第7話 誘拐駄目
………考えが甘かったんです。
………6歳児の体格ではお母様みたいに拳一つで石どっかーん!とはいきませんが……
前世よりはスピードも上がりました。スタミナだって、体力だって…いざとなれば女の子ぐらいもって屋根の上に逃げるとかも出来ると思います!
だから、ちょっとは━━━━と思っていたのですが………
ドッコオオオン
力一杯振るった木の棒に当たった敵。
なんだか心配しちゃうようなすごい音を立てて路地裏の壁に減り込みました。
しゅうう…
漫画みたいにレンガの壁に頭からめり込み、とっても、その、痛そうです。
日陰で冷えた路地裏の空気が余計冷えて、固まったような気がしました。
「……」(女の子)
「……」(めり込んでいる敵)
「……」(敵2)
「………あの、大丈夫ですか?」(私)
反応はありません。
私、かなーりマズイことやらかした気がする。
「あ、あの……」
ちらっと無事な方の男を見たら、ひいっと悲鳴を上げて逃げてしまいました。
「え゛っ、ちょまっ」
残された、減り込んだ男と見知らぬ女の子と私。
なんだか、とても居た堪れない空気です。
「あ、あはは……」
笑って誤魔化します。誤魔化せて無いですが。
と、とにかく!一応放って置いても如何かと思うので、男にてててっと近づいて声をかけてみました。
「あのー?もしもーし!大丈夫ですか?」
「……」
返事はありません。
━━━━━━━━し、死んでいるのでしょうか?
恐ろしい可能性にぶんぶんと首を振り、とにかく起こそうとぐいぐいと男を引っ張ってみました。
「……」
返事はありません。ただのしかばねのようです。
冷や汗がどっと出て来ました。
「しっ、死なないでくださいまだ捕まりたくないですごめんなさいごめんなさいやりすぎましたぁあぁぁ!」
子供助けようとして大人殺した何て、笑い事じゃ済みませんよっ!
大慌てで引っ張ったり軽く叩いたりしましたが反応はありません。
も、もしかして……と、涙目になった、その時。
「……死んではないですよ。」
座り込んで固まっていた女の子がぼそり、と呟きました。
「死んではないです。僅かですが鼓動があります。」
女の子は続けました。
黒い耳がピクピク動いています。あっ、獣人さんだからそういうことがわかるのでしょうか?
「多分……ほっといても大丈夫でしょう。」
「し、死んで無い……?本当ですか!?良かったー、本当に良かった!」
死んではいない、だそうです!本ッ当に安心しました。
嬉しいー、流石に人殺しはしたくなかったです!
目を潤ませて喜んでいると、女の子が訝しそうに見ていました。
あ、そうです!この女の子のこともどうにかしなければ!
えへへっと笑ってごまかしたあと、刺激しないようにそっと近づきます。
「………?」
ビクッとまでにはいかないですけど、かなり警戒されました。
今まで見えなかったのですが、生えていた黒いしっぽがもはっと大きくなりました。
くぅ……敵意むき出しって感じです。
「あぁあ、私はあなたに何もしませんよー?」
野良猫に話しかけるような感じで話しかけました。
相手は座っていて私が立っている……のはちょっと申し訳ないので私も目の前に座ります。
つまり、向かい合って座る形ですね。
「な、にか用ですか?」
こっちをじっと見つめて聞いてきました。
怯えていても相手はきちんと正面から見据える、中々度胸のある子です。
「えっと……家は何処?一人で帰れる??って思って……もしよければ送って行くけどと……」
子供一人夜道は危ないと思ったのですが、アクアマリンのような美しい瞳で見つめられると少し怯えてしまいます。ところが、です。
女の子はフッと目を伏せて、
「……私には帰る家などありません。」
心なしかしょんぼりしているような気がします。
むぅ……五六歳ぐらいの年齢なのに、なんだか暗い過去を背負ってるのでしょうか?
って言うか家がないって大丈夫ですか!?孤児さんってことですよね……?
「え、あのえっと……」
改めて女の子を見ます。
泥と血で汚れたサラサラとした黒い髪。白くきめ細かく、小さくて細い体。大きな瞳。長い睫毛美しい顔。
儚げな美少女ってこう言う子の事をを言うのでしょうか?
頼りなく、吹けば飛ぶような体つき。こんな子が孤児なら、きっと明日にでも死んでしまうでしょう。
━━━━絶対ダメです。
「そんなの絶対無理です!」
「はい?」
急に大声を出した私をキョトンとした目で見た彼女に、言いました。
「ちょっと私と一緒に暮らしましょう!」
「はあ?」
目を丸くするその姿も儚げです。こんな子、一人にしたらすぐ死んでしまいます!
「あなたみたいな子が一人で居たらまた悪い人に捕まってしまいます!ダメです!」
「え、えっと……」
「ね!一緒に行きましょう!我が家へ!」
「え、ぼ……私が貴方の家に行くのですか?一緒に暮らす、え?」
「その通りですよ!」
「え!いや……それはえっと」
「ダメですか?」
「え!……………ダメ、ではないですけどでも……」
「じゃあ決まりですね!」
「えっちょま」
女の子の手を取り、お姫様抱っこで我が家へ向かいます。
本能的に、この子を一人にしてはいけないと感じていました。
お姫様だっこはサービスです。
きっと、悪い子ではないはずです。悪い子だとしても傷だらけの子を見捨てるほど私冷たい人じゃないです!
そんな事を考えながら私は家への帰り道を走っていました。
「えっ、嘘速いですちょっととま」
「しゃべると舌を噛みますよー?」
「…………!!!」