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ヒノ  作者: ヒゲン
第一章
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トレント


ルハン町の大広場でナヴィさんと合流した俺は、冒険者ギルドで誘われたことと、そこで働こうと思っていることを伝えた。


ナヴィさんは「行く当てがないなら、わたしの家に住んでいいよ」と言ってくれた。そんな優しい彼女のためにも、少しでも生活の足しになるならと冒険者ギルドで働くことにしたのだった。見た目子供の俺に仕事が見つかって本当に幸運だったと思う。それに、冒険者ギルドでなら、いろいろな情報が手に入るし、この世界についても学べると思ったからだった。


ちなみに、俺に話しかけた受付の女性はパティという。彼女が説明してくれた仕事内容はギルドの受付や手続き、そしてレストランの配膳などのお手伝いというものだった。週に四日、朝10時から夕方16時までで、一日銀貨1枚。ダイレ村から通うと往復で4時間と遠いため、ギルドに泊まりながら四日間連続で働いて、三日間休むということにしてくれた。


俺が読み書き出来るということを知ったナヴィさんは驚いていた。子供が読み書き出来るのはこの辺では珍しいようだった。一日銀貨1枚は未成年の子供にしては悪くない給料らしい。


ナヴィさんと楽しく話しながらダイレ村に戻った俺は、早速次の日の朝、ルハン町に2時間かけて冒険者ギルドに戻った。


パティさんは笑顔で迎えてくれて、早速ギルド長に会わせてくれた。ギルド長は40代くらいのボルンというおじさんで、見るからに経験豊富で強そうだった。昔は冒険者をやっていて、現在は引退してここのギルド長になったという。


そのあと、パティさんは二階にある俺が泊まる部屋を案内してくれた。小さな部屋だったが、ちゃんとしたベッドがあり、泊まるだけなら問題ない広さだった。


そして早速、実際に俺に経験させながら仕事を教えてくれた。俺の仕事は簡単に言うと書類の複製だった。受付やレストランの手伝いもあるが、基本的には報告書や契約書の書き写しだ。その内他の仕事も少しずつ教えてくれると言ってくれた。


初日はなんとなくの雰囲気で仕事をしたが、なぜか覚えが早いことに驚かれた。実際、仕事と言っても、一日中書き写しで、たまにレストランに来たお客に食事を運んで下げたり、代金の勘定をしたりしただけだった。俺にも出来る簡単な仕事だったため、少し安心しながら初日を終えた。


「お疲れ様、ヒノ」


「お疲れ様です、パティさん」


「今日のような感じで、これからもよろしくね」


「はい、よろしくお願いします…あの…レベルの鑑定をお願いしたいんですけど、今でも大丈夫ですか?」


「え?うん、いいわよ。じゃあ、早速ここに座って」


今日稼いだ銅貨10枚から3枚を払おうとすると、もうギルドの職員だからただでやってあげると言われ、銅貨を受け取ってもらえなかった。


パティさんは俺をしばらく見つめながら、木の皮に何かを書き始めた。少し不思議そうな顔をしながらも書き終えて、俺に手渡した。


「たくさんの人を鑑定してきたけど、こういうの見たことないな」


パティさんの言ったことが気になったが、初めての鑑定ということでわくわくしながら見てみた。


名前:ヒノ

人族

レベル1

体力:5

攻撃力:5

防御力:5

魔力:?

素早さ:5

知力:?

スキル:不屈の根性、限界突破

現レベル経験値:6


…えっ…

レベル1って…

めちゃくちゃ弱いじゃん、俺…

心のどこかで、最強じゃなくてもそこそこの強さなんじゃないかと思っていたが、数値が全部一桁じゃん…それになんだよ「?」って。

神様に死に難い体をお願いしたのに、風が吹けば倒れるような強さなんじゃないのかこれ…


「これは大変珍しいというか、初めて見たわ。あなたくらいの年なら普通に生きているだけでレベル2か3になっているはずなんだけど…レベル1は普通5歳くらいの子どもだし…それにその年でスキルを持っているのも不自然なのよね…不思議だわ」


俺は5歳児と同じくらいの強さなのか…


「でもレベル以外の数値は年相応なんだよね…普通、レベル1の値ってだいたい2とか3だしね」


「あっ、そうなんですか」


ああ、よかった…とりあえず、普通な強さなんだ。


少しばかりの残念感と一安心をした俺はパティさんからいろいろを聞いた。


パティさんの簡単な説明でわかったのは、レベルはまず経験値が100になれば上がり、経験値が0に戻る。


そして、レベルが上がればポンと強くなるわけではなく、経験値と共に上がっていく。まあ、当然っちゃ当然だ…


つまり、同じレベル5の人でも経験値が10と90とでは圧倒的な差があり、さらに、レベルが一つ上の相手には技術や知識が同条件下では絶対に勝てないらしい。


体力、攻撃力、素早さはそのままの意味だったな…


普通の人はだいたいレベル5~6で頭打ちになり、冒険者になるには7以上ないと食べていけないとのこと。そして、こんな田舎町ではレベル10以上の人は滅多にいないそうだ。特にこのルハン町周辺は平和で魔物も少なく、強い冒険者が来ても高収入の依頼はほとんどないという。


魔力や知力については特別な鑑定士か道具が必要でここでは出来ないらしい。


俺の今のレベルと強さじゃ期待も出来ない気がするし…


そして、スキルについてさらに鑑定してもらい、説明を見てみた。


不屈の根性:

瀕死の状態から不屈の精神で根性を見せれば体力が少し回復する


限界突破:

生死の境で地獄のような努力で限界突破


生命ぎりぎりのラインでしか発動されないものばっかりだな…

試し用がないっというか、怖くて試せない…


昨日聞きそびれたダイレ村西の森に出たというトレントについても聞いてみた。だいたいレベル7くらいないと太刀打ちできないとのこと。今の俺にはかなり厳しい相手のようだ…レベル1なのだから…


そのあと、ギルドのレストランが出す賄い料理を食べて、初日は終わった。そして、同じように残りの三日間働いた。二日目、勘定の時の計算が異様に速いということで、パティさんにいろいろな計算問題を出されて答えていったら、仕事内容に収支計算も含まれるようになった。おかげで日当が銅貨3枚増えて、銀貨1枚と銅貨3枚になった。


四日間の仕事が終わり、ダイレ村に帰ってきた。断るナヴィさんに稼ぎの約半分の銀貨2枚を渡した。そして、散歩がてらに村を探索していると、ノランという近所の子供と知り合った。俺と同じくらいの背丈で12歳だった。見た目から判断して俺も同じくらいの年齢だろう。ノランは懐から木の塊を出して自慢してきた。ボンボというお粗末なブーメランみたいなおもちゃでエルン市の商人から買ったらしい。流行っていると言っていたが、こんな木の塊が流行るわけがない。可哀そうにきっと騙されたんだろう。だが、本人は嬉しそうにしているので、言うのは野暮だ。


「ヒノ、森に行こうぜ、俺の秘密の場所教えてやるよ」


こいつ意外といいやつなのかもな。

あれ?でも、森には…


「森にはトレントが出てるんだろ?危ないんじゃないの?」


「トレントなんか怖くないよ。お前、ビビってるのか?」


もしかして結構強いのかこいつ。


「あのさ、ノランってレベルいくつなの?」


「一か月前に計った時、レベル3に上がってたぜ」


ダメじゃねえかよ。レベル3で調子に乗るなよ~。

まあ、レベル1の俺が言うのもあれだが…さすがに無謀だろ。


「いや、やめた方がいいと思うよ。トレントが出てきたら勝てないよ」


「お前が行かなくても俺は行くぜ。大丈夫だって、ほら行くよ」


ノランはてくてくと森に入っていった。俺も彼の後ろをついていった。戻って大人に言った方がいいだろうかとも迷ったが、せっかく仲良くしてもらったのに裏切るようなことをするのは悪い。それに、彼はいつも森で遊んでいるようで、道に迷うことなく慣れた足取りで進んでいった。


すると、前方の木陰からがさっという音がした瞬間、4メーターくらいの木がこちらに向かって来た。


やっぱり出るんじゃないか…


と思いながら俺は初の魔物に遭遇した。木の化け物、おそらくトレントはまだ俺たちから離れていて、今なら走って逃げられる。振り返って走ろうとしたら、ノランが腰を抜かして地面にへたり込んでいた。


おい~、まじかよ…これは本当にまずいんじゃないのか。ここからノランを拾って走って間に合うのか。


「わああああぁ、ヒノ!逃げろぉ~」


ぁぁ~、本当にいいやつだなお前。こっちはお前の命と逃げられ可能性を天秤にかけていたのに…もう、こうなったら仕方ない。


全力でノランの方に走り寄り、抱き起して逃げようとした瞬間、トレントの枝が俺たちに巻き付いてきた。


伸びるのかよ…


俺とノランを軽々と持ち上げ、伸びた枝が縮みはじめ、トレントの本体にある穴の方へ引っ張られていった。隣のノランは泡吹いて気絶してた。


ああ…あの穴はあいつの口なのか…俺たちは食べられるのか…

絶対いやだよ…なんとかしないと…


ノランの懐に木の塊があるのを発見した。手を伸ばしてぎりぎり届いた指に引っ掛け、木の塊を引っ張り出して手に取った。


もうこれにかけるしかない。まずノランの枝だ。


思いっきりノランに巻きついている枝を木の塊で叩いた。あまり効いてないようだった。それでも、必死に何回も何回も叩いた。すると、俺に巻きついている枝の締め付けが急に強くなり、左腕と肋骨に激しい痛みを感じた。必死で我慢しながら、ノランに巻き付いている枝を叩き続けた。


ついに、枝はノランを離した。ノランは地面に気絶したまま落下した。そして、ノランを離した枝は、今度は俺に巻き付いてきた。締め付ける力が倍になり、さらに痛みが増し、大きな穴にみるみる引っ張られ、目と鼻の先にまで距離は縮まってしまった。近くで見ると、大きな穴の奥にとげとげしい牙のようなものが無数にあり、絶対絶命の状況になった。


おそらくここで死ぬのかも知れないな…それだったら死ぬまであがき続けてやる!


開き直った俺は、ただひたすら枝や大きな穴の周辺を叩き続けた。締め付けがまた強くなり、俺の体からバキバキという音がなった。どこかの骨が折れたんだろうか。全身に痛みを感じる。よく見ると、身体のいろいろなところから出血している。初めて見る自分の体から流れ出る大量の血。それでも、必死に抵抗し叩き続けた、目の前の大きな穴に取り込まれたら終わりだというのがわかるから。さらに、必死で抵抗し無我夢中で叩き続けた。すると、だんだん俺の攻撃に小さな反応が返ってくるようになった。


どこか急所にでも当たったのか。数打ちゃ当たるって良く言ったもんだ…


さらに打ち続けた、俺の体力はもう限界だったが、そんなのどうでもよかった。動かなければ死んでしまうのだから。そして、どんなにやられてもなぜか、ほんの少しだけ楽になる時がある。


もしかしたら、おれのあのスキルのおかげなのか…

こんなことが考えられるってことは少しだけ余裕が出てきたということなのか。


だが、まだまだ手を止められない。少し冷静に考えられるようになっただけで、油断したらすぐに大きな穴に取り込まれてしまう。さらに打ち続けた。


どれほど打ち続けたかはわからない。気が付くと、トレントの本体がゆっくり傾き地面に音を立てながら倒れた。だが、枝は未だに俺を締め付けている。


効いたのか…


そのあとも、ただひたすら休息を与えず打ち続けた。すると、大きな断末魔があがった。枝の締め付けが解かれ、本体は動かなくなった。


死んだのか…手足、全身血だらけだ。どこにも力が入らない…

でも…生き残った~…


ノランの意識が戻ったのを確認したら、全身の力が抜けて意識がなくなっていった。




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