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~帝歴二三〇年 七月七日 一八時三〇分 スラム街~
――銃声が聞こえた。
それはすぐ近くから発せられたもので、『彼』が引き金を引く姿を僕は見ていた。
確かに目の前で起きた事なのに、どこか現実味がなくて。
まるで遠いどこかの話をニュースで見ているような気分だった。
「……知ってるか? 今日は七夕って日で、織姫と彦星って二人が一年間で唯一会える一日らしい」
『彼』は片手に銃を握ったまま、酷く赤い夕暮れ空を眺めていた。
「俺たちも今日この日なら、誰かに会えるかも知れない」
そう言って、こちらに手を差し出してくる。
『彼』はとても苦しそうな顔をしていて、今にも悲しみに押し潰されてしまいそうだった。
そんな『彼』だからこそ、引き金を引くことが出来たのだろう。
なればこそ、差し出された手を握ることに躊躇いはない。
「……うん、そうだね。きっとそうだ」
僕らは生まれ変わる。今までの生活を抜け出して、新しい人生が始まる。
ポイントオブノーリターン。引き返すことの出来ない地点。既にそこを越えてしまった。
なら前に進み続けるしかない。
その先にどんな結末が待っていようとも、もうやり直すことなんて出来ないのだから。
「行こう、×××。ここから始めるんだ、僕たちの戦いを」