~攻略不可能な俺の冒険~
眠い、寒い、寝たい
「いやいやいやいや・・・え?待て待て・・・え?」
「・・・あのー」
「待て。質問ならもう少し待ってくれ。 ちょっと今頭が混乱してるのだ」
「あっ、はい・・・」
「・・・参った、予想外であったな。まさかこんなことが起こるとは・・・魔方陣の裏コードが作動するなどとは夢にも・・・」
「・・・」
目の前の残念なイケメンは、ついさっきまでパソコンで動画を見てバカ笑いしていたのが嘘のように、神妙な面持ちで何やらブツブツと考え事をし始めた。
いったいここはどこなんだろうか?
俺は確かに魔方陣を起動させて、空間転移を行った。
だとしたらここはエリア1・・・?
しかし、エリア1に無事転移できたのだとしたら、目の前のこの無駄にイケメンな男はいったい誰なのだろうか?
・・・にしても無駄にイケメンだな、こいつ。
見たところ、俺と同じ種族の人種、いわゆる『オタク』なんだろうが・・・同じオタクなのにこうも顔のレベルが違うと何か無性に腹立ってくる。
黙ってればモテるタイプってこういう奴のことを言うんだろうな、などと考えていると、残念なイケメンはふと何かを思いついたように顔を挙げ、椅子を軋ませながら、身を乗り出して俺に声をかけてきた。
「すまん、先にこちらからいくつか聞きたいことがあるのだが良いだろうか?」
「あっ、はい」
「貴様は・・・この部屋に来る直前に何をした? どこのエリアで何をしたか、それでどういう現象が起きてこの部屋に辿り着いたのか、理解できているならば教えてもらいたいのだが・・・」
「えっ?えーと、たぶんエリア1・・・?です。 そのアウトゾーンの森の中にあったテントの中の青い魔方陣を起動させたら・・・いつの間にかここにいた、って感じですかね」
「・・・!? それでは何か? き、貴様、アルバス・イスラバードのフルネームを言えるというのか!?」
「えっ!? は、はい。え?間違ってなかったと思うんすけど・・・」
「・・・う、うむ、そうだろうな。今貴様がこうしてここに居ることが、1文字たりとも間違っていない何よりの証拠だからな・・・」
残念なイケメンは少しの間思い詰めたような表情をしたが、すぐに息をつき、肩を落として口を開いた。
「すまん、不躾な質問で申し訳ないのだが、貴様はいったい何者だ? 貴様がこの世界の人間でないことは十分に分かった。 しかし、だとしたらなぜ、どうやって、この異世界に来たのか教えて欲しい。 訳も分からず偶然、というわけではないのだろう?」
「は、はい。えーと、まずどこから話しましょうかね・・・ そうだ、俺は最初に秋葉原で・・・」
俺は今までに体験した一部始終を話した。
人間であり二次元オタクの俺がリーべの力で天界に誘われたこと。
リーべに天界で起こった騒動の顛末を聞いて、リーべと共に異世界に行く決意をしたこと。
そのリーべが異世界に着いてすぐ命を落としたこと。
そして俺が命からがら件のテントを見つけて、中にあった魔方陣を起動させたこと。
全てを事細かに語った。
残念なイケメンは終始無言で聞いていたが、話が進むにつれてどんどん表情を曇らせていった。
「・・・という訳で、今、俺はここにいる・・・っていう感じですかね、はい」
「・・・・・・・・マジか」
残念なイケメンは曇りに曇った表情でうなだれた。
「あんのバカ女神が・・・ 『下界の人間にみだりに接触するな』とあれほど口を酸っぱくして忠告していただろうが・・・ 下界の人間に接触しただけでも本部の神から厳重注意が下るというのに、天界に誘った挙げ句に別次元の世界に無断で送り込むなど・・・」
「あのー・・・?」
俺が『どうかしましたか?』と声をかけようとした瞬間、その残念なイケメンは座っていた椅子をものすごい速度で背後に蹴り飛ばし、俺の目の前に両膝をつき深々と頭を下げた挙げ句、ゴミの散らばる床にこれでもかと言わんばかりに頭を擦り付けた。
「申し訳ない!!!! 本当に申し訳ない!!!! ウチのバカ女神が、いや元はと言えばこんな世界を作った我が悪い!! 本当に、本当に申し訳ない!!!!」
「えっ!?ちょ!? え!?」
イケメンが俺に深々と頭を下げて謝罪している。
若干の優越感を感じたが、それよりも罪悪感の方が大き・・・
ん?待て。 今このイケメンは何て言った?
バカ女神がどうとか言わなかったか?
我がこの世界を作ったとか言わなかったか!?
「ちょっ、ちょっと待ってください! え!?もしかしてあなたって・・・」
「・・・うん?」
「天界連合日本支部のトップの・・・ラグナさんですか?」
「いかにも」
「」
「ん?それがどうし・・・」
「すんませんでしたーーーーーーー!!!!」
「な、何を言うか!?どう考えても悪いのはこっちだ!!明らかにこちらの不手際なのだ!! いや、本当に申し訳な・・・」
「すんませんでしたーーーーーーー!!!! さっきは『こっちのセリフだ!』なんて暴言
を吐いてしまい本当にすんませんでしたーーーーーーー!!!! どうかお許しください、魔王様ぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「い、いやいやそんなの全く気にしていないぞ!? というか我が貴様にした仕打ちを考えればもっと暴言を吐かれても良いくらいで・・・いや、もう本当にそれ以上謝るな!!我の方が心苦しくなってくる!!」
「ごめんなさぁぁぁぁぁぁぁい!!!」
「すまなかったぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ーーー5分後ーーー
「はぁぁぁ・・・はぁぁぁ・・・」
「はぁぁぁ・・・はぁぁぁ・・・」
俺とラグナさんは謝罪の応酬を5分間途切れることなく続けたため、お互い心底疲れきっていた。
由緒正しきジャパニーズピーポーも驚きの謝罪精神である。
いや、ただヘタレなだけか・・・
「これは・・・もう、あれですね。1回・・・全部水に流しましょう」
「うむ・・・貴様がそれで良いのなら・・・それで良い」
「えーと、ラグナさん? あなたがこの異世界を創ってこの世界の魔王として君臨している、ってリーべから聞きましたけど・・・それは本当ですか?」
「・・・あぁ、嘘偽りない。経緯についてはリーべから既に聞いているな? 我は天界の神々から逃れるためにこの異世界を創ったのだ」
「あのー、その事についてなんすけど・・・いや、天界連合本部の神々から逃れたいっていうのは分かりますよ? でも・・・それにしたってこの世界の難易度狂ってません? 最低限の装備すら無い上に、この世界の説明もない。おまけにモンスターのレベルは頭おかしいくらいに高いですし・・・完全に攻略不可能ですよね?」
「うむぅ・・・確かに少しばかりやりすぎたかな~とは思っていたが・・・やはり酷すぎたか。何度か難易度変更を行おうとは思ったが、既に設定を確立してしまった世界の設定を後から変更するのは予想以上に大変でな。 まぁどうせ本部の神々しか来ないのだから、別にこのままで良いかな~と・・・」
「いや、そりゃあまぁ神様たちは死んでも天界に戻れるわけですから、多少難易度が鬼畜でも良いとは思いますけど・・・でも俺みたいな人間は普通に死ぬんですよね? 人間の冒険者が来たときのことを考えて、もう少し難易度を落としても良かったんじゃ・・・」
「それだ!今回の件における一番の問題はそこなのだよ!」
ラグナは急に声を荒げて、俺の肩をガッと鷲掴みにした。
「うぇ!?な、何すか!? この世界に人間の冒険者が来ることが一番の問題、ってどういう?」
俺の当惑した様子を見たからか、ラグナはハッとして俺の肩から手を離し、1度大きく息をつくと再度口を開いた。
「いいか?まず大前提として、我は『この世界に人間が来ることを予想して』この世界を創ったわけではないのだ」
「・・・え?な、何言ってんすか! 現に今俺は今こうしてこの世界に・・・」
「それが特例中の特例、我にとっての『予想外』だったのだよ!! アホな女神が天界の規定を破って人間をこの異世界に放り込むなど夢にも思っていなかったのだ!!」
「・・・え?じゃあ、その『この世界で人間が死ぬと、その人間は生き返らずにそのまま永遠の眠りにつく』っていう設定は・・・?」
「この異世界に外部から転移してきた人間に対して創った設定ではない。 元々この世界で暮らしている人間の生死の基準を定めるために創った設定なのだ」
「んな・・・アホな・・・」
嘘だろ?それじゃあ俺は・・・
「とどのつまり、この世界は外部から転移してきた人間用には作られていないのだよ。まぁ難易度が狂っている以上、神用に作られてるわけでもないが・・・この異世界を攻略する可能性があるとすれば、何万回もこの世界で死を経験して異世界のシステムを完璧に頭に叩き込むことのできた者くらいだろうな」
この世界から帰ることは・・・
嫌だ。聞きたくない。
「・・・じゃ、じゃあこの異世界は、外部から転移してきた人間が1回も死なずに全てのエリアを攻略して魔王を倒せるような基準で創られては・・・」
「いない。というか、エリア1を攻略してエリア2に辿り着くことすら100%不可能だ」
聞きたくない。
「・・・俺がこの異世界から元の世界に帰れる条件っていうのは・・・?」
「8つ全てのエリアを攻略した上で魔王である我を倒すこと、残念ながらそれ以外にはない。そういう設定なのだ」
聞きたくない。
「・・・それって・・・現実問題・・・」
やめろ、聞きたくない。
聞きたくない。
聞きたくない!
「あぁ、貴様が元の世界に帰る手段は無い。残念ながら、それが現状だ」
「・・・・・・ふ」
「ふ?」
「ふざけるなああああああああああ!!!!」
詰んだと思った読者の皆さん。安心してください、詰んでませんよ!