~魔王と進める俺の冒険~
やっと本格的に冒険が始まります、たぶん
ラグナは引きこもりのオタクとは思えない手捌きで黙々と部屋を片付けていった。
片付け始めてからまだ5分程度しか経っていないのに、常軌を逸して汚かった部屋が見違えるようにきれいになっていた。
やはり腐っても神、色々とハイスペックなんだな、なんてことを色々考えていると、ラグナがふと口を開いた。
「掃除をすると心もきれいになるという話は本当なのだな。先程よりも幾分か心の整理がついたわ」
「へ、へー・・・そうなのか」
正直、掃除、というか家事全般が苦手な俺にはあまりその気持ちは分からんのだが。
「先程は言おうか言わまいか迷ったが・・・やはり言うことにしよう。 リーベの様子が心配と言ったが・・・別にリーベがこの世界で死ぬ程度のことなら良いのだよ」
「死ぬ程度のこと・・・? なーに言ってんだよ、ラグナさん。この世に死ぬよりも怖いことなんてーー」
「ある」
ラグナは俺に背を向けて部屋の片付けを進めながら、そう強く言い張った。
「・・・あんのか?」
「ある」
「ちなみにそれって・・・?」
俺は恐る恐る聞き返した。
そんな俺の心境とは裏腹に、ラグナは尚も強気で言った。
「例えば、だ。神がこの世界で死んだとする。そうすると貴様も知っての通り、その神は天界に強制送還される。そしてその際、身体に負った傷は完治するわけだ」
「おう、何も問題は・・・」
「心に負った傷は一切治らん」
寒気が俺の背筋を吹き抜けた。
「この世界には生物の身体の形状を奪うことに特化した魔物が数多く存在する。 しかし、中には生物の、いや人間の精神の形状を奪うことに特化した魔物もそれなりにいるのだよ」
ゴクリ
俺の喉が無意識のうちに唾を飲み込んだ。
「さらにもっと趣味の悪い奴もいる。生きた人間を水晶のオブジェに変えて部屋のインテリアに飾る奴とか、捕まえた人間の臓器を機械に組み換えて永遠に死ぬことのない奴隷として働かせる奴とかな。そいつらに捕まったら最後、2度と死ねない。いくら死にたくなっても、な。 それと・・・」
「おっ、おいおい!ちょっ、ちょっと待て、待ってくれ!」
俺は堪らず大声を張り上げた。
「し、心臓に悪いぜ、ラグナさんよぉ・・・ 俺はこれからその世界で冒険するんだぜ? もう少しオブラートに包んで話してくれてもよぉ・・・」
ラグナは持っていた山積みの雑誌を床に置き、久々に俺の方を振り返った。
「・・・まぁ、貴様のその反応も当然だ。普通こんな説明を聞かされたら、進んでこの異世界で冒険したいなどとのたまう酔狂な輩はいないだろうよ。 恐らく、貴様も今はそう乗り気ではないのではないか?」
「うっ・・・」
ぶ、ぶっちゃけその通りだ・・・
「フッ、ズバリ的中と言ったところかな?
・・・実のところ、我は怒っているのだよ。先程から激しく、な」
「へっ!?す、すみません!!決してやる気が無くなったわけでは・・・」
「いや、貴様にではない。・・・我自身にだ!」
「・・・え?」
「至極自分勝手な都合で異世界を創造し天界の風紀を著しく乱しただけでなく、その世界に無関係な下界の人間である貴様と元部下であるリーベを危険に晒してしまった自分が!自分の身勝手さが!自分の視野の狭さが!憎くてしょうがないのだよ!!」
ラグナは先程の俺のはるか上を行く大声で、強く噛み締めるようにそう言い放った。
「だからこそ・・・リーベを、そして貴様を、我が自ら命を張って守りたいのだ。 貴様らの命は我が保証する。もちろん貴様らのレベルを上げるために我があえて手を出さない場面も多々あるだろうが、基本、我は貴様らについて回る所存だ。 だからどうか・・・我と共に冒険に出てくれないだろうか? 我はエリアボスに干渉できぬ故、この世界を攻略するためには貴様らの力が必要なのだよ!」
・・・まさかラグナがそんなに真剣に俺たちのことを考えていたとはな。
何だ。
そんなデカい熱意に比べたら、俺の心に生まれた不安なんて・・・
「・・・断るわけないだろ!もちろん冒険には出させてもらうぜ!」
米粒みてーに小さなもんだ!!
始まりませんでした
本格的な異世界生活が始まるまでに10話以上かかる異世界小説があるらしい




