再会:可愛い兄妹(後編)
(本当に親子揃ってソックリだぁ~)
そんなことを考え頬が緩む。前国王も現国王も『優しい』。民を思い、国を思う。
否、ヴィンローザ家は皆優しい善良な人間ばかりだ。
もともと、この国を建ちあげたのも、周囲の領主・領民達を守る為だったことを思い出す。
(初代国王はアリクウェードより濃い金色の髪だったなぁ)
目の色は王族はブルー。特に国王はサファイアかと思う程の色合いだ。顔立ちは若い頃の歴代の国王は皆よく似ている。受ける印象がそれぞれ違うのは性格からくるものだろう。
アリクウェードの髪を眺めながら思い出す。
この国が大国と呼ばれるようになるずっとずっと昔、この地にはこんな立派な王城などなく、他より大きな領土を持つ領主がいた。
領土の半分強は農業・牧畜に向いており、3分の1程は産業で成り立っていた。領主であるヴィンローザ家が上手く手綱を取り、領土内は繁栄していた。
しかし、その周囲では上手く領土を治められなかったり、災害で農作物採れず他の地へ移りゆく者達もおり、寂れていく一方という領主もいた。
そんな領主達から、ヴィンローザ家はよく助けを求められていた。ヴィンローザの領主達はいつも、どんな時でも他の領主達を助けていた。自分たちがどれほど困っていてもだ。
ローズは、そんなヴィンローザ家を見かねてよく助けていた。他の領主達からは、『魔法使いの守護を受けている』と言われるようになった。中には、『魔法使いの守護』を受ける為に領土を治めて欲しいと言い出す者もおり、次第にヴィンローザの領土は拡大していった。
大国と言われるヴィンローザ王国だが、攻められれば守る為に戦うことはあったが、戦を好まない領主・国王達だった為、侵略は1度もしたことがない。
古い思い出にボンヤリ思いを馳せていたが、アリクウェードの声で我に返る。
「さあ、3人とも家まで送って行きましょう」
穏やかに微笑むアリクウェードに視線を向け、ローズは断りの言葉を述べる。
「私は大丈夫です。この子もいますし…」
そう言ってロウの頭を優しく撫でる。ロウもローズに頭を擦り寄せた。
「…確かに賢そうだが…。貴女は今し方もボンヤリしていましたよね?」
少し眉を寄せ、ローズを見るアリクウェードは、これ以上自分の国で問題が起きないことを願っていることが覗えた。
それでも、これだけの人口を誇る大国。1人1人に寄り添って…というのは難しいだろう。アリクウェードがこうして城下町に姿を現すのは民の声を聞きたいのだろうと思う。
ローズが産まれ育ったのは北方の寒い場所だった。
寒い季節には長い時間雪に閉ざされるという土地柄、『魔法を使う血』が受け継がれていた。それでも、年々魔法が使える者も減り、魔力も弱まっていた。
そのような状況の中、ローズの父母は結ばれた。しかし、母にとって父は『正しい相手』ではなかったらしく、母は魔力を失ってしまった。一族の長であった母は周囲から責め立てられたと聞かされ育ったローズには、人の上に立つということがどれ程難しいかをよく知っていた。
「それでは…明日もまた花を売りに参ります。その時にでもわたしの無事を確認して下さい。騎士様もお忙しいでしょう。木剣と言えど、飾りではないのです」
微笑み穏やかな声音で話すローズからは有無を言わさぬ気迫があった。
少し考えた後、アリクウェードは「分かりました」と小さく頷いた。
心配しないように、ローズが先にその場から離れた。アリクウェードの横を通り、袋小路から抜け出す。
袋小路を出たところで風下の方へ向け「ヒュー」と誰かを呼んだ。その声に応えるように馬の蹄の音が聞こえてくる。
近付く馬の蹄の音にアリクウェードはローズの方へ駆けるが、ヒューの姿を見たローズはヒューに向かって駆け、そのままの勢いでヒューに跨がる。
アリクウェードがローズを追い通りに駆けだしたことで、その後を兄妹も慌てて付いてくる。
薄暗くなりかけたとはいえ城下町。馬が1頭で人も乗せず走っているなどということは考えられない。ましてやローズの跨がるのは葦毛。ヴィンローザ王国ではブラウン系カラーの馬が主流で現国王の愛馬が国唯一の黒馬なのだ。その他の色の馬を王侯貴族も民もヴィンローザ王国では見たことが無い。
誰とも違う乗り方。見たこともない程立派な葦毛の馬。そこに寄り添うシルバーの大型犬。
アリクウェードの中で、10年前最後に見た『薔薇の魔法使い』を思い描く。髪の色も、瞳の色も違う。言葉遣いも違う。それでも、アリクウェードは『薔薇の魔法使い』の姿を重ねていた。
(ローズ)
アリクウェードの心の声に反応するように、ローズは別れの挨拶をする。
「先に立たせて頂きます。それでは、また明日!」
最後に「陛下」と声には出さず、唇の動きだけで伝えてくる。声は出ていないはずなのに、アリクウェードには声が聞こえた様に感じた。何かがアリクウェードを惹きつける。何が自身を惹きつけるのか考えるアリクウェード。
その時、悪戯っ子の様に微笑むローズの表情に、10年の間に薄くなりつつある記憶の中の『薔薇の魔法使い』の表情を重ね見た。
瞳に映る少女の姿は10年前に見たローズの姿の特徴と全く違う。『薔薇の魔法使い』は長いシルバーブロンドにオッドアイ。しかし、今、目の前で葦毛の馬を駆る少女は肩までの赤髪、瞳はパープル…だったように思う。
特徴が重ならない。最後の魔法使いと言われている先見の大ばば様に髪や瞳、姿形、年齢を変える魔法は使えない。ローズは17~18歳くらいに見えた。赤髪の少女は16~17歳くらいにみえる。いや、もう少し若いだろうか?それに、言葉遣いも笑い方も違う。
「他人の空似か…」
重ならない特徴からそう結論付ける。
何をもって『似ている』と思ったのか、もう思い出せずにいた。
ふっと、アリクウェードは赤髪の少女の名前を聞き忘れたことに気がついた。
自分で『子供は国の宝』だと言い切っている以上、年端もいかぬ少女は守るものだと思っている。ましてや見慣れぬ少女であり、犯罪に巻き込まれやすい年齢であるとアリクウェードは判断したからだ。
「あのお姉ちゃんの名前を聞いたかい?」
アリクウェードの足元で、仲良く手を繋ぎ赤髪の少女を見送る兄妹に視線を合わせ問うが、兄だけでなく一緒に花を売っていた妹も首を横に振ったためえ、家路を急ぐ間、兄妹は『知らない人と関わったはいけない』『他人を簡単に信じるな』とアリクウェードから厳しく注意を受けた。
そんなことになっているとは知らず、ローズは家族思いで仲の良い可愛い兄妹だったと、ヒューの背で城下町を駆けながら微笑ましく思っていた。
再会ってサブタイトルなのに、ちゃんと再開出来てませんでした(--;)
ローズから爺くさい言葉遣いをとると若返る~っていうのをやってみました。
終わり頃までには、それにも意味を持たせることができるといいな・・・と思っております。
読んでいただいて、ありがとうございます。ボチボチと更新していけたらと思います。