草食男子絶滅計画 WAKA
「このままでは、日本は消滅してしまいます」
厚生大臣は閣僚会議で発言した。
「30年後、2055年の日本の人口比率シミュレーションです」
それによると30歳以下の日本人の割合が30%を切っていた。
閣僚一同はその資料に目を落としたままだった。
「原因はあれか」
太田総理は厚生大臣を見つめた。
「未婚率の急増です。
生涯未婚率は今年2025年で25%を超えています。
このままでは30年後、日本の人口は6000万人を切ります」
厚生大臣は答えた。
「損失だな。大きな日本の損失だ」
総理の太田は渋い顔を作った。
「特に高学歴の女子の未婚率が高い。
これが日本の知識レベル低下の原因だ。
何かいい対策案はないか」
「密かにテレビに圧力を掛けてみるのはどうでしょう」
総務大臣が発言した。
「独身男女のタレントを排除して、ママタレやイクメンを出演させましょう」
「そういう雰囲気を作ろう」
太田は大きく頷いた。
意外に効果がある。
二十歳のカリスマアーティストの結婚・出産。
カリスマの行動に触発される若い女性は多い。
子持ちのタレントを優先敵に出演させる。
もちろん、恋愛禁止を公言するアイドルは排除する。
「他に何か案はないか」
「子育て環境や税制の優遇はどうでしょう」
文科大臣が言った。
太田は首をひねった。
「これ以上なにができるのか」
これまでも数々の対策を行ってきたのだ。
しかし、彼女らは自分のキャリア以上に興味が持てないようだ。
太田は閣僚らを見回した。
みな目を合わせない。
有効な案がないのだろう。
太田は天を見上げた。
あいつに頼むしかないか、と心の中で呟いた。
あいつとは名探偵藤崎誠である。
官僚時代の同僚で、これまでもいろいろトラブルを解決し、
そのお蔭か太田を総理まで押し上げた。
太田は耳の奥で藤崎の声を聞いた。
「名探偵にお任せあれ」と。
2027年、WAKAが突然、出現した。
多くの日本人は、政府が出資している企業とは気付いていなかった。
WAKAとはSNSの一つで、ツイッターのようなものだった。
特殊なのはツイッターよりさらに言葉が少ない。
ツイッターが128語に対し、WAKAは31語だった。
これに食いついたのは、政府の狙い通り高学歴女性で、
それに答えたのが、面と向かって女性にアプローチできない草食男子だった。
女性が送信し、それに男性が答える。
それが繰り返され、交際が始まる。
31文字には地域の情緒あふれる情報もあるので、
近隣の女性に限定することも可能だった。
「少しずつ効果が出始めている。
お前のおかげだ。ありがとう」
太田は電話で藤崎に礼を言った。
『歴史は繰り返す』
藤崎は答えた。
「凄い昔だけどな。
1000年以上も前か」
『日本人の最初の愛の唄だからな』
WAKAとは和歌、古今和歌集などの。
五七五七七、31文字の世界だった。
太田総理は爆笑問題の太田さんと無関係です。
私の本を買ってくれたリアルの太田さんが小説に出演したい、と言ったので、
良い役に太田さんを起用しています。