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エピローグ・季節はずれの春一番

「はーーーつーーーほーーー!」


 おやおや、朝っぱらからまたもや木場が辰真に大声を出している。


(あ、あれ? 僕、今度は何をやらかしたっけ? ……わからない。けど、とりあえず謝っておこう)


「ス、スミマセンでした……」


 辰真は深々と頭を下げる。しかし……


「はぁ? なーにやってるんだ、お前」


「え? (謝り方が足りないのかな? それじゃあ)本当に、申し訳ありませんでした!」


 もう一度、さっきよりもさらに深く頭を下げる。


「……!」


(……?)


 ようやく、木場がすれ違いに気付いた。


「いやいや、そうじゃなくてだな。初穂、お前もやればできるじゃないか」


「え?」


 辰真は驚いて顔をあげる。


「まぁ、記者としてはやや微妙だが……人間として、よくやった」


「はぁ……」


 未だにボンヤリしている辰真に、木場がなにかの原稿と写真を放り投げる。


「ついでに、仕事の方もそのくらい頑張ってくれよ」


 そう言って木場は自分のデスクに戻って行った。


「なんのことだろう……」


 辰真は席について渡された原稿と写真に目を通す。


「あ! これは……」


「上手く撮れているでしょう?先輩」


「犬飼君……」


 オフィスに入ってきた犬飼はイタズラっぽく笑って辰真の隣に座る。


「正直に言って、少し心配だったので。コッソリ後をつけさせていただきました」


「み、見てたんだ。コレ」


「フフ。おかげでおいしいネタがとれました。ほら、コレ見てください。カナちゃんのすごく嬉しそうな顔」


 新たに手渡された写真には、香奈の喜びが写っていた。


「……どうです? 大したものでしょう」


「いや、その、カワイイなぁ。やっぱりウチの子は」


「ってそっちですか! 褒めるのは」


「あ、ハハハ。ゴメンゴメン。犬飼君もスゴイよ。ちゃんと仕事と両立できてるんだから」


「冷静に真実を伝えるのが仕事ですからね。……でも、見てるだけってのもツライですよ。人の危機に仕事してる場合かって葛藤が……」


 そう言って犬飼はわざとらしく頭に手を置く。


「でも、先輩がなんとかしてくれるって信じてましたから、安心して見守っていました。」


「そ、そう?」


 ハッキリ「信じている」と言われて照れている。


「じゃ、先輩。この原稿預けますよ」


「え?」


「前に行ったじゃないですか。自分の体験がないと人には感動が伝わりにくいって。だから、この続きは当事者に任せます」


 犬飼は原稿を辰真に押し付け、そのままオフィスを出て行く。


「あ、お〜い、犬飼君……」


「私、朝一から取材予定があるので。それでは」


 足早に歩き、犬飼は会社の建物から出る。


 そして、辰真のいるオフィスを見上げて小さくつぶやいた。


「……がんばってね。おとーさん」


 



 原稿を前に記憶を探る辰真の顔には、ほんの少しだけ力強さがあった。ふと、頭に浮かぶのは娘と妻の笑顔。


(今日は早く帰って、一緒に晩ゴハン食べよう)


 ――働く男の心に、季節はずれの春一番が吹き渡った。


 


 不器用に生まれ持った男は、なにかと気苦労が多いものだ。


 さぁて、辰真よ。今回は上手くいったが、娘はそろそろ反抗期を迎える年齢だ。まだまだこれからが正念場だぞ。まったく、年頃の娘というものは……


 ……と、子育て談義は置いといて、いかがだったかな?今回の話は。


 もちろん、その後の彼らについてもっとじっくり話すことはできる。しかし、この町にはまだまだ、「語られるべき物語」が存在するのだ。


 今度この町を訪れることがあれば、その中の一つを紹介しよう。


 ……私の名前は魅月町。また、会う日まで。ごきげんよう。

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