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ヒノ  作者: ヒゲン
第一章
9/27

魔の森


意識が戻り目を開けると激しい痛みが全身に走った。

周りを見渡すと至る所に負傷した人たちや木の破片が飛び散っている。


そうだ、急な爆発に巻き込まれたんだった。


爆発の衝撃で少しの間意識が飛んでいたようだ。


「おいヒノ!大丈夫か?」


ボルンさんの声だ。声がする方に目をやるとボルンさんはハンメル団長に肩を貸しながら立っていた。


「はい、大丈夫です」


ボルンさんの肩を借りているハンメル団長は手に魔力を込め始め自身に向かって手をかざし始めた。


回復魔法とかなのだろうか。。。


ボルンさんの近くに探査魔法が使える騎士、サリバンが地面に座り込んでいる。ひどく傷ついている。


周囲から徐々にうめき声が聞こえてきた。他の人たちの意識も戻ってきたみだいだ。


よく見ると平家があった場所にはもう何も残されていなかった。爆発で木っ端みじんになってしまったようだ。周囲に残骸が飛び散り火の手が上がっている。自分の体を見てみると至る所に爆発の衝撃で飛び散った破片によって傷を負っていた。運よく全て小さな傷ばかりで重症に至ってない。出血も浅くすぐに止まりそうだ。


俺の隣にバランさんとトニー少年もいた。トニーの意識ははっきりとしているが、バランさんはまだ現状を把握できていないようだ。他の領民兵たちも爆発の時俺と同じく平家から少し離れていたので比較的傷は浅い。


爆発の時に近くにいたハンメル団長や他の騎士たちの傷はかなり深いようだった。ただボルンさんも近くに立っていたがハンメル団長を背にしていたので、飛び散る破片の被害は少なかった。それでもかなりのダメージを負っているのがわかる。


自分に向けて手をかざし続けていたハンメル団長はもうボルンさんの肩を借りずに歩くことが出来ていた。やっぱり回復魔法を使っていたのだろう。


「おい!聞こえているか?生きてるものは返事をしろ。声が出ないものは手を上げろ。すぐに北に向かうぞ。。。ごほっ。。。移動が困難なものはいないか?」


団長は周囲を確認しながら出来る限りの大きな声で発した。爆発音で一時的に聞こえづらくなっている人がいるかも知れないからだろう。


「団長、こちらに向かってきていた一人と集団が合流してどんどん近づいて来ています。。。すみませんが私の魔力も限界に近いのでこれ以上高い精度で探査魔法を続けるのは厳しいです。あとのためにも少し温存して置きたいです」


サリバンは何とか体を起こし、残り少ない魔力を振り絞り探査の魔法を使っていた。


「すまんサリバン、いつも助かる。なんとか性急に隊を整えて北に向かうしかない。。。」


生きている人たちは声を出し、お互いの安否を確認した。そして、傷が深い人は余力のある人の肩を借り何とか全員が立ち上がった。17人しか残っていなかった。


俺たちはすぐに後ろから襲ってくるかも知れない追手を警戒しながら北へと進んだ。


その途中、ハンメル団長は歩くのが困難な騎士や領民たちに手をかざし回復魔法を施しながら進んだ。俺たちの移動速度は早歩き程度でしかなかったが、けが人が多くそれ以上速くは不可能だった。すぐに追手が俺たちに追いついてしまうかも知れないが、それでも今は北に向かってただ進むしかない。


北の方角に歩き続けた。

敵の集団はまだ本格的に追ってきてはいないようだ。


道なき道を歩き続けるのは俺が思ってたより遥かに困難だった。追手から見つかり難くするために魔道具のゲレルも使えないため見通しが悪く、ほのかな月明りを頼りにするしかなかった。だんだん茂る草の密度は上がり、腰の高さほどになっていった。それらが足に絡みつき中々スムーズに前に進めなくなっていた。


「俺たちはこのまま魔の森に入っていくのかな?」


俺の隣を歩いていたトニーが聞いて来た。


「魔の森?」


「ヒノ、知らないのか?」


「魔の森ってなんだ?」


バランさんは他の騎士たちに聞こえないようにトニーに聞いた。


「このまま北に進むとすぐに森があるんだ。魔物が多くて魔の森って呼ばれているんだ」


「多分追手がやってくるから森の中なら開けた地よりも助かる可能性が高いし、獣人の集団と戦闘になるより魔物の一匹や二匹と戦った方がいいんじゃないのか?だから俺たちは北に進んでるんだろ?」


「確かにあの獣人たちめちゃくちゃ強かったね。俺、獣人なんて初めて見たよ。でもね、バランの兄さん、この魔の森にはホワイトファングがいるんだよ」


みんなと同じように服もボロボロになり傷だらけだが、トニーの話し方にはどこか明るく希望を感じさせる雰囲気がある。内容自体はそうでもないが。。。


「ホワイトファング?」


「熊みたいな外見なんだけど、素早くてめちゃくちゃ強いんだよ。しかもかなり狂暴なんだ。一匹ならなんとかなるかも知れないけど、ホワイトファングは群れで生きているんだ。で、一番厄介なのは一匹倒してしまうと群れ全体が襲い掛かってくるんだよ。最後の一匹になるまでずっと攻撃してくるらしいんだ」


トニー少年はさらにホワイトファングの恐ろしさについていろいろと語ってくれた。

彼によると、ホワイトファングはここから北の森を縄張りにしていて、他の猛獣は全てホワイトファングに駆逐されてしまったという。森に近づくだけで警戒してけん制してくるほど縄張りを侵すものに敏感なので地元の冒険者は魔の森には近づかないらしい。


俺は不安と疲労を紛らわすために、バランさんやトニー少年と話しながら足を進めた。


しばらく進むと森が視界に入ってきた。団長は小休憩の指示を出し、みんなで一息ついた。負った傷と疲労で限界近いが者が多い。先の爆発で負ったダメージは相当なもので、今まともに戦えるものは数えるくらいしかいない。


「団長、詳しい人数はわかりませんが、集団がこちらに近づいています。おそらく向うにも探査能力のある人がいると思われます」


魔力を込める時の光を隠すように、草むらの中でしゃがみ込みながらサリバンは絞り出すような声で淡々と事実を報告した。


「まあ、そうだろうな。。。このまま魔の森に入るしかないか。。。」


「集団は広範囲に広がりながら近づいてきています。おそらく1㎞も離れていないかと。。。すみません、これ以上は魔法が使えそうもありません」


「わかった。もう無理するな。。。ここから大きな物音を立てないように進むぞ。会話も最小限にして小さな声でするように」


追手が鼻の先まで来ている事実に絶望感を漂わせながら、俺たちは魔の森と呼ばれる区域に入っていった。


森に入るとすぐに遠くから獣の咆哮が聞こえてきた。トニーが言ったように縄張りを侵した俺たちに警告を出しているのだろう。普段なら絶対に近づきたくないような恐ろしい咆哮だが、あとがない俺たちはただ森の中を突き進むしかなかった。あまりの疲労や苦痛で意識が飛びそうだったために恐怖心が薄れていたのは不幸中の幸いだった。


だんだん周囲から獣か追手かはわからない気配が感じられるようになってきた。少し進むと月明りを遮るものがない少し明るい場所に出た。大きな三本の木が三角のような形で倒れており、座れば地面に足がつかないくらいの高さだ。


俺たちの中には、すでに体力が限界に来ていて歩くこともままならないものが出ていた。意を決めたハンメル団長はこの場所で生き残りをかけて戦うことを決意したようだった。


傷が深く限界の人たちは倒れた木が自然に形成した三角の中に入って木を背にもたれながら座り込んだ。ほとんど意識を失いつつある。騎士たちのほとんどが爆発の近くにいたため戦えるものは少なかった。今なんとか戦力になれるのは俺とバランさんとトニーを含む領民兵が7人にボルンさん、ハンメル団長、サリバンさん、そして騎士がもう一人の11人だけだった。だが、全員が爆発で何かしらの傷を負っているので万全とは程遠い状態にある。もう回復魔法を使わないことから、ハンメル団長もギリギリの状態だと思われる。それでも戦える人たちは周りを警戒しながら倒れた木の上に座り体力の回復をはかっていた。


周囲から獣の咆哮が頻繁に聞こえるなってきた。低く熊のような咆哮は腹に響き本能的な恐怖をあおる。


ボルンさんがやってきて俺の隣に座った。


「ヒノ、もしここで生き残れなかったらすまん」


「生き残っても誤ってくださいよ。散々な目にあっているんですから」


「まだ元気があるようだな。安心したぞ。こういう場面では弱気になったものから死んでいくからな」


よく見ると、ボルンさんの足からの出血がひどい。


「爆発の時に家の破片が刺さってしまってね。わははは」


笑いごとではないけどね。。。


「わしも昔、このような死地は何回も経験している。まあ、大丈夫さ。なんとかなる」


「なんとかですか。何かここから生き残るすべがあるんですか?」


「いや、特にないぞ。大丈夫だと思わんとやってられないだろう」


ただの精神論だったのか。。。

ちょっとでも期待して損した。。。


「こんなことになるんだったらナヴィさんに告白しておけば良かった。。。」


バランさんが気弱につぶやいた。


そういえばバランさんってナヴィさんが好きだったな。。。

これに関しては頑張れとしか言えない。。。


「ナヴィさんって?バランの兄さんの好きな人?」


「うん、同じ村の住人で綺麗な人なんだ」


「ふうん。。。あっ、こんなところにキノコが生えてる。これ食えるかな」


トニー。。。


「なんとかここを生き残って帰ったら告白すればいいじゃないですか?」


「うん。。。ほとんど生き残る可能性はないけどね。。。それに万が一生き残って告白しても振られるかもしれないし。。。」


暗いな。。。


「そういえば、協会のアリエ姉さんは悪いことしないように生きて死ねば天国に行けるって言ってたっけな。どんなところだろうね。。。」


トニーはずっと明るいな。。。


「あっ、やべっ、この前マーリーちゃんのおやつをちょっとだけ盗み食いしちゃったんだった。。。ああ、地獄行きいやだー」


お前がいい奴なのはわかったから、

その死ぬ前提の会話をやめてくれ。


「最後にナヴィさんの顔をもう一度見たかったな。。。」


。。。


内容は置いておいて会話で少し気が楽になったのを感じた。気のせいかも知れないが体力も少し回復したような気になった。そのあともネガティブとポジティブと無責任の会話を聞きながら確実に近づいている気配に覚悟を決め戦闘に備えた。気づくと目が慣れてきたのか周囲が少しだけ見えるようになっていた。


つかの間の休息はボルンさんの「戦闘の準備を」という大きな声で終わった。

木の陰から獣人たちが現れたのである。彼らはもう顔を布で覆ってはいなかった。獣耳がピンと立ち獲物をみるような目で俺たちを見ている。囲むように現れた獣人たちは徐々に距離を縮めていく。俺たちは三角状に倒れた木の周辺を固め獣人たちが飛び掛かってくるのを待っていた。こちらから飛び込んでいけばひとたまりもないのは一目瞭然だ。敵の集団は少なくても20人以上だったが、魔法使いがいなかったことだけ救いだった。


獣人たちとの距離が徐々に縮まりお互いの間合いに入る寸前の瞬間、後方から大きな物音と雄たけびをあげながら真っ白い毛の大きな熊のような獣が現れた。


「ホワイトファングだ」


少しびびりながらトニーがつぶやいた。


突然後方から現れた魔物に獣人たちは剣を向けた。ホワイトファング、獣人たち、俺たちという奇妙な三すくみ状態になった。ホワイトファングはかなり興奮しているのかそのまま獣人たちに突進していった。獣人の一人が突進してきたホワイトファングを空中に飛んで避け自然落下を利用してそのまま剣を背中に刺そうと構えた。空中で体制を整えられるほどの高い身体能力だ。しかし、ホワイトファングは後ろ足でふんばり急停止した。そして、すぐに体を捻りながら起こし、空中で剣を構えている獣人を前足でバレーボールのアタックのように力まかせに叩き下ろした。空中から地面に叩きつけられた獣人は身動き一つせず、そのまま絶命した。ホワイトファングの恐ろしいまでの俊敏さと破壊力が獣人と俺たちを驚愕させた。トニーの話から得た俺の想像をはるかに超える化け物だった。ホワイトファングはすぐに近くにいた2人の獣人をなぎ倒し、俺たちに向かって咆哮した。


ホワイトファングのあまりの強さに気を取られしり込みする獣人たちの後ろからボルンさんは飛び掛かり、2人切り捨てた。獣人たちがこちらに気づき振り向くとボルンさんはすぐに元の位置に戻った。


奇しくも獣人たちは俺たちとホワイトファングに挟まれた形となり、一気に形勢が変わった。


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