第6話 助けます
商店街の前の方は、様々なお店がたくさん並んでいます。
ちゃんとした店構えのお店から、フリーマーケットのような晴れの日限定のお店もあります。
こういうところは、ワクワクしますよね!
まずは服ゾーンへ。
たっぷり時間をかけて見回って、やっと見つけました!
ずっとずっと欲しかった、子供用よそ行きドレス!
貴族の子供セットと名前の付いた袋の中に、小さく紛れた上等の布の気配。それにいち早く感づいた私を褒めてあげたいです。
気品のある紫色のドレスです!子供用なのですが、貴族の、と名付けられるだけあって本当に良い出来です。
あぁ、こういうドレスに憧れてたんですよーー!!
そして宝石ゾーン!
宝石関係は無知だったのですが、なんだかキラキラした羽の形をした美しい髪飾りとブローチがセットになった、高級そうな細工を発見したのでついつい買っちゃいました。
真っ白な輝きが眩しいです。ちょっと良い買い物をしたかもしれませんね!
そうして、ウキウキした気分に帰途に就こうとした、その時。
ふと、前に歩く男二人の大きな袋から、人間の手らしきものが伸び、引っ込みました。
「えっ」
いやいやいや、と思わず固まります。
改めて前に歩く人を見ます。ガタイのいい、ちょっと薄汚れた感じの男二人組ですね。背中に子供一人は余裕で入りそうな大きな袋を膨ら前歩いています。
ぞっと、背筋に悪寒が走りました。
この世界でも、人身売買や奴隷は禁止されています。けれど裏では未だに、そういったことに手を染める人も多いんだとか。
━━━━━━━━もしかしたら、の思いが脳から離れません。
一瞬でしたけど、あれは確かに!
そう考えた時、わたしの足は自然に男たちを追っていました。
━━━━助けなければ。
ゴーン、ゴーン、ゴーン、ゴーン、ゴーン、ゴーン、ゴーン、
王都の真ん中の貴族街に立っているという時計塔が、六回鐘を鳴らしました。
六時を知らせる鐘です。
たしか、王都に来たのはお昼でしたよね?
いつのまにか買い物にずいぶん時間をかけてしまっていたようです。
頭上に登っていた太陽はいつの間にか沈み、徐々に冷えた夜の時間がやってきました。
基本的に朝方の商店街は、賑やかだった道から一人、また一人と人が居なくなり、店も消えてゆきます。
そして隣の冒険街……水商売のお店や、酒場の多いところがだんだんと賑やかになって来ました。
しばらく追っている間、二人組はうろうろうろうろと、器用に人通りの多い所を避け奥へ奥へと進んでいます。どうやら、冒険街へと向かっているようです。
「おにぃさーん!あっそびましょぉー?」
「お酒もあるわヨォ〜」
「………」
色っぽいお姉さんがたくさんいる所に来ました。
体は7歳児なので、ジロジロ見られています。場違いな空気にちょっと恥ずかしくなってきました。
まったく、こんな中ですたすたと歩ける技を分けて欲しいものです。
ですが、下ばっかり見ながらとぼとぼと進んでいると時々走らないと追いつけないほど離されていたりします。その度に慌てて走るので、何だか疲れてきました。
追いかける足がまた一層草臥れて来たなぁ、と思った、その時。
男の片方が担ぐ袋が、一層激しく動き出しました。
「た…けて!」
小さいけれど、確かにぼそりと、子供の声が聞こえました!
人通りの少ない道ですが、その怪しさは道行く人の視線を集めています。
「………チッ」
「行くぞ。」
「あ…」
二人組は珍しく路地裏へ消えて行きました。
慌てて後を追います。
「……?」
湿った空気が流れる、水商売のお店とお店の間の路地裏です。
賑やかな声とお酒の匂い、土の匂いとカビと埃の匂い。
思わず咽せてしまいそうになります。
男たちは、路地裏の奥に進んでいったかと思うと隅の方で突然止まりました。
少し離れて路地裏に落ちている捨てられた家具類などで隠れつつ様子を見ていると、男たちは袋をひっくり返して揺さぶり始めます。
「うぐっ…」
中から、どさっと子供が落ちてきました。
思わず背筋が凍ります。やっぱり、あれは子供でした。
「ーーーーーーー!」
言葉にならない悲鳴と怒りで目の前が真っ赤に染まります。
その子供は、ぼろぼろで傷だらけでした。
えっと、一応出てきた子の説明をしますと…
抜けるように白い肌とサラサラしたショートカットの黒い髪。理知的な光を湛えた大きな青い瞳。怯えのなかに怒りの炎が灯っているのがなんだかプライドが高そうで、貴族様っぽいです。貴族の子供でしょうか?
特徴的なのは、黒い耳が生えているところです。獣人さんなんて、初めて見ました。
美少年…美少女?どっちかはわかりませんが、とにかくとてつもなく綺麗な子です
うーん、あの子…少女…でしょうか。いえ、少年…?少女っぽいけれど、髪の毛の長さを見ると男の子かなって思っちゃいます。あーでも、短い髪の女の子も最近いるしなぁ……
そんなふうに考えていると、突然二人が子供のことを殴り始めました。
「てめぇ!少しでも暴れたら殺すっつただろうが!」
「殺すぞ馬ッ鹿野郎!」
「ーーーーー!」
ぞっとしました。なんであの男たちはあんなに殴れるのだろうとも思いました。
負けじと睨みつけて、腕で健気に攻撃を受け止めるその子供が可哀想です。
━━━━━━こんなの、絶対見捨てられません!!!
気づいた時には、怒りに任せて家具の影から勢いよく飛び出していました。
「この、幼児虐待!何やっている!今すぐやめなさい!」
自分としては格好いい登場だと思ったのですが、男たちにも、女の子にも呆けた顔を向けられました。
「おい、お嬢ちゃん。こんな路地裏で一人でいたら危ねえよ?」
「くふっふふ」
にやにやした男たち。あ、私を攫うつもりですね!
「私に触ったら火傷するわよ!」
顔に手を当てる、厨二ポーズって奴をしてみました。
一生に一度は言ってみたかったんです、このセリフ。
━━━━━━━━あ。
火傷するわよ、と言ってみましたが、この人たちと私って、どっちが強いんでしょう?
そう気づいた時にはもう遅く。
私は敵の前で落ちてた木の棒を掲げていました。頼りない戦闘態勢です。
敵はニヤニヤしながらこっちを見ています。女の子は顔を手で覆っています。
よく考えたら私、お母様に一度も勝ててないし、それ以外の人とは戦ったこともないし…………
額から脂汗が出てきましたが、ま、まままあいいです。
い、一応お母様になんとかって言う戦い方を教えてもらいましたし!
もしも私が勝てなくても、その隙にあの子が逃げればいいんですし!
勢いで行動することって前世も何回かあったんですよね……っ!
「ちょっ、ちょわーーーー!!」
思いっきり木の棒を振り回しながら敵駆け寄ります。
たかが木の棒、されど木の棒!目に入ると痛いんですからね!
とにかく、お母様から教えてもらった技の一つでも使いましょうか!
「えっ、えっと……吹き飛ばし!」