学校で出された短編小説見開き1ページ分の課題。(冴えない男子が学園一の女の子にモテる系)
「響くん。ずっと前から好きでした。どうか私と、つきあってください」
……とある日の放課後。
冴えない高校一年生――鈴木響は愕然として目をみはった。
――おかしい、ありえない、これはいったいなんの冗談だろう。
さらさらと流れる亜麻色の長髪に、日本人離れした整った顔立ち。
すっきりと通った鼻筋に、ふわっと柔らかそうなちいさな桃色の唇。
宝石のようにきらめくはしばみ色のその瞳が、今、眼の前で唖然と棒立ちする響の顔を不安げにおずおずと見つめている。
(ううう、嘘だろ……こ、この人は……)
響は緊張で引きつった頬を押さえながら、眼の前のその少女の貌をじっと見つめた。
この美少女の名前は、姫咲結愛。
頭脳明晰、学力優秀、品行方正と三拍子そろった、この音霧高校二年の生徒会長だ。
その全身より匂い立つ柔和な雰囲気と落ち着いた情調から、学内でも男女問わず人気が高く、教師からの人望も厚い。
むろん成績のほうも優秀で、よく廊下に張り出される試験の順位表において、入学以来、彼女の名が一位の座から陥落したところを未だ誰も見たことがない。
それでいていつも謙虚で、丁寧で、そして優しい。
まさに、ゲームや漫画の世界でしかお目にかかれないような、男子なら誰しもが憧れてしまう完璧な美少女。
そんな学内ヒエラルキーの頂点に位置するような結愛に反して、しかし響は友達の一人もいない、クラスでも一切目立たない地味な存在。
ただでさえ学年も違うのに、彼女との接点なんてあるはずもない。
――それなのに。
どうしてこの人は、僕のことを好きだなんて言ってるんだろう。もしかして僕は、現在進行形で超悪質かつ盛大なドッキリにでもハメられている所なんじゃ……。
――と、響がいつものネガティブな思考にとらわれ始めたそのときだった。
「あの……」
不安げな上目遣いで響を見あげながら、件の少女――姫咲結愛が、その唇を震わせた。
「もしかして私のこと……おぼえて、いないんですか?」