表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/32

第3話 お母様は

 我が家には、すごく立派なお風呂場があります。


 元日本人としては大浴場は譲れなかったので二歳の誕生日にお風呂をねだり、なんと作ってもらっちゃいました!

 えと、「今日はミラの誕生日だが、何か欲しいものはあるか?」と聞かれたので「よくそうがほしいです」と冗談で言ったら、軽く説明しただけでお母様本当に作って、その日のうちに完成させちゃったのですよ……

 ……お母様って何者なのでしょうか…?

 あ、ミラというのは私の名前です。お母様はルーアだった気がします、多分。お母様としか呼んでいないので……すぐ忘れてしまいます。 


 このお風呂場は、一日で作ったとは到底思えないほど完成度がものすごく高く、石で作られたお風呂場は内装から水の管理まで完璧。本当にお母様って何者なのでしょうか……?

 時々お母様の正体について悩むときがあります。


 まぁお風呂に入るとそんなことすぐに忘れてしまうんですけどね!



 脱衣所で服を脱いで、軽く水を浴びた後浴槽にどっぽん!です。



 石造りの広いお風呂場は、どこかの高級旅館の大浴場のようです。

 滑らかな白い石で出来た浴槽は、光を反射してキラキラと輝いているお湯が張られていて本当に綺麗。

 森に囲まれているので森のいい香りがほんのりとします……ふぅ、いいお湯。


 だいたい3分後。


 そうのんびりもしては居られないので……名残惜しいですがお風呂から上がります。本当に名残惜しいです。


「……あ。」


 浴槽から上がる時、横に置かれた全身鏡に自分の姿が映りました。


 ウェーブのかかった腰まで流れるピンク色の髪の毛。

 チェリーピンクの瞳。(お母様はつり目ですが、私はそうでもないです。残念。)

 それを縁取る長黒く長い睫毛。スッと通った鼻筋。

 ピンク色の唇。抜けるように白い肌とうっすら桃色に色づいた頬。

 長い手足。(でもそんなに身長は高くないのが不満です。)


 にっこりと笑ってみると鏡の中の私もにっこりしました。

 前世に比べて格段にかわいいですけど、でも、その、えっと……


 私、あんまりピンク色好きじゃないんですよねぇ……

 なんか、女の子!っぽくて、ちょっと恥ずかしくて。

 前世でもかわいい方とか性格が愛らしい方とか、いえ普段キビキビしている方でもギャップとして似合うんですけどその、私だと、何ピンクなんて可愛子ぶりやがって

 馬鹿野郎という心の声が……自分を苦しめまして。


 ですから、大きくなったら髪の毛染めたいなーなんて思っています。お母様には秘密ですが。










 お風呂から上がり、いつもの…ラフなドレスのようなものを着ます。エプロンもつけて、髪をまとめて家事モードです。あ、ちなみに私んこの普段着は王都で買ってきたものです。路上でなにか鉱物などを売り、それでお金を稼いで生活雑貨を買うのです。


 服はピンからキリまであります。一見いい服だと思いきや縫合が弱くて激しい動きをしたら布が剥がれ落ちる━━━━なんてのもしばしばなので、よぉーく品定めしてから買わねばいけません。ちょっと、大変です……









「〜♪〜♪」



 服を着て、身支度を整え鼻歌を歌いつつ、掃除です。

 家事は前世ではあまり得意ではなかったのですけど……今世ではいっぱいやっているので失敗はしなくなりました。

 あまり、得意ではないのですが……はは。


 少し凹みつつ、掃除を続行です。

 大きな窓から見える美しい森が私の心を癒します。

 鳥のさえずりが平和な気持ちにさせてくれます。

 あぁ、日常っていいなぁ……


 そんなことを考えつつ、部屋の掃除をしていると。


「ミラ?」

「はぁい?」


 お母様が庭からひょこっと顔を出して私に声をかけました。

 パタパタと向かうと、木刀に体重を掛けて休憩しています。今まで素振りをしていたようで、汗をかいてらっしゃってます。

 …………毎回思うのですが、あの木刀何十キロあるのでしょうか?

 ……………………考えないでおきましょう。


「忘れてたんだが、私、明日から旅に出る。」

「はい?」



 ?

 旅、えっ。

 旅!?


「荷物はまとめなくていいぞ。そのかわり、鉱石と金を少しもらって行く。」

「え、あの。」

「じゃ、それで」

「ちょ。ちょっとまてい!まちやがれぇぇえ!」


 突然何を言い出すんでしょうこの人は!

 混乱で口調が荒くなっていますが、そんなこと気にしている余裕はありません!


「なんだー?」

「えっ旅に出るってどういうことですかちょっと待ってくださいなんですか訳わからないもうほんとまじでよくわからない!」

「言葉そのままの意味で、ここから去って行く。」

「ああもうなんでこんなに落ちついてんのよこいつ!いったい、お母様は、どこに行くんですか!?」

「決まってない。」

「えぇ!?え、何しに行く気!?」

「夫を探しに行く!」

「はああああああああ!?」


 私が生まれた頃から、この家にお父様はいませんでした。すこしだけ気になっていたのですが、なんとなく触れられない話題ですしお母様も触れなかったのでなんとなく触れてはいけない話題なのかなと思っていたのですが……


 いま 突然 なぜ この話題が


「え、お父様をなぜえっ」

「いやな、急に会いたくなってな。お前にも会わせてやらないといけないしな。」

「突然そんなえちょま…私も、連れて行ってくださいますか?」


 震える喉で、絞り出すように聞いてしまいました。

 そして、帰ってきたのはあまりにも残酷な答え。


「無理だ!」

「うわあああああああああああああああん!」

「ははは、私も寂しいぞミラ」

「はははじゃねぇよ!もうお母様なんて知りませんーーーーーーーッ!!」


 この時、確かに私は日常がガラガラと崩れ去っていく音を聞いたのです。











 その後私はお母様から離れて、一人怒りながら掃除を再開しました。

 お母様もさすがに気を使ってくれたのか、一人で素振りをしていました。


 そのおかげで私は今回の事と、お母様がいなくなってからを改めて落ち着いて考える事ができたのです。


 ━━━━━━━━━━━━お母様は一人で旅して大丈夫なのかしら?

 ━━━━━━━━━そういえば、一人かどうか聞いていなかったのです。二人なのか、それとも大人数で?


 お母様が私を忘れて他の人と笑って過ごしていく姿が脳裏に浮かびました。

 涙が出そうになります。

 慌てて首を振りそんな感情を消して、私は自分を無理やり納得させました。


 ━━━━━━━━お母様は、邪魔だ!といって一人で行くはずよ!ええ!

 ━━━━そ、それより私はお母様がいなくて大丈夫なのかしら?


 ━━━━━身の回りは…大丈夫そうだけど。

 ━━━━あ!しゅ、修行!



 小さい頃からお母様は私を鍛える事になぜだか全力で取り組んでいた。

 あの熱意はどこから来るのかしら?と疑問に思った事もありましたけど、それを忘れてしまうぐらいお母様と修行するのは楽しかった、の、ですのに…


 ━━━━━━━━もう、私の相手は飽きてしまったのでしょうか?




 ずいぶん久しぶりに、落ち込んだ気がしました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ