再会:可愛い兄妹(前編)
鍛錬から更に10年後の話。
「あれから10年か~」
ローズは肩まであり赤い髪を緩やかに吹く風に揺らされる。
足首のあたりまであるスカートの裾も身体を撫でる風に揺らされる。
腰には10年間忘れられることなく、あの鍛錬でアリクウェードが使っていた木剣が下げられている。
この10年間、アリクウェードに渡した木剣が折れることはなかった。手渡す時に、ローズは『強化』の魔法をかけている。木剣に何かあればローズには直ぐに分かる。
あの時、アリクウェードには『お呪い』だと説明した帯剣用ベルトの金属部分に施された魔方陣は、アリクウェードを『守護』するものと、木剣の『強化維持』『修復』するものと、不測の事態が起こればローズに繋がるものだった。
この10年間、不測の事態でローズを呼び出すことはなかった。時々『守護』の魔方陣が発動していることは確認できたが、『守護』のみで、己で乗り切ることができていた。最近では、その『守護』も形を潜めている。
時々発動しているのは木剣に関する魔方陣くらいだ。アリクウェードが見に着けているときにしか発動しないように条件を組み込んでおいたから、生きて木剣を使用していることは確認できる。
それに、数ヶ月から半年に1度程度、思い出したようにオリーから報告が届いていた。
3年前、ビーが倒れた時には大変だった。オリーの慌てぶりも久々に見れた。
慌てたオリーが『助けて下さい』とだけメッセージを送って寄越した。何事かと思い、
あの時はアリクウェードに見つからないように、即位に忙しくしているアリクウェードの不在を狙ってビーを助けに行った。
鍛錬最後の日の速まる鼓動を今でも思い出すことがある。あの時のアリクウェードの笑顔を今でも昨日のことの様に思い出せる。
「はあぁぁ…」
あの日から何度も『未来はない』と自分に言い聞かせてきた。
10年前のあの小さな小さな家はアリクウェードが即位するまで使ってなかった。
アリクウェードを独り立ちさせる為。己の道を進む為。
だが、10年経った今、またあの小さな小さな家を使っている。
10年前の通り道ではなく、生活の拠点としている。本当の家にもたまには帰るが、この3年の殆どをあの小さな小さな家で過ごしているのだ。
アリクウェードと最後に会ってから極力魔法は使わないようにしてきた。
魔法を使うと、町で暮らす時に不自然が生じるからだ。
できる限り『薔薇の魔法使い』は封印してきた。これもアリクウェードを護る為。
この世界で魔法使いは高齢のオリーしかいないと世間では言われている。オリーがいなくなれば魔法使いはこの世界からいなくなる。魔法は使えない人からしたら『脅威』でしかない。
よく分からない原理で自分たちの知る常識を覆すのだから。
少しでもアリクウェードの治める国に不安があってはいけない。アリクウェードを護り助けるのはローズの役目だ。今までもヴィンローザの国を護り助けてきたのだから…
「今日もたくさん売れると良いわね」
花籠を咥え、ローズの隣を歩くロウに話しかける。
ロウはローズの方をチラリと見ただけだった。
人で賑わう城下町をロウと連れ添って歩く。それだけでもローズは楽しそうだった。
行き交う人を眺め、花を売リ歩く。
ローズが売る花は他の花売りの花より長持ちすると密かに人気があった。
王城が見えるメインストリートの1角。いつもの街灯のの下に立つ。
暫く人が行き交う様子を楽しそうに眺めていたが、不意にスカートの裾を引っ張られたことに気付き、足元を見るとそこには小さな女の子がローズの方を見て少し瞳を潤ませていた。
ローズはその場にしゃがみ込み、女の子と視線を合わせる。
くすんだ色のワンピースを着ている。肩がずり落ちかけている服は少し大きいようだ。破れたり、汚れたりしてはいないがどこか元気がないように感じる。
「どうしたの?」
女の子の瞳を覗き込み尋ねる。
「…お花…」
女の子は申し訳ないとでもいうように小さく囁いた。
「そっか…お母さん…病気なのね…」
ローズは少し考え、自分の持っていた花籠を手渡す。
「そのお花あげるわ。お花が全て売れたら、そのお金は貴女のものよ」
女の子はローズの言いたいことが理解できないらしく、小さく首を傾げる。
「お金があれば、お薬でもおいしい物でも買えるでしょう?」
片目をつぶり、ニッコリ笑顔を見せる。
「でも、危ないからお姉ちゃんと一緒に…ね!」
ローズの言葉を聞き、女の子の表情が次第に明るくなっていく。
女の子は満面の笑顔で「うん!」と元気一杯に頷いた。
次回は大人になったアリ君をご紹介できるかと…
いつになったら恋愛に発展していくんでしょうか…
早くドキドキ~な感じ書きたいです。
読んでいただいて、ありがとうございます。