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第15話 君と修行

「んー……っ」


開けた庭で、ぐぅっと伸びをします。いい天気ですね!


キラキラ地面を照らす陽光が緑を明るく照らしています。

吹く南風は暖かく、柔らかに頬を撫で森の匂いを運びました。

ピュチチチ、という鳥の声さえ爽やかです。


なかなか来ないセシル君へ呼びかけると、獣人の限界を超えた物凄い速さの走りで出てきてくれました。


「セシルくーん!寂しかったですよ?遅いですよー♪」

「大変、申し訳ございません!」

「えっ……いえいえいえいえ!」


大変美しいおじきを真正面で見せられて対処に困るという……なかなかない体験です。


「嫌ですよ、そんなに堅くならないで……えっと、始めましょうか!」

「はっ!」


爽やかさに跳ねさせた声に合わせて、木刀を掲げ気合を入れます。

……いっそ清々しいぐらい堅くなったいいお返事が聞こえました。「はっ」て何ですか。


「まぁ、修行と言ってもお母様が教えてくれた物なので、大方適当ですけどね〜ふふふっ♪」

「ははは……」


意地でも緊張を解そうと冗談茶化して笑いますがセシルくんは全然、全く!笑ってくれません。

その引きつった顔は作り笑いのつもりでしょうか。いっそ無表情の方が傷付かないのですが?


「…………素振りから行きましょうか!」

「……はい!」


何この緊迫したムード。いや、困る。唾を飲み込むんじゃない!

…………いや、私そんな武術の師範とかじゃなくてお母様の真似してるだけの7歳児で!す!よ!

女児の修行をそんなに緊迫して見るんじゃない!


「……?」

「……っ」


何故か一挙一動を凝視するセシルくん。すっと木刀を構えると、遂に始まるぞ……!!と云う目をされました。

なんでそんなに緊張する事をするんですかセシルくん。嫌がらせですかセシルくん。もう絶対緊張させにかかっているでしょうセシルくん。


うぅ……プレッシャーが……。これ変なことやったら物凄く幻滅される奴ですよ!?

スッポーンとか手から木刀が擦り抜けてご覧なさい、後に残るはどうしようもない悲しい目……嗚呼、何たる悲劇……いえ、惨劇でしょう!


「うぅ……だかここで止めれば女が廃る……年下の男の子のプレッシャーに負けたとあらば、お母様に怒られるぅ……」

「呪文……?」


ぶつぶつと己を説得し、やっと木刀を振り上げました。いつものピンク色の木刀です。確か、ピンク色には鎮静効果があったはず……。荒ぶる我が心の臓よ、静まれ!


…………


……と、とりあえず丁寧に、落ち着いて!

焦る心をぐっと抑え、昼の暖かい空気を、胸いっぱいに吸い込みます。


すっと構えた木刀を、勢い良く━━━━



「え、えい!」








振り下ろしました。


思いっきり振った其の木刀は、震える其の手を擦り抜け、遥か遠方へ飛んで行きました。


飛んで行きました。




……フラグ回収ですね!わかります。


案の定やっちまった。

そんなどうしようもない感情が心に浮かんでは消えません。

後ろに立つセシルくんの視線が怖くて見られない!


「あ、あははははは……」

「あ、あの」


誤魔化し笑いで誤魔化せませんでした。大変な事件です。

物凄く困った感じのセシルくんが声をかけてくれます。優しさなんていらない!


居た堪れない空気の中、無言で吹っ飛んだ木刀を取りに行きます。木刀吹っ飛んだなんて駄洒落にもなりゃしない。

地面を抉り、ご丁寧にも小道を作って飛んで行った木刀なんて、探すまでもありません。


「なっ……」

「うわ……」



だだっ広い庭に突如現れた小道をたどっていくと、木刀の終着点につきました。

……庭の奥の岩へと突きささっていました。いっそ褒め称えたいほど見事な垂直ぶりです。


……なんでしょう、この芸術的なぐらい情けない結果。私が緊張で力を込めすぎた故の災いと奇跡でしょうか。虚しさで崩れ落ちかける足を慌てて食い止めます。静まれ、静まるんだ俺の両膝ッ……。


「……セシルくん、これは大変危険かつ迷惑な行為です。あまつさえ自然破壊など断じていけません」


くるりと後ろを振り返り、セシルくんに真顔で訴えます。第二第三の被害を作らない為に、教育は大切ですから!


「……はい、気をつけます」


セシルくんが突き刺さった木刀を凝視しつつ、こくりと頷きました。


…………しょうがないじゃないですか!

修行なんて見られるの初めてだったんですよ!それなのになんでそんな期待を込めたんですか!?案の定大パニックですよ!木刀が庭の岩に刺さるとか私も初めてですよ!どんな顔したらいいんですか?!これ!


うぅ、何かもうこのままお部屋に帰りたい……

心がぽっきん折れそうです。……よし、なかったことにしよう。





「さて、次はセシルくんの番ですよ!」


凍てついた空気を払うように、わざと明るい声でセシルくんの肩を叩きます。

…………いやもうこの空気は払拭できない気がしたからもうごまかしちゃおうかなって。


まぁ、今日は一緒に修行をしようと誘ったので……意地でも、次はセシル君の番です!


「え……え、えぇ……」

「大丈夫です!私だってできたし、セシルくんなら余裕余裕!」


できてませんが、そんなことを言い張ります。やけっぱちの使命感みたいなものが出てきたみたいですね。

セシルくんにはいい迷惑ですが、押して押して急かします。


「頑張れー!」

「…………えっと」

「あれ?」


私としてはだいじょぶだいじょぶ、行ける行ける!みたいなノリの指示だったのですが、セシルくんは何やら考え込んでしまいました。……何だか申し訳ないです?


普通の素振りで平気ですよ、と声をかけようとした、その瞬間━━━━


「で、では……やぁ!」


ヒュッと小気味いい音が空を切りました。


「え゛っ……!?」


……まさかの完璧な素振りを見せられるというね!?



何という心の暴力でしょう。

すっと伸びた背筋は美しく、セシルくんの木刀は綺麗なリズムで振り下ろされます。

ピシッとした型にはまった同じ動きは、私のそれとは……月とスッポンでした。

なにこれ凄い、お母様の素振りみたいです!


この似非修行のみのど素人でもコレ凄い綺麗!とわかるような……それは、そんな素振りでした。


「き、きききれい……」

「えっと、ありがとうございます?」


木刀を下ろして困ったように言いますが、隠しきれていません。この子生粋のエリートです。

振り下ろす腕のの動き、手の捻り方、そのひとつひとつに気品と格好良さが溢れ出ています。

やばい、セシルくんが私を情け無さで殺しに掛かっている可能性出てきた。


一緒に修行しましょうって言って失敗してその挙句自分よりうまいものを……!

もう一度言いますけど、吹っ飛ばした木刀の抉った地面の比にならないぐらいに優秀な同年代ってみるだけで心が抉れるんですよ!!……上手にできない私が悪いんですけどね!あはは!


「す、凄いですね……」

「滅相もありません、ミラさんの方が……」

「私全然できてないよね!素振りのsの字の途中ぐらいもできてないですよね!」

「い、いえ!」


わわわ、と慌てるセシルくん。……うぅ……可愛いですね。


「いえ、本当に凄いですよ……何かやってたんですか?」

「……………いいえ、何も……経験は……」


あれれ?褒めてますとセシルくんが、慌てた上にちょっと固まりました。

あわあわと口籠ります……あれ?……どうしましょう、聞いてはいけないことだったのでしょうか。


「……そ、そうですか!あんまりすごかったので……えへへ、私お水汲んできます!」


ターンレフト!


あぁどうしましょう、二度も困らせてしましました……。

……やっぱりセシルくん、幼いのに複雑な過去を抱えている気がします。

ゆくゆくは、そんなことも相談してくれる仲良しに成れればいいんですけど……。

私をお母さんだと思ってくださいキャンペーン本当に実施しますかね?


……あれ?そういえば、私たち木刀を振るだけに何分かけたんでしょう。もう素振りいいいや、他のやりましょう……



そんなことを考えながらお水を汲みに行きます。

その後ろを硬い表情で見つめるセシルくんに、私は気がつきませんでした。


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