~死と隣り合わせの俺の冒険~
急展開かも。
「・・・ねぇねぇ、龍牙。これって勝てるの?」
「無理」
「・・・この距離から逃げきれるの?」
「無理」
「・・・じゃあ、どうするの?」
「わかんね」
「ちょっと龍牙、諦めないで!!そんな悟った顔しないで!!」
いや、無理だろ。
何だ、レベル34って。
何だよ、このカッコいいモンスター。
何で片目が十字のキズでつぶれてんだよ。
絶対1面で出るモンスターじゃないだろ、これ。
魔王に玉座の横で飼われてるポジションのモンスターだよ、これ。
絶対一噛みでHP全部持ってかれるわ。
「グルルルル・・・」
「ちょっとちょっと、龍牙!!この虎今にも飛びかかって来そうなんだけど!? どうするのこれ、逃げれば良いの!?」
「いやはや・・・短い異世界生活だった」
「諦めちゃってる!!」
グルルルル・・・グオォッ!!
「ちょっ!?龍牙、危ない!!」
ついにキラータイガーが俺に向かって猛スピードで飛びかかって来た。
はは・・・唐突だな、もうゲームオーバーか。
まぁ、夢見すぎてたわな。ラノベみたいにヒキニートでも異世界でなら主人公やれると思った俺があまちゃんだった。
そんなことを考えながら、俺は全てを諦め静かに目を閉じた。
しかし、俺の体に訪れるはずの衝撃や激しい痛みはいつまで経っても訪れなかった。
唯一、俺の体に届いたのはーーーー
「うぅ・・・! あっ、あぐっ!痛い、痛いっ!!」
聞き覚えのある悲鳴だった。
俺が急いで目を開けるとそこには・・・
「っ!? バカ野郎!!おまえ何やってんだ!!」
キラータイガーに押し倒され肩を鋭い牙で切り裂かれたリーベが横たわっていた。
リーベのトレードマークだった白い服がみるみるうちに紅に染まっていく。
「ん、うぐっ!! だ、大丈夫、私は・・・すぐに生き返れる・・・らしいからぁ。 で、でも聞いて・・・ないよ。し・・・死ぬ時は普通に痛いなんて・・・」
「だ、だからってそんな簡単に命を投げ出すバカがいるか!! この世界じゃ俺とおまえは対等だろ!!」
「そ・・・そうだけど、ほら私、神様だから、何か・・・ほっとけない・・・ってゆーか。 ほら、わ、私が引き付けて・・・おくから、は、早く逃げて。 私も、すぐ追いつkうあああああああぁぁぁぁぁ!!!」
キラータイガーがリーベの腹部に刃を立てた。
血が噴水のように腹部から溢れだす。
それとは反対に、リーベの口から止めどなく溢れていた悲鳴がテレビの電源を切ったようにブツンと止まった。
ついさっきまで、いや本当につい1分前まで、あんなに騒がしかったリーべの口からはもう何の音も聞こえなくなった。
リーベの輝かしい瞳から徐々に光が失われていく。
死・・・
その目を見た瞬間、俺は全速力で反対側の森林目掛けて駆け出していた。
走った。
とにかく走った。
振り返ることなく、走りに走った。
息が切れても、つまずいても、止まらずにただただ走った。
気づけば、俺の目からは涙が溢れていた。
痛いくらいに歯を食い縛っていた。
「……………死んだ」
死んだ。
すぐに生き返れるとはいえ、リーベはこの世界で、俺の目の前で、確かに死んだ。
たった数秒、飛べば吹くような本当にわずかな時間。
その一瞬、ただその一瞬で命の炎が吹き消された。
何だよ、これは。
何だよ、この世界は。
何だよ、俺は。
ふざけんな、ちくしょう!
ちくしょう!!
「ちくしょう!!!」ーーーーー
ーーーーーどれくらい走っただろう。
もうモンスターの気配はない。
どうやらキラータイガーとかいう化け物からは逃げられたようだ。
だが・・・
「はぁぁぁ・・・はぁぁぁ・・・おえっ・・・」
俺は今地面に倒れこんでいた。
ついに俺の体力が限界を迎えたのだ。
それに・・・
「はぁぁ・・・やべぇな・・・暗く・・・なってきた」
キラータイガーから逃げられたとはいえ、俺を取り巻く状況は依然として最悪だった。
なぜなら、もう夜が来る、近くに身を隠せそうな場所がない、そもそもデタラメに走ってきたから今自分がどこにいるのかも分からない、もう俺を守ってくれるリーベはいない・・・などなど、数えきれないほどの悪条件が俺の身体にまとわりついているからだ。
正直、もうどうしようもない。
リーベから貰ったこの命、無駄にはしたくないが・・・
「くそっ!どうしろっつーんだよ!!」
この異世界のハードさを改めて実感した。
身に染みて痛いほどに実感した。
俺はさっきこの世界を『ハードモード』と形容したが、訂正する。
あんな夢に出そうな血みどろの光景が日常茶飯事の世界だと言うのなら・・・
この世界は文字どおり『ナイトメアモード』だ。
「くそっ・・・どうしろっつーんだよ・・・」
俺は自分の身を預けるために近くの木に擦り寄った。
「はぁ・・・とにかくこの夜を無事に越せることを祈るしかねーか・・・」
口ではそう言ったが、たぶんそれも叶わぬ夢だ。
モンスターが跳梁跋扈するこのアウトゾーンでモンスターに見つからないなんて奇跡が起きない限り不可能。
周りには人工物はおろか隠れる場所すらない。
こうして地面に手を伸ばしても、触れるのは湿った土だけ・・・
ガサッ
「・・・あ?」
俺の手が空中で何かに触れた。
何を言ってるか分からねぇと思うが、俺だって何が起きてるか分からねぇ。
何もない空中で俺の手が布とか革みたいな手触りの何かに触れている。
両手でその空間を触ってみる。
ガサッ、ガサッ
確かにここにある。俺には見えないが、確かにここには何かがある!
そう確信した瞬間だった。
「うおっ!な、何だよこれは!・・・テント?テントがあるぞ!?」
俺の目の前に突然大きな黒いテントが現れた。
・・・現れた?いや、現れたんじゃないか?
考えてみれば・・・この木の横には最初からテントがあった気がする。
いや、あるわけない。あったらすぐ気づくはずだ。現に俺は今こうして初めてこのテントの存在に気づいたわけだし・・・
あ?いや、あった!倒れたときから俺の視界にこのテントは入ってたぞ!?
どういうことだ、俺の頭はどうなってんだ?
そもそもこのテントはいったい・・・?
「ん?何だ?このテント何か表面に描いてある? 黒地に赤のインクで描いてるからよく見えねーが・・・これはもしかして・・・魔方陣か!?」
そうだ、苦しい現実ばかりで忘れてたがここは異世界。
ラグナの作ったファンタジー系の異世界だ。
もちろん魔法だってあるはず。
この気味の悪いぐちゃぐちゃした模様は恐らく魔方陣のそれだ。
しかし・・・だとしたらこのテントにはいったい何の魔法がかかってんだ?
俺はそこまで考えて先ほどの奇妙な違和感、『なぜ俺はテントが目に入っていながらテントに気づかなかったのか』の正体に見当がついた。
「・・・『認識阻害』。モンスター避けのために認識阻害の魔法が編まれてんだ」
推測ではあるが、1つの疑問が解消された。
しかし、それと同時に新たな疑問が浮かんだ。
「・・・誰が、いったい誰がこんなテントを造ったんだ?」
脱・この○ば