~再び始まる俺の冒険~
筆が進みだした!
「・・・フッ、弱気になったかと思えば急に強気になったり・・・色々忙しい奴だな、貴様は」
ラグナは肩を落とし、どこか安心した様子でそう呟いた。
「だがまぁ、そう言ってくれると我自身も非常に助かる。 ・・・さて、あまり長くここで時間を潰していては、スタート地点で待っているリーベの命が危険に晒されるな。そろそろエリア1に赴くとしようではないか!」
「そ、そうだった!リーベは今たった一人で夜の樹海にいるんだもんな! ラグナさん!あんたの魔王としての力、頼りにしてますぜ!!」
俺とラグナは目を合わせ互いにニッとはにかんだ。
まだ出会って数十分の間柄だから『以心伝心』というのは少し言いすぎかもしれないが、この時、俺とラグナの心はほとんど1つになっていたように思う。
「では、これよりエリア1へのゲートを開く!衝撃に備えろ!!」
ラグナはそう声を張り上げると、両手を地面につき両の掌に力を込め始めた。
すると、次の瞬間、ラグナの掌から黒い魔力のようなものが溢れ出し、みるみるうちに床全体が黒い闇に覆われていった。
すげえ・・・
この世界に来て初めてちゃんと魔法を見たが、やっぱり何と言うか、ある種の『凄み』を感じる!
機会があれば俺も魔法を使ってみたいもんだ・・・
などと考えていると、エリア1で魔方陣を起動させた時にも体験した、足元の空間が歪む感覚が到来した。
どうやらもう空間転移が始まったらしい。
恐ろしいモンスターが我が物顔で跳梁跋扈する異世界。
人の命が蝋燭の火を吹き消すかのように簡単に奪われる異世界。
俺はそんな異世界に自らの意志で帰ることを決めた。
恐怖を全く感じていないと言えば嘘になるだろうが、俺の心は不自然なくらいに落ち着いていた。
理由は・・・言うまでもないな。
最高に頼もしい仲間をパーティーに加えた俺にとって、もうあの異世界は地獄じゃない。
待ってろ、リーベ!
待ってろ、モンスター共!
待ってろ、異世界!
今この瞬間が、俺の冒険の真の始まりだ!!
「・・・うぉっ!眩しっ!」
急に開けた視界に、テントに釣り下がった照明の強い光が差し込んだ。
「うっ・・・確かに眩しいな。空間移動ですっかり闇に目が慣れていたからだろうが・・・」
「おー、そういうわけか。・・・まぁ、何にせよエリア1に戻ってこれたみたいだな」
俺は片目を擦りながら辺りを見渡した。
黒い壁に、足元の蒼い魔方陣。
間違いなく俺がついさっき魔方陣を起動させたあのテントの中だった。
「うむ、そのようだな。・・・しかし、まさか我以外の者がこの魔方陣の裏コードを起動させるとはな・・・今でも信じられんよ。 元々このテントは我自身が魔王城とエリア1を行き来するために造った施設でな。誰にも気づかれないようにと認識阻害の魔方を編み、エリア1にいる際に魔力が切れてしまう事態を考えて魔力を消費しない空間転移の魔法も編んでおいたのだよ。魔法陣起動の裏コードも我にしか分からぬよう決めたつもりだったのだが・・・ 貴様、もしかしなくても相当のオタクだな?」
「あ、あぁ、それなりにはな。そういうラグナだって、リーベの話を聞く限りだとけっこうな熱の入りように思えるぜ?」
「フッ・・・まぁ、情熱に関しては人一倍あると自負しているが、いかんせん我はまだオタク入りしてから月日が浅い。おそらく、知識量で言えば貴様には敵わないさ」
「いやいや、そんなこたぁ・・・じゃなくて!こんなとこで時間潰してる場合じゃねーだろ!? 早くリーベを助けに行こうぜ!」
「おっ、おう、そうだったな。では、行くとするかね」
ラグナはいそいそと黒いテントの入り口を塞ぐ生地に手をかけ、ガサガサと音を立てるそれを一気に引き上げた。
するとそこに広がっていたのはーーーーー
「・・・むぅ、うっかりしていたな。外の世界は夜だったか」
闇。
辺り一面を覆う、墨汁を溢したような深い深い闇だった。
俺はリーベに「人工物の無い森林は夜になったら自分の手の先さえ見えなくなるほど暗くなる」なんて言ったが・・・
「こりゃあ手の先どころか地面すら見えねえな・・・ 1歩先にちゃんと道があるのかすら分かんねぇぞ」
リーベを一刻も早く迎えに行きたいのは山々だが、これじゃあ俺たちも安易に出歩くわけにはいかねーよな。
「これは流石に太陽が昇るまで待つしかねーか。ラグナさん、一旦テントの中に・・・」
「火影!」
・・・え?何?急にジャンプマンガの話?
「いや、急に火影って言われてもそれって何代目の・・・うぉっ!」
ラグナの方を振り向いた俺は目の前の光景に目を奪われた。
空に向かって差し出されたラグナの掌の上で、ハンドボール大の大きさの炎の玉がユラユラと揺れ動いていたのだ。
しかも、驚くべきことにその炎は黒かった。
黒いと言ってもコールタールのようにベッタリとした黒さではなく、黒い絵の具を澄んだ清水で溶いたようなぼんやりした綺麗な黒だった。
さらに・・・
「えっ!?あ、明るい!?」
その黒い炎は嘘みたいに明るかった。
どこからどう見ても黒いのに、買い換えたばかりのLED電球並みの光を放っていたのだ。
「すげぇ・・・ラグナの顔だけじゃなくて辺りの景色もはっきり見えるぞ! それももしかしてラグナの魔法か!?」
俺はその不思議な光景に感動して、少し興奮ぎみにラグナに問いかけた。
「ご明察。我が使う魔法は闇魔法にカテゴライズされる『影魔法』なのだよ。 これは低級魔法の『火影』。あまり威力はないが、明かりとしてならそこそこ役に立つ。 強い光を放つが、黒色だから眩しくなく目にも優しいのだよ」
ラグナは少し得意気に自分の魔法について説明した。
影魔法か・・・カッコいいな。
いや、影に限ったことじゃないか。
炎にしろ雷にしろ、やっぱり魔法はカッコいい。
ド派手な魔法を使ってモンスターをぶっ飛ばすのは異世界モノの定番だもんな。
俺も魔法使いになりてーもんだが・・・
「では、改めてリーベの元に向かうとしようか。 夜は多くのモンスターが凶暴化する。はぐれずに付いてこい」
「お、おう!頼むぞ!ラグナの力が俺の生命線なんだからな!?」
まずはこのアウトゾーンを生きて出ないとな!
筆が止まりだした!
次回から本格的♂戦闘だ!




