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古(いにしえ)の薔薇  作者: Kazu
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再会:可愛い兄妹(中編)

鍛錬より更に10年後の話。


 夕方頃には花はいつものごとく完売。約束通り、女の子の花籠の分の売り上げは籠ごと女の子に手渡す。女の子はまた少し瞳を潤ませる。


「これでお母さんにお薬買ってあげられるね。よく頑張ったね」


 ローズの言葉に女の子は何度も頷いた。

 ―――これはお母さんにね―――1本だけ売らずに残しておいた花をローズは自分の花籠から取り出し、女の子に手渡す。

 そんな2人の遣り取りを通りの向こうから眺めている1人の男がいた。

 行き交う人々でか、その気配を上手く消している為かローズもロウも気がつかなかった。


 暫く女の子と話をしていると、女の子のお兄ちゃんが女の子を探しに来た。

 花売りの様子等を嬉しそうにお兄ちゃんに話した後、お兄ちゃんはローズに丁寧にお礼を述べると2人は家路についた。


「気をつけて帰るのよ」


 ローズは笑顔で手を振りながら見送る。

 満ち足りた、穏やかな気持ちがローズの身体(からだ)を満たす。


 そんな気持ちで2人の背中を見送っている時だった。兄妹の後ろを不穏な様子で付けていく3人の男が目に付いた。


「イヤな気配ががする」


 ローズから笑顔が消える。ローズの言葉にロウも頷いた。

 兄妹の後を追う3人の男達の後をローズとロウも追う。通りの向こうでローズたちの様子を見ていた男も、ローズの表情の変化に気付く。


 夕闇の逼る城下町の狭い路地裏の奥、兄妹は袋小路に追い込まれていた。

 妹は今にも泣き出しそうになっており、兄は庇うように妹を抱きしめている。


「ちょっと待ちなさい!!」


 ローズはいとも容易く男達の横をすり抜け、兄妹の前に立ちはだかる。

 腰に携えた木剣を抜き、男達に剣先をむける。


「お姉ちゃん!!」


 今にも溢れ落ちそうな涙をグッと堪えて女の子が声を発する。声音は不安を色濃く表していた。


(何てこと!!!)


 女の子の涙と不安な声を聞き、ローズの瞳に怒りの色が見える。

 男達はそんなローズの様子を見てヘラヘラ笑いながら、


「そんな木剣(オモチャ)で何ができるってんだぁ~?女ぁ――!!」


と、からかいながら最後には凄みをきかせた声を出す。

 その拍子に大きな声に驚いたのか、怖さからか、女の子の目から涙が零れ落ちる。


「…小さな女の子を…泣かせるなんて…許せない!!」


 怒りの色がどんどん濃くなる中、ロウがスンッと鼻を鳴らす。

 その様子にローズの怒りが少し削がれた。


 男達の後ろ、少し離れた所にもう1人の人影が見えた。

 夕闇で顔ははっきり見えない。髪には夕暮れのオレンジと夜の翳りの濃紺を移している。背も高く、佇まいから武道を嗜んでいることことが分かる。

 数歩近付いてきたところで、()の装いが騎士団のものであることが分かる。


(騎士団員が町中を巡回していたのかしら?)


 怒りもどこかにローズは首を傾げる。城下町、メインストリートで花売りをしているが、騎士団員が町を巡回している姿を見かけた覚えがないからだ。


 また一歩男達に騎士団服の男が近付くが顔が影になっており見えない。


「子供は国の宝だと、王も皆に伝えていたと思ったが?」


 怒気を含んだ問いが男達に降り注ぐ。

 男達は目配せしてニヤリと不気味に笑い彼に自分達が携えていた剣を抜き放つ。


「騎士様。1人とは不運だったな~」


 騎士は腰に携えた剣を静かに抜き構える。

 顔は見えないが、声・背格好からも年若いことが分かる。男達は若い騎士が1人であることに3人がかりであれば力でねじ伏せることができると踏んだようだった。


「おいおい。騎士様()かよ~。流行(はや)りだけどな~」


 男達の間で嫌な笑いが広がる。


(流行り!?)


 ローズの場所からでは男達に邪魔されて騎士の様子が見えない。抜剣した様子ではあったが…『流行り』とは?木剣のことだろうか?

 しかし、騎士が木剣を携えているのはおかしい。


(もしかして…)


 世間に疎いローズは陛下が木剣を使用し、常に腰に携えておられるという話は聞いたことがあるが、城下町では、それを模した木剣が密かに流行っており、剣術を嗜んでいる者の中には木剣を携えている者もおり、剣術を嗜んでいない者でも陛下を模して木剣を携えている者もいる。だからこそ、ローズが町中で木剣を携えていても不審に思われなかったということを知らなかった。


 騎士の剣に気をとられているうちに男達3人が騎士に襲いかかった。


「あっ」


 ローズが小さく声を発した時には騎士の一閃が男達を伸してしまう。

 その様子に呆気にとられていると、後ろから、


「アリお兄ちゃん!!」


と。兄妹の呼ぶ声にローズはハッとした。

 騎士は1つ大きく息を吐き、剣を収め、兄妹に近付く。

 近付いてくる騎士の顔には覚えがあった。


「木剣で男3人と戦おうなんて危ないですよ。お嬢さん」


 ローズに向かってにこやかに声をかけてきたのは紛れもなくアリクウェードだった。

 アリクウェードが何者であるかといことに気付いた様子のローズに目配せする。


―――今は騎士だ―――と。


 それに気づき、ローズも小さく頷く。


 子供達がアリクウェードに駆け寄る。


「ありがとう!アリお兄ちゃん!!」


 勢いよくアリクウェードの足に抱きついた。

 兄妹の様子にアリクウェードも頬を緩め子供達の頭を撫でる。


「怖かっただろう。大丈夫か?」


 優しく頭を撫でるアリクウェードに、兄妹は「大丈夫」と大きく頷いてみせる。

 そんな様子を微笑ましく見守っていると女の子が振り返る。


「お姉ちゃんも。ありがとう!」


 涙の痕のの残る女の子の笑顔に胸が苦しくなる。

 人と深く関わってこなかったローズにとって、久々の真っ直ぐな感謝の気持ちが嬉しくもあり、恥ずかしくもあった。


「どういたしまして」


 少し頬を染めながら微笑み、返答する。


「―――それにしても…」


 兄妹を挟み向かい合う形でアリクウェードが口を開いた。


「無茶をするお嬢さんだ」


 溜め息交じりに続ける。


(無茶じゃないんだけどね)


 心の中で思いながらも口には出さない。

 普通、いくら木剣を携えているからと言って女の子が男3人に挑むことはまずない。

 アリクウェードと知り合いなのは魔力を隠した今のローズではなく、魔力を解き放った薔薇の魔法使いのローズだから。


「…しかも木剣とは…」


 また1つ溜め息を吐くアリクウェードに少し申し訳なくなる。

 ローズの表情から気持ちを読み取ったようで、努めて明るく言い放つ。


「でも、ご無事で何よりです」


 アリクウェードの言葉にローズは瞠目する。


 自分のことを他人に心配されたのは本当に久しぶりで…


(本当に親子揃ってソックリだぁ~)




まだまだ甘いにはほど遠い・・・


頑張ります。


読んでいただいて、ありがとうございます。


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