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第7章・幸先

 そして、いよいよ香奈の誕生日を迎えた。


 一家揃っての外出は、家族とコミュニケーションをとり、夫として、父親として威厳を見せることができるチャンスだが……


「……しっかりしてよ、あなた」


「ゴメン……」


 おやおや、まだ家を出てすらいないのに、TVのニュースを見ながら妻にしかられている。一体、なにがあったのだろうか?


「まさかいきなり潰れるなんて思わなくて」


「あんな今にも潰れそうな古い動物園なんか選ばないで」


 ……と、いうことらしい。今朝、その動物園の閉鎖が突然に決まったらしい。


(せっかく犬飼君が手伝ってくれて調べたのに……なんでよりによってこのタイミングで潰れちゃうんだろう……)


 早くもつまずいてしまった。しかし、今日の辰真はいつもと違う。この程度でへこたれはしない。


「こんなこともあろうかと、もう一箇所候補地があるんだ」


 と、元気付いて出発したはいいが……


「……いつもの公園じゃない」


「……ここ、通学路の近く……」


「ほ、ほら! カナももう6年生なんだし、遠くに行くばっかりじゃなくて、もう一度近場を見つめなおすってのもいいだろう、って、その、ハ……ハハハ」


 公園は割と広く、以前述べたように隣にグラウンドがあり、その反対側の隣には深い堀がある。日当たりのいい自然の豊なところだが、わざわざ家族連れで来るようなところだとはお世辞にもいえない。


「いやー、天気がいいなぁ」


「で、公園まで来たけどこれからなにするの?」


「え、えーと……その、あ! 向こうでなにかの練習やってるぞ! あ、あああれは、野球、かなぁ、うん、あれはカナと同じ小学校だな。ハハハ」


「え!?」


 辰真は出来るだけさりげなく(白々しく)隣のグラウンドに移動する。


 まさしく、野球クラブが練習に励んでいるところだった。


(神代君は……いた! これで少しは機嫌が……)


「お父さん、ちょっと練習見に行っていい?」


(よし!)


「お父さん?」


「あ、ああ。いいよ」


 お〜い……いいのか? それで……。まぁ、なにもないよりかはマシだろうか。


「いくぞー! 才輝! オレの魔球打てるかぁ!」


「そーゆーセリフは……まともにストライクゾーンに投げられるようになってから言え!」


 バシン!


「ボール、フォア!」


「あーっちくしょー!」


 香奈はその様子をじっと見ている。


「ちょっと、あなた……」


 妻が辰真を公園に連れて戻る。


「これは、家族で出掛ける必要あるの?」


「えー……と、それは、その……ゴメン」


「今謝られてもどうしようもないわよ」


「……」


 気まずい空気だ。辰真は無理に話題を変えようとする。


「あ、そうだ! カナが好きだって言ってた神代君の写真、あげようか……?」


「……あ・の・ねぇ、あなた」


 ここで、妻は大きくため息をつく。


「自分の色恋沙汰に父親が絡んでくるのって、年頃の女の子にとっては最もいやなことなのよ。気が利かないわね」


「!」


 ……効いた。これは効いたぞ。かろうじて明るく振舞っていた(振舞おうとしていた)辰真も、これには完全に参った。


「そ、そうか……そうだよ、ね」


 がっくりと頭を落とす。それを見た妻が一応フォローを入れる。


「今のところ、カナが楽しんでいるのが救いね」


 その香奈は、いまだに野球の練習風景に見入っていた。正確に言うと、練習に打ち込む神代才輝に、だが。


「次、孝太郎はいりまーす!」


 先ほどピッチャーをしていた生徒がバッターボックスに入る。


「見てろよ才輝ぃ! バッティングのダイゴミはやっぱりホームランだ!」


 そう言って力強くバットを振る。


 マウンド上から放たれた白球が吸い込まれるようにバットに当たる。カキーン、と小気味良い音がして、ボールは真後ろに高く飛んだ。


「あー! ミスった」


「おい、相当飛んだぞ、あれ」


 そして、この大ファールが波乱を呼ぶのであった……

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