第2話 お母様と
と、そんなことを考えつつ朝のストレッチです。
このストレッチは、小さい頃お母様に教えてもらった今でいうラジオ体操みたいなものです。すっきりするんですよー。3分ほどで終わるのでお手軽です。
終わったら、庭に出て木刀で素振りをしているお母様にお水を届けます。水分補給はしっかりと、です。
何だかお母様は体育会系みたいです。毎日修行しています。すごいですね〜!
私もうこの世界で過ごして六年目、6歳になりますが、実は、お母様より早く起きたことないのです。昔は頑張ってもっと早く起きてもお母様はもっともっと早く起きているのです。ずっと前に徹夜してお母様がいつ寝ているか調べようとして徹夜したら「早く寝な」って呆れられちゃいました。はぁ…思い出したら悔しいです。
「お母様ーお水です!」
「はっ、はっ、うむ、ありがとう!はっ、はっ」
片手で木刀を動かしながら片手で水を飲むという器用な真似をされています。
お水ぐらい止まって飲めばいいのに。
「お母様はまだ修行をされるのですか?」
「ああ!すまないが朝ごはんは作っておいてくれ!」
「はいっ、了解致しましたー!」
朝ごはんを作るのはまちまちです。多いのは私でしょうか?それで、たまにお母様。
お母様がご飯を作ってる時は、私が修行……をしています。
前世は文化系なので、ちょっと恥ずかしいです、修行、とかいうのは……むぐぅ……
あ、ちなみに私のしゅ、修行……は主に剣とか、武器系です。魔法!とかもあるらしいのですが、なんでもお母様が肉体方面のプロらしくて、いつも教えてもらってます。
なんでも、お母様は昔世界大会で優勝したことがあるらしいです。前世で言うオリンピックみたいな物でしょうか?凄いです、お母様!
そういえば、小さい頃は王都に行くときは私を抱きかかえて走っていたのですが、ものすごく、新幹線みたいに速くて毎回死にそうになっていましたね……ちょっと情けないです。
……朝から、ばんばん忘れたい過去をを思い出している気がします。
「はぁ……」
気分を変えて、朝ごはんを作りましょうかね。
「〜♪〜♪」
リビングに直結した台所。大きな鉄板とかまどと流ししか機能がないけど、割と気に入ってますです。
今日の朝ごはんは庭のとれたて卵で作ったハンバーグ。
じゅうじゅうとお肉を鉄板の上で焼いてソースをかけて……小さい頃から作り続けてきた私の唯一の得意料理です。
焼けたらお皿に置いて野菜と一緒に盛り付けて……机に運んで……完成です!
「おっかあさまー」「ああ!」
お母様を呼び、朝ごはんです。
今日の予定を聞きつつ、他愛のない話を楽しみます。
「よし、今日はこれ食べたら修行するぞ!」
「はい、お母様」
今日は、私の修行デーのようです。
朝ごはんが終わり、食器を片付けます。それから前世で言う……柔道着のような服を着て庭に出ます。
私たちが住んでいるこの修行場は、えっと、森の中にある切り立った崖に、ひっそりと佇んでいます。
見た目は、石づくりの一軒家みたいな建物と草一本生えていない広い広い庭といえばわかりやすいでしょうか。
内装は…私の部屋、お母様の部屋、お客様の部屋、リビング、ダイニング、キッチン、洗面所、お風呂がそれぞれ一つずつ。あ、近くに小さな川があるので水は割とそこから手に入れています。生活排水は、二週間に一度、王都に行くときにビンに入れて運んで行って、業者さんに処理していただいています。
まぁ、エコで普通の一軒家ですね。
広い広い庭に出て、少し離れたところでお母様と向き合います。
軽くストレッチして、体を慣らします。いつも私のしゅ、修行の時はいつも私が木刀、お母様が拳、で戦い合う感じなので、ストレッチは最重要です!
「ん、よしっと」
準備オッケーです。ちょうどお母様も準備ができたようです。
「じゃぁ、行くぞ。」
ふっと、空気が張り詰めました。愛用している木刀を掲げ、息を吸い込みます。
「はい、お母様」
その言葉でスタートしました。お母様が勢いよく踏み出し、それに合わせて私も踏み出します。
お母様の拳と木刀がぶつかり、ゴンッと音がしました。二回、三回と打ちつけあいます。
「はっ、んっ、くっ」
すごいスピードの攻撃は、すごい速さで繰り返され受けることで精一杯です。
一撃がすごく重く、木刀を持つ手、腕、肩がじんじんします。足も、勢いに押されて少しずつ下がっていきます。
そして、最後の一撃。お母様が普通の攻撃より多めに腕を後ろに引き━━━━
普通の攻撃よりはるかに重い一撃が木刀を襲いました。
カラン、と。
私の手から木刀が抜け。
スタートから今まで約1分。あっというまに私の負けです。
「私の勝ちだ」
「はぁ、はぁ。はいっ、ありがとうございました。はぁ…」
お辞儀をすると、汗が地面に落ちました。汗、びっしょりです。
お母様は汗一つかいていません。息すら上がってませんね。
「よし。風呂入ってこい。」
「はいっ、お母様。」
………………ちょっと悔しいなぁ、なんて思いつつ木刀を持って私はお風呂場へ向かうのでした。