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古(いにしえ)の薔薇  作者: Kazu
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出会い(前編)

初投稿です。

宜しくお願い致します。

(誰かが・・・走ってくる・・・?)


 ヴィンローザ王国の北端、誰も寄せ付けない深い深い森の中、少し開けた場所にいた。

 陽当たりの良い岩の上で休憩とばかりに寝転んでウトウトと午後の微睡みの中にいたのだが、少し離れた所からこちらに向かって草を踏む軽い足音が聞こえてくる。

 微睡んでいた岩の上で薄ら目を開き、森の中の気配を辿ると、息のあがった子供が走ってくる気配を感じた。


(う~ん・・・まだ小さいなぁ・・・)


こちらに向かって走ってくる軽い足音に耳をこらしながら、面倒くさそうに頭を掻きつつ起き上がり魔力を解き放った。

 その直後、少年が目の前に現れる。


「・・・・あっ・・・・」


 少年が小さく息を詰めたのが分かる。

 膝のあたりまである長い()()()()()()()()とブルーとパープルの()()()()()といった魔力を解き放った魔法使い()()の姿を見たのは初めてだったのだろう。

 少年からは、左右違う色の瞳(オッドアイ)に驚きと恐怖を感じてる様子が窺える。


「誰かに追われているのか?あぁ・・・うん。イヤな気配だなぁ」


 小さく呟いた後、少年から視線を外し、数人の気配のする森へ目を向け、1つ溜め息をつきながら立ち上がった。


「私の姿が・・・・怖いか?」


 少年に視線を戻すと浅く息を吐き問う。

 言葉を発せず表情も少ない少年が視界の端で(かぶり)を振る姿が見えるが、少年は魔法使いを見たことも無いのだろうか声も出ない様子だ。

また1つ溜め息をついてから少年に問う。


「お前、いくつだ?名は?」


 己に問われたことに少年は吃驚した様子であったが、1つ大きく息を吐き呼吸を整えるとゆっくり言葉を紡ぎだした。


「・・・・アリ・・・・アリクウェード・シュリンディ・ヴィンローザ・・・6歳」


 始め小さかった声も次第にはっきりしてくる。

 

(ヴィンローザ・・・王族かぁ・・・)


 少年の瞳からは嘘は感じられない。まあ、王族の名を勝手に名乗ることは罪になるからな。

 ヴィンローザ国王一族に許された名を名乗る少年の容姿を観察する。

 手入れをされているのだろうと思わせる美しいプラチナブロンド、サファイアの様なブルーの瞳・・・・

 ヴィンローザ王族特有の髪と瞳。現国王と同じ色だ。顔の造作も現国王の子供の頃にそっくり。


「間違いないな」


 ボソリと呟いた声に少年、アリクウェードは肩を揺らす。

 瞳を覗き込むと、アリクウェードは怯えたように表情を引きつらせ、少し後ずさる。 


「命を・・・狙われているのだな?」


 問いかけに顔色を青くし、少し迷う様子を見せてから小さく頷いた。

 面倒くさいのに関わってしまったことに、また1つ溜め息をつく。

 只の迷子なら森から出られるように案内でもすれば良いかと思っていたが、それだけでは済まないことを悟る。

 

「・・・仕方ないか・・・。こんなに小さい子供が目の前で殺されるのは気分が悪いしなぁ・・・」


 私の言葉を聞き、アリクウェードの顔色が更に悪くなる。蒼白と言っても良いほどで、今にも倒れそうに見える。

 背後から追っ手、目の前には魔法使い。


(それも敵か味方か分からないときたらなぁ・・・・)


「こちらに来い」


 アリクウェードに手を伸ばす。迷いの色がその表情から窺えるが、差し出されたその手に少し震えながら自らの左手を重ねてきた。

 味方かどうか分からいないが、『敵ではない』と判断したのだろう。


「・・・左利きか・・・」


 私の手に重ねられたアリクウェードの小さな手を見つめる。

 小さな手を優しく握ればアリクウェードの手の震えは治まった。


 下草を踏む音が近付くのに顔を上げ、重ねられたアリクウェードの手を強く引く。

 気配はかなり近付いているが、まだ目視できない。姿を現さないと言った方が正しいだろうか。


「・・・お姉さんは・・・?」


 引き寄せ、傍に立たせるとアリクウェードは不思議なくらい落ち着いたようで聞いてきた。

 名乗るか少し考えたが答えることにした。


「私はローズ。・・・薔薇の魔法使いと言われている」

「・・・・ローズ・・・・薔薇の魔法使い・・・・」


 アリクウェードは私の言葉をモゴモゴと口の中で繰り返していた。


 その様子を眺めつつも近付く追っ手が気にかかる。

 アリクウェードが走ってきた方向から数人の気配を感じ取った。姿は現さないがすぐ傍まで近付いていることは気配で分かる。

 しかし、気配の消し方が下手すぎる。これは『黒の部隊』ではなさそうだ。『黒の部隊』は国王・王国の影。そして闇だ。諜報活動から護衛まで凡そ何でもこなせる精鋭部隊(きようびんぼう)な奴らのことだ。彼奴等がこんな拙いはずがない。

 だが、考えてる時間はなさそうだ。気配に殺気が混じりだしたからだ。


「アリクウェード。悪いが少し髪を貰うよ」


 言うが早いか、アリクウェードの頭を抱き寄せ髪に軽く口吻(くちづけ)た。


「えっ?」


 言われたことを理解できなかったのか、それとも頭を抱き寄せられたことに驚いたのか、アリクウェードは目を瞬かせている。


「ふふふ。1番簡単な魔法契約だよ。願い事を叶える為、相手の体の一部を貰う」


 抱き寄せた頭を少し離し、笑顔で答えるとアリクウェードは首を傾げ、不思議そうな表情を見せる。


「まぁ、分からないくらいしか頂いてないから、簡単には分からんよ」


 アリクウェードは更に首を傾げ眉根を寄せ不思議そうな表情を深める。


「アリクウェードを助ける為の魔法だよ」


 にっこり笑いそう説明すると、理解できたようで大きく頷いた。

 少し顔色も改善しているように見える。


「私の後ろに隠れていなさい」


 アリクウェードを自らの背後に押しやった瞬間だった。数本の矢が2人目掛けて飛んでくる。


 1本の矢はローズの右頬を掠り、1本はアリクウェードに向かったがローズの魔法ではね返された。他の矢は全く当たらず。


「・・・・!!ローズ!!」


 アリクウェードの声が周囲に響く。私の薄ら血の滲む頬を悲しげな表情で見ていた。一度改善しかけていた顔色も、また蒼白になりつつある。


「大丈夫だよ」


 ニヤリ不敵に笑うことで『傷は大したことが無い』とアリクウェードに伝えると、安堵した様子で、1つ大きく息を吐いた。その後から少し顔色が戻ってくる。


(まぁ、あれだけ少量の髪ではアリクウェードを守護する魔法くらいしかかけられないしなぁ。あれ以上はなぁ・・・・・。戦うしかないか・・・)


 アリクウェードの頭に口吻たところから髪の一部を貰い受けていた。

 目立たぬように髪を少し掻き上げ、口吻たところから先は髪の色素が抜けたようにシルバーブロンドになっている。掻き上げた髪を戻せば分からない。

 魔法の代償に貰い受けた体の一部は元とは異なる。いくら幼いとは言え、王子様の髪が消えてしまうのはマズイだろう。プラチナブロンドの髪の中に目立たないよう、少ない一束シルバーブロンドが混じるくらいになるように調整した契約にした。

 元々色素の薄い髪色だからそこまで目立つとは思えないが、ただ、あまり目立つと私に接触したことが周りに知られ、小さなアリクウェードが更に誰かに狙われるなんてことが無いように配慮したのだ。そうすると少量しか契約に使うことができなかった。


 背後にいる小さな人影をチラリと見遣り、アリクウェードの安全を確認する。


(一応護衛を付けておくか)


 頭を掻きつつアリクウェードを守る方法を思案する。

 ここまで逃げてくるだけでも精一杯だったのだろう。6歳とはまだまだ幼い。己の力で己を護ることは難しいだろう。王族に『もしも』があっては・・・・。

 念の為の護衛を、戦いでの相棒に任せることにした。


ピィィィィィ―――――――


 指笛を鳴らし、相棒の名を呼ぶ。


「ロウ!!」


 突然森の樹の陰からシルバーの美しい毛並みの大きな狼が現れた。


「その子の護衛を頼む!!」


 突然現れた大きな狼(ロウ)にアリクウェードは瞠目するが、ロウが私の言葉に小さく頷くのを見て更に吃驚する。

 それでも、アリクウェードは自身の前に守る様に立ちはだかるロウの様子に安堵すると共にその賢さに敗北感を感じているようだった。


(・・・・3・・・4人・・・いや、5人か・・・・)


 気配を追い、森の樹々の陰に潜む男達の数を数える。


『薔薇の魔法使い・・・・?』


 張り詰めた空気の中、姿を現した男達の1人がくぐもった声を発した。


 全身黒装束で頭にも口元にも黒い布を巻き付けており、目元しか確認できない。

 如何にも『怪しい』といった風情の男。

 男の口から漏れた『薔薇の魔法使い』。これは王宮で1番よく使われている字名だ。

 市井では『銀の魔法使い』の方がよく使われている。これは古くからある子供向けの読み聞かせの本に由来している・・・・らしい。

 前国王を知る王宮勤めをしている者は皆『薔薇の魔法使い』と呼ぶ。そこから、王宮内では『銀の魔法使い』より『薔薇の魔法使い』と呼ぶ者が多い。


(まったく・・・昼日中からなんて格好だ・・・)


 男の(なり)に心の中で突っ込みながら胡乱な視線を投げかけ、やや不機嫌になりつつも男に語りかける。


「最近()()()()していないのに知ってもらえてるってのは光栄だねぇ~」


 ニヤリと黒い笑いが止まらない。


 男は、私から殺気に似た気配を感じ取り、引き気味だったのだが『やるしかない』と思いなおしたのか攻撃をしかけてくる。

 1人目の男が剣を振りかぶりローズに向けて勢いよく振り下ろす。


「隙だらけ!!」


 男の放つ剣を軽く躱し、間合いを詰め男の鳩尾に肘を当てると、男はあっけなくその場に崩れ落ちた。


「剣、借りていくよ~」


 気を失っている男から剣を取り上げ軽く振り回す。


「まぁまぁイイモノ使ってるじゃないか」


 余裕の表情を見せと男達は苛立ちを覚えているようだった。


「・・・調子に乗りやがって・・・」


 目の前で倒された仲間にチラリと視線を向ける。いくら強いといえども、数人の男相手に女である私が勝てるはずがない。倒された仲間はは相手が女だと思って甘く見ていたのだろうと考えていた。

 気を失っている仲間から剣を奪っても、魔法使いが剣を扱えるとは思っていない。


 アリクウェードとロウの様子を横目で確認しいていると、間合いを詰めた男が1人斬りかかってくる。

 視線を移すこと無く気を失った男から拝借している剣を振るう。片手で男の剣を擦り上げ、太刀筋を反らせた。勢い余った男はバランスを崩しかけるが、かろうじて転ぶこと無く体勢を立て直す。

 男が体勢を立て直す前に別の男が手に持った剣を横に振るう。その剣を躱すがそこを狙ったかのように矢が飛んでくるが、己に向かって飛んでくる矢を左手で掴み、地面へ投げ捨てた。


 1対1では敵わないと思ったのか、男2人が同時に攻撃を仕掛けてくるが、ローズはものともせず、男2人を伸してしまう。


『遊んでるな』とでもいうような()をロウが向けてくるが、その視線を受け、私はまたニヤリと黒い笑いを浮かべた。






読んでいただいて、ありがとうございます。


改稿に伴い、字数が増えております。


最終改稿 2021/1/6 

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