第17話 回る口車
「セシルくん!王都です!王都に行きましょう!」
一匹の熊の命を終わらせたその翌日。
セールと書かれた手帳を握りしめ、セシルくんへと叫びました。
あの熊騒ぎから1日経て、翌日の朝です。朝ご飯です。
あの熊は締め上げた後自宅に帰って解体し、セシルくんに美味しく調理してもらいました!
……解体してる私を見て、セシルくんはひたすらバイブレーションしてたんですけどね。
こりゃやべぇと思いました。ブルブル震えながら包丁をミスしないその技術が凄かったです。
そのせいでしょうか?セシルくんは熊肉を全く食べませんでした。肉が余ってしまったんですけど……売りますか!
……それにしても、熊と引き換えに大切なものを失った気がします。主にセシルくんの私へのイメージとか、印象とか評価とか。あはははは……。
………………
……ここまで来たら、もうこの際意地でもめげるもんですか。後戻りできないならチャレンジするまでだ!
絶対に、仲良くなってやる!おらあ!首洗って待ってろ!です!
と、いうことで。
仲良し大作戦です。
セシルくんに、王都に行こう!と誘いました。熊肉売りがてらですが、楽しいと思うんですよね、一緒にショッピングって。きっと仲良くなれるはず!
しかし。言った瞬間サァッとセシルくんの顔が青ざめ……ぽろっと手に持ったフォークが床に落ちます。
から〜んと乾いた音がダイニングに響きました。
なんか知らんけど、セシルくんが尋常じゃないほどのショックを受けている。
「王都、ですか……」
「うん!今から行ったら……昼までには余裕で着きますよ♪」
「あ、歩いてですよね?」
なぜか不安げに聞いてきたセシルくん。何言ってんでしょうか。
「そんなの当たり前じゃないですか☆」
「そ、そうですよね!」
「私がお姫様抱っこで運んでいきますよ!」
「うわあああああああああ!!!!」
何が起きた!?
突然セシルくん顔を覆って叫び出しました。耳が真っ赤です!
「どどどどうしました!?新手の病気ですか!?」
「お……お姫様抱っこ……」
掠れる声で呟くセシルくん。その顔は羞恥に歪み、顔は真っ赤です……あっ。
「そ、そっか!……ゴメンなさい!配慮が足りませんでした!」
私にはわかりましたよセシルくん!7歳のしっかりした男の子にお姫様抱っこはきつかったんですよね!
「普通の抱っこでいきます!」「同じです!」
顔を覆ったままセシルくんが被せてきました。あれっ?
「で、ではおんぶで!」
「だいたい予想してましたが勘弁してください!」
「大丈夫ですよ!傍目には7歳児におんぶされる7歳児にしか見えませんし」「それが問題なんですよ!」
「じゃあどうするんですか!」
「留守番していていいですか!」
「無理です!」
語尾を強めに話し合います。セシルくんがとんでも無いこと言い出しました。
何が悲しくて仲良くしよう大作戦一人で決行しないといけないんですか!?私一人で何と仲良くするんですか!?
……それに!
「子供一人で熊肉売るの結構勇気いるんです!!」
「売らなければいいでじゃないですか!」
「売らないとお金がないんです!」
「そこは気合いでどうにかしてください!」
「無理ですよ!?」
勇気なんてもんじゃないです。実は、以前一人で熊肉(頭付き)売りに行ったらすっごい目で見られたことがあるんです!なんか、熊肉って珍しいのに、たかが7歳児が持ってきたことに驚いたそうです。ちょっとした大騒ぎが起こりました。
「だから、7歳児二人の方が、まだ……っ!」「悪化してますからね!」
どうでもいいですが、セシルくんの突っ込みが冴え渡っている!よっぽどお姫様抱っこが屈辱的だったのでしょう。いいんだか悪いんだか。
……でも!それでも!これだけは、ぜっったいに、譲れません!
絶対に嫌ですからね、一人で「わーセシルくんこれ美味しそうだよー」とかいうの!寂しい通り越してもはや危ないわっ!
「じゃあどうしろと!」「だから留守番と!」
涙目で言い返すと、ポーンと言い返されました。まるでピンポンです。ピンポンデスマッチ。
絶対に負けてはいけない戦いが今始まる!って感じです。デットオアデットですからね!
「熊肉持ったままナニカに語りかける謎の7歳児の怖さを想像してくださいよ!」
「じゃあ売らずに干し肉にして食べればいいじゃないですか!」
「やですよ!あんな、ほとんど50人分の大量の熊肉を乙女に食べさせようっていうんですか!?」
「ミラさんならいけます!」
「いけませんよ!?ただでさえセシルくん全然食べないから死ぬほど食べてるっていうのに……!」
「恐ろしいんですよ!あの時の悪夢がフラッシュバックするんです!」
「あれは……っ、狩猟民族の常識です!」
「そんな常識は知りません!」
お互い絶対に譲らない言の葉ピンポン。荒技を駆使してでも勝ってやる!
「いいじゃないですか王都!おしゃれな人がいっぱいです!」
「なお嫌ですよ!なんで僕がおしゃれな人の前でお姫様抱っこされなければいけないのです!」
「新しいおしゃれですよ」
「何を言っているのですか!?」
一人で仲良しかお姫様抱っこか。正気の沙汰とは思えない選択肢のまま、言い争いは続いて行きます。
「干し肉地獄に落ちるなんて、私が一体何をしたんですか!?」
「なんですかその地獄、いいじゃないですか熊肉!」
「なら食べてくださいよ」
「なら普通の方法で狩ってください」
「首を絞めることのどこが普通じゃないのですか?」
「今自分が何言ってるかおわかりですか?」
しかし。
互いに優勢だったピンポンですが、だんだんだんだん歯車が狂っていきました。
セシルくんの口が上手くなったのです。だんだんだんだん説得されていきます。
そして、やがて。
「……行くの、やめます……」
「ありがとうございます。僕、干し肉作ってきますね♪」
私が言葉を絞り出す羽目になりました、熊肉50人分コース決定です。あかん。
セシルくんが台所に行っちゃいました。あぁ、50人分一人でいくのか……私……。
ま、まぁ!セシルくんとすらすら話せたから、結果オーライ、ということで!ね!?
……うぅ。何だったんだろうこの時間、これに殆ど一時間ですよ……?
怒ってますかね?セシルくん。
日常回はこれにて終了です!
後2話閑話入れたら新章始まります!




