前国王との面会:王城での噂
時間が空いてしまいました。
久々の投稿です。宜しくお願いします。
アリクウェードに手を引かれ、王城への大きな門の前に立っていた。
あれから、王城へ向かい歩きながら、アリクウェードは自分のこと、父のことを簡単に説明した。
「・・・・ここは・・・・・」
前に王城に来た時と雰囲気が変わっている。あの時は・・・・思いを馳せた。
以前、王城に来た時とジョシューの治療の為だった。アリクウェードの即位の準備をしている隙をついて、倒れたジョシューを治療したのだ。
あの時、オリビアから王城で使われている侍女の制服が魔法で送られてきた時には何事かと思った。その中に手紙が入っていて、ジョシューの状態を知り、慌てて侍女服を着て、大量の薔薇持ち込んだ。
あの時は皆本当に忙しそうにしていた。誰も彼もが落ちつきなく、国王を心配する者、即位の準備をする者、その様子を落ちつきなく視線を動かして見ている者・・・・・。
(雰囲気が変わればこんなに印象が変わるのね)
これから久々にジョシューに会うことを考えて、少し表情が硬くなる。
ローズの様子に、アリクウェードは王城に、王家に、国王に関わることへの恐れから表情が硬くなっているのだと考えた。
「ローズ。大丈夫だ」
アリクウェードは繋いだ手に少し力を込める。ローズはビクッと肩を慄わせ、アリクウェードを見上げた。
魔力を抑えた状態ではあるが、会えばジョシューはローズに気付くだろう。ローズにしてみれば、堂々とジョシューの治療が出来るのだから、これ以上嬉しいことはない。しかし、何分にも急遽のことだ。ローズのことをアリクウェードに話してしまうかもしれない。賢いアリクウェードなら、ジョシューの態度で気がつくかもしれない。己のことを他人から話されるのはあまり好きではないのだ。
「王族とて人間だ。緊張することはない」
アリクウェードは穏やかな笑みを浮かべ、堅い表情のローズをリラックスさせるように優しい声音で話しかける。
アリクウェードの考えとは違う意味で緊張していたローズだったが、ちょっとした表情の変化にも優しく対応するアリクウェードにローズは胸のあたりが温かくなるのを感じた。
「はい」
1つ深呼吸をした後、アリクウェードに笑顔で応える。
(大丈夫・・・・。きっと大丈夫)
ジョシューとはとても親しかった。ジョシューが若い頃には色々なことを語り合った。ローズがそうであるように、ジョシューもまた、ローズの僅かな表情の変化でも伝えたいことを読み取ってくれるだろう。ジョシューがマリーと結婚してからはあまり会うことはなかったが、ローズはジョシューが若い頃から、姿形が変わっていない。髪と瞳の色は違えど、他は変わらない。
アリクウェードに手を引かれ、前国王の寝室へ向かう。王城の中を国王陛下に手を引かれ歩く少女。可愛らしい少女と手を繋ぎ、優しい瞳を向ける陛下に王城中は『陛下が街から少女を攫ってきた』という噂が瞬く間に広がった。
好きな人がいるからと、今まで女性を近づけることがなかった陛下が少女を・・・・。犯罪ではないのかと陛下と少女を見かけた王城で働く人々は噂した。
陛下が少女を連れて行こうとしているのは前国王の寝室。王城で働く者は皆、前国王の体調が良くなく、ベッドから離れることが出来ないということを知っているのだから、『陛下、結婚か!?』とまで噂されていた。
ローズはすれ違う人達から、驚き、興味の視線を感じ、顔を上げると『少女を攫ってきた』だとか、『結婚か!?』などという心の声が聞こえてきて、青くなったり赤くなったりしていた。その様子をアリクウェードが盗み見てクスクス笑っていたことには気付いていないのであった。
前国王の寝室へ向かう途中、噂を聞きつけ、少女を確認しに来た様子で、側近らしき男が近づいてきた。男は、少女を見て一瞬瞠目したものの、すぐに表情を隠すように会釈の角度で頭を下げたまま静止する。
近付いてきた男に気付き、アリクウェードは幾つかの指示をだす。それを「はい」「それは・・・・・」とアリクウェードの指示の内用を確認したり、アリクウェードの思うところを聞き返したりしていた。
一通り指示を出し終えたアリクウェードは男を自分の側近のハルリードだとローズに紹介した。
「今から父上の寝室に様子を見に行く」
「そちらのお嬢様もですか?」
ハルリード紹介された男は、顔を上げるとチラリチラリとローズのことを観察するように見ていたが、アリクウェードの言葉を聞き、別の意味に理解した様子で、ローズにキツイ視線を向ける。
(・・・・ちゃんと説明して下さい。睨まれてるし・・・・・)
アリクウェードと繋いだ手をほどくことはせず、ハルリードから姿を隠す様にアリクウェードの陰に隠れた。ローズにとってハルリードが怖いというよりかは、トラブルを避けたいという思いの方が強かったのだが、目の前の男2人には前者ととらえられていた―――ローズのことをあまりに知らないのだから仕方がない―――。
自分の陰に隠れるローズを、アリクウェードは『可愛い』と頬を綻ばせた。
そんなアリクウェードの様子を複雑な表情で見るハルリード。
「可愛いだろう?彼女はローズ。薬師なんだ。父上を診てもらおうと思って・・・・・」
甘い視線でローズを見ていたが、徐々に表情を曇らせていく。
アリクウェードの言葉でハルリードはローズへ向ける視線を変える。
(やっと、ちゃんと紹介してもらえた)
(陛下、藁にも縋る思いですか・・・・)
アリクウェードの陰から少し姿を見せ、ハルリードに小さくお辞儀する。
「ずいぶんと年若いようですが・・・・・」
「腕は確かだ。俺が保障する」
ハルリードを見据え、ニヤリと笑う。
(右腕のことを言っているのかしら?)
アリクウェードの陰から2人の会話を聞き、自分を遮る陰を見上げた。表情が見えない為、2人が何をどう考えているのか見ることができない。どうしたものかと考え込んでいると、後ろに控えていたロウがローズを後ろから押した。
何かが動く気配にアリクウェードが振り返った瞬間、ローズがアリクウェードにぶつかった。
「お。・・・・大丈夫か?」
ロウに押されてぶつかり、倒れそうになったローズをアリクウェードが抱き留める。
「・・・・・2回目だ・・・・」
小さく呟いたローズの声はアリクウェードの胸元の服に吸収されて、アリクウェードには聞こえていないと思われた。
(2回目?)
しかし、己の胸元で呟く言葉をアリクウェードは聞き逃さなかった。
ローズの言う、2回目の意味を考えるが、同じようなことは今までになかったと思い、更に過去を逡巡する。魔法使いのローズとは同じようなことがあったよな・・・・と思い出すが、髪も瞳も色の違う2人が同一人物だとは思えず頭を振る。
「陛下?」
ハルリードの呼びかけに、ローズとアリクウェードは我に返り、どちらからともなく離れた。
ローズが自分の後ろですました表情で座っているロウを睨むが、ロウは知らん顔。
アリクウェードは先程と変わらず、ローズを隠す様にハルリードとの間に立った。
相変わらず態度を変えないアリクウェードの様子にハルリードは小さく溜息を吐く。
「陛下。どうぞ、お急ぎ下さい」
視線で前国王の寝室へと促す。
「城内で噂が広がっておりますよ」
最後に小さく呟いた声はアリクウェードにしか聞こえなかったが、アリクウェードは表情を変えず頷き、ローズへと視線を移す。
「行こう」
アリクウェードがローズを促し、先に足を進める。ローズはチラリとハルリードを見、小さく頭を下げた。その様子に、ハルリードは柔らかく表情を崩す。
アリクウェードの後ろを歩くローズ。2人の様子を見ながら、ハルリードは小さく安堵の息を吐いた。
王城内で噂されているいるようなことは何ひとつ当たってないのだろう。2人の距離感、雰囲気はそんな様子であった。
アリクウェードの側近であるハルリードにとって、陛下と噂になる女性は初めてのこと。陛下ひいては国の為になるのであれば・・・・・と考えていたが、現在の2人の様子はそんな関係ではないことに、安堵と共に少し残念な気持ちになった。
『相応しい女性を』
城の誰もが思い描いていたことだが、今まで、女性と深く関わることがなかったアリクウェードに不安を覚える者も少なくはなかった。勿論、ハルリードもその1人だ。
以前、ハルリードはアリクウェードに結婚についてアリクウェードに尋ねたことがあった。
アリクウェードの応えは、「思う女性がいる」というシンプルなものだった。
今回、王城で噂になった少女がその女性なのかとも思ったのだ。でも、どうやらそうではなかったらしい。
「噂は訂正しておかねば・・・・・」
陛下と少女の後ろ姿を見送りながら、ハルリードは溜息とと共に小さく呟いた。
お読みいただきありがとうございました。
次話までも少しお時間いただきますが宜しくお願い致します。