鍛錬 3
初めての出会いから10年後の話の続き。
今回も短めです。
外に出たローズは家の周囲を見渡し近くにた立つ少し大きめの樹に手を当てる。
「…少し分けてもらうよ…」
小さく呟いたが夜の静けさの中ではアリクウェードにもその呟きが聞こえていた。
(樹と会話をしているようだ)
ローズの様子をボンヤリ眺めながら思う。
少しはなれた所にいた為、ローズの触れる樹だけが不自然にガサガサと葉擦れの音をたて揺れていることに気付く。小動物が・・・というレベルの話ではない程ガサガサと揺れている。
(敵か!?)
アリクウェードの表情が強ばる。右手を背部に回し、一心に樹を見つめていた。
「…あ―――…。そんなに警戒しなくても大丈夫だよ。私と一緒にいて誰かに殺されることはないから」
アリクウェードの様子に、一瞬苦笑したようにも見えた。
自分のことを笑ったのだということは直ぐに分かったようで少し頬を膨らませ拗ねたような表情を見せる。
そんなアリクウェードの様子にローズは口元に笑みを浮かべているが、瞳は笑っていない。
(ローズの瞳…何だか色が濃くなってる??)
樹に手を当てたまま動かないローズに見入るが、先ほどと様子が違うように思う。
風も無いのに、ローズの長いシルバーブロンドは緩やかに揺れている。
雰囲気の違うローズに、アリクウェードの心臓はドキドキと早鐘を打つ。
暫くガサガサ葉擦れの音をさせていた樹が静まると、樹から2本の枝が落ちてくる。
「怪我させるわけにいかないからな。これを使いな」
落ちてきた枝の1本をローズが投げて寄越す。それを難なく受け取り、握った枝を見て驚いた表情を見せる。
アリクウェードが城で使っている剣と同じ物…の木製版だった。使い慣れた、手に馴染む感じ…少し振り回してみる。違和感はない。
「重さも同じくらいに調整したんだけどな」
へへへ…と笑うローズをまた瞠目し見つめる。
「表情隠せよ。何時、いかなる時も」
それがアリクウェードの為になる―――と強い瞳で言い切る。
それから暫くは、アリクウェードの時間ができた夜ににローズを訪ね、剣の鍛錬を続けた。
元々、城でも騎士団と一緒に鍛錬をしており、団長クラスと手合わせしているアリクウェードだったが、ローズ相手に全く歯が立たなかった。
大ばば様から、国内外併せても最強の剣術の使い手だと聞いてはいたが、これほどまでとは思ってもいなかった。
「確かに、6歳の時助けてもらったが…」
鍛錬の間の小休止中にローズの強さについて話す。
あの時は単純に『すごい』『強い』としか思わなかったが、普通の人間が射られた矢を手で掴んだり、自分より大きな男、しかも訓練をしているような男の一撃を片手で受け止めることができるはずもない。
だからこそ、あの時の暗殺者達はローズの『退け』という言葉に従ったのだと、今なら分かる。
(あの時、ローズは『訓練すれば強くなれる』と言っていたが…)
普通に考えてローズより強く、若しくは同程度の強さになれる気がしない。
そのことをローズに話すと、
「私は『特別』なんだよ」
と、少し淋しそうに笑った。
ローズの表情に言葉を飲み込むアリクウェード。
「聞きたいことがあれば何でも聞いていいんだぞ~」
と、ローズは子供のように笑うが、飲み込んだ言葉はアリクウェードから紡がれることはなかった。
「遠慮するなよ」
まだ子供なんだから―――と悪戯っ子のように笑い、肘でアリクウェードを軽く突く。
「もう2年もすれば成人ですよ」
アリクウェードは少し膨れっ面で拗ねたように言う。
子供扱いが嫌だったようで、ぷいっと顔を背ける。
初めて出会ったのは6歳の時。それ以降会うこともなかった為、小さい子供のイメージのままなのかもしれないが、アリクウェードは現在16歳。微妙なお年頃なのである。
しかも、見た目が自分と変わらない。年頃に見える女の子に子供扱いされれば嫌にもなるというもの。
「悪い。からかい過ぎたか…」
読んでいただいて、ありがとうございます。