とか【調合】スキル持ちには必須の授業じゃないですか、これ?
ええと20時開始……ってもうすぐじゃないですか!
ダンジョン行く前に先に授業を受けておきましょう。
初めてですね、教室で授業を受けるって。
漫画やアニメで見たような光景、あれ体験してみたかったんですよね。
じゃあ共通棟へ行ってきます!