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続々と、応援の男たちが駆けつけてきた。
その中の一団、ミスラ山麓にあるアカリア村からやって来た男が、意外なことを言った。
この初秋、彼らの村に、紅令師を名乗る旅人が、顔を見せていたというのだ。
タララ村の男たちは話に食いついた。
蜘蛛を打倒するのに、超常の力を振るう紅令師は不可欠な戦力に思えた。
「その男は、ミスラ山で何かを探しているようだった」
と、アカリア村の男は言った。
「何かとは何だ」
「知らん」
「それは本当に紅令師だったのか」
「それも知らねえよ。本人がそう言っただけだ。その時は村の誰も信じなかったけどな。何も変わったことなんて起きていなかったし。ただ、あれはグランダじゃなかったよ。見たことのない、子供みたいな小さい体をして、薄っぺらい顔だった。探し物があるから、しばらく住む家を貸してくれ、なんて言うもんで、俺たちの山で何を探してるんだって聞いたんだが、答えなかった。答えないやつに貸すものなんてないって言ったら、すごすご退散しやがった。気味の悪い、胸のむかつくやつだったよ」
「蜘蛛を探していたのか」
「かもな。何にしても、見つけられるわけはないだろ。しばらくは山で寝泊まりしてやがったみたいだが、この寒さだ。もう南へ帰ったんじゃないか。グランダ以外には、ミスラの冬は越せないものさ。紅令師だか何だか知らないが、たった一人でやって来て、冬のミスラで探し物なんて、舐めてもらっちゃ困るよな」
応援の男たちは、やがて三十人を超えた。大戦力である。
彼らは全て、タララ村と同規模の小村からやって来たグランダであり、これだけの戦力を構成するのは、彼らの誰もが初めてのことだった。
当然、意気は高揚した。
彼らは同胞の死を心から怒り、悲しみ、復讐を誓った。
だが同時に、タララ村の生き残りを見る彼らの目には、かすかな軽侮の匂いがあった。
その傾向は、タララ村の男たちが紅令師の話に食いつくと、より顕著になった。
これだけの戦力があるのにまだ怖いのかと、彼らは無言で言っていた。
余所者の紅令師に頼る必要などあるのか?
そういう気配は、もちろんタララ村の男たちにも伝わった。
危険だと思った。
蜘蛛の恐ろしさについて、彼らは言葉をつくして説明した。
侮るべきではない。恐れは必要だと言った。でないとあっさりと殺される。
しかし、それはまともに受け取られなかった。
彼らは焦燥した。
三十人の男たちの楽観的な自信は、ただ数に酔っているだけの何の根拠もないものであり、あの大蜘蛛の威容を目にすれば、たちまち吹き飛んでしまう儚いもののように思えた。
自分たちがそうだったように。
やはり紅令師は必要だと彼らは思った。
蜘蛛を目の当りにした彼らにとって、三十人の戦力というのは、もはや安心して頼れるものではなかった。
タララ村の男たちはシーラを中心に数人で集まり、紅令師に救援を求めたい旨について、エドラルに直談判した。
エドラルは難しい顔をした。
当然だ。
彼は、ティシリア王国に仕える公人だ。
王国の衛兵として着任した以上、事は王国の手によって解決されるべきであり、一戦もしないうちから外部の人間に助けを求められるわけがなかった。
しかし彼は同時に、タララ村の村民たちの不安も理解していた。
しばらくの黙考の後、エドラルは、少なくとも今のところは、自らの指示で紅令師を呼び寄せるつもりはないと伝えた。
シーラは消沈したが、エドラルは続けて言った。
「ここはお前たちの村だ」
「はい」
「お前たちがお前たちの考えで動くことについては、私には止められん。それが、私の知らぬ間にされていたことならなおさらだ」
黙認してやるから、紅令師を呼び寄せろと言っているのである。
シーラは何度も頭を下げて感謝した。
タララ村の男たちで、さっそく話し合いが持たれ、使者となる男が選ばれた。
彼は、村に残った馬の一頭を駆って南へ向かうことになった。
しかしエドラルがそれを止めた。
村の馬ではなく自分の馬に乗って行けと言った。
「私の馬は速く強い。急ぎの用ならそれなりのものを使え」
「しかし、いいんですか」
「お前たちは、村の馬と私の馬を乗り間違えたんだ。そして私はそれに気づかなかった。そういうことだ。いいな」
話はそれで終わらず、エドラルは別のことを言った。
「下流の家からあふれる異臭に関して、苦情が出ている」
シーラたちは気まずげに顔を見合わせた。
「あの家に住む少女が、蜘蛛の毒にやられたということは、聞いている」
「はい」
「だが、すでに死んだのだろう」
「それは。おそらく」
「死者を、いつまでもそのままに置いておくのは罪だ。それだけではない。蜘蛛の習性を考えれば、早く遺体を大地に還さなければならない。蜘蛛は遺体を貪るため、あの下流の家に現れるだろう。同胞の遺体が獣に辱められるのは許せない」
「その通りだと思います」
ぎこちなくシーラは同意した。
「言いたいことがあるようだな」
「いえ」
「構わん。言え」
あわれな女なのだと、シーラは訴えた。
姉妹二人で故郷を追われ、互いに互いのみを拠り所として生きてきた。その一方が無残に死んだ。残された一方が錯乱するのも無理はない。
もうしばらく、時間を与えてやりたいのだと言った。
「言いたいことは分かる。だが、蜘蛛は待ってくれないだろう」
「はい」
「明日一日、待とう。それでアーシャという女を説得しろ。できなければ、気の毒だが無理にでも排除しなければならない」
シーラはエドラルと別れ、その足でネロス家に向かった。
村に残る人間で、アーシャを説得できるとすれば、それはカクリ以外になかった。
シーラの訪問を受けた時、カクリはわずかに回復しており、身を起こして彼を迎えた。
事情を聞いて、カクリはため息をついた。
しかし、やるしかなかった。
これ以上アーシャが家に陣取るようなら、エドラルは言葉通り、彼女を拘束し、サフィの遺体を始末するだろう。
状況を考えれば当り前のことだ。
むしろ一日、よく待ってくれると言うべきだった。
「アーシャはなぜサフィの遺体を弔わないんだ」
シーラが言った。
「やはりおかしくなっているのか」
「分かりません」
いずれにしてもアーシャと会わなければならない。




