鍛錬 2
初めての出会いから10年後の話の続き。
今回は短め。
王宮の先見占い師(大ばば様)をオリーと、現国王をビーと呼ぶローズに理解できないモノを感じ取り、少し不安な表情を見せる。
「その表情やめなよ。何時でも、どんな時でもクールに。相手に己の気持ちを悟られるな!王座を目指すなら、己を守る力だけでなく必ず役に立つからな!!」
次第に力強くなるローズの言葉に瞠目する。
ローズと剣術の鍛錬を始めた頃にはアリクウェードはよく驚き、瞠目することもあったが、最近ではかなり減っていた。
初めはローズの魔法に、次にローズの剣術の強さに・・・言動にも驚かされることもあった。
最近ではかなり慣れてきたということもあり、アリクウェードはさして驚かなくなってきていた。
それがここにきて、『王座を目指すなら』とか、その言葉の内用・声の強さに驚かされた。
それでもアリクウェードのことを思ってのことであることに、アリクウェード自身嬉しさが溢れてくる。
「ああ…そうですね」
月明かりの中、柔らかく笑う。
アリクウェードの瞳からは嬉しさが溢れてるのが見てとれた。
ローズを捕まえておくように、アリクウェードはローズの腕を掴んだ。強い力ではなかったが、『決して離さない』という意思を持って…
「ん?どうした?」
戯けて笑うローズに何とも言えない気持ちでアリクウェードの瞳が揺れる。
ローズは何時でもアリクウェードのことを心配し、労い、助力してくれる。アリクウェードの幸せを何時でも願ってくれていることが言葉の端々、態度から読み取れる。
(では、誰がローズの心配をし、幸せを願ってくれるのだろう?)
そんなアリクウェードの様子にローズは、
「…気持ち…隠せてないぞ」
と、切なげな笑顔を見せる。ローズに隠し事ができないのは分かってはいるが、それに関してはローズが『真実を見抜く瞳』を持っている限りどうすることもできない。
アリクウェードは『ローズもな』と反撃するが、
「私はいいんだよ。…強いから…」
と、少し困ったように笑うローズを、アリクウェードは素直に『可愛い』と思った。
アリクウェードの心に気付いてか、ローズは話題を変える。
「まぁ、今夜はオリーに言われて来たのだろう?」
アリクウェードに背を向けて窓から外を見る。
「…ふ~ん…。馬は森の入り口付近か…。繋いでないんだな。これもオリーの指示通りか…。あいつは何処まで視えているんだろうな…」
また少し淋しそうな声音で月を見上げながら呟く。
(何だろう。ローズのこの感じ…知ってる…気がする…)
ローズの後ろ姿を見入っていたアリクウェードを振り向き、
「じゃあ、始めるか」
と、何の説明もなく言い、小さな小さな家の外へ促す。
ローズの何かを掴みかけた気がしたのだが、本来の目的を思い出し、
「お願いします」
と、何も聞かないが、何をして欲しいのか理解している様に言われたが、アリクウェードはそれには触れず、佇まいを直し小さく頭を下げた。
ローズはニコニコしながら『うんうん』と頷く。きっと、ローズには何も言わなくても理解しているのだろうとアリクウェードは考えていた。
大ばば様が何らかの連絡をしているとは思えないが、先ほどからアリクウェードのことを色々と言い当てている。しかも、王宮のごく一部限られた人間しか知らない、大ばば様の先見を毎年受けていることまで言い当てたのだから。
ローズが開いた小さな小さな家のドアを2人の影が通り抜ける。
1と2の間よりは切りが良さそうだったのでここで切ることにしました。
『鍛錬』まだ続きます。
読んでいただいて、ありがとうございます。