第13話 食欲到来
「とりゃー!」
力一杯木刀を振り下ろし、地面に叩きつけます。その衝撃にズキンッと腕が鈍く痛み、木刀を落としました。
「うぐっ……」
どうも、さっきから腕が痛みます。さっきから休まず止まらずですからねぇ…疲れちゃったのでしょうか。自業自得ってやつですね。
……さっきから何十回も地面を叩きつけています。あ、もちろんちっともなにも進展はありませんよ?
技を極めるのには途方もない時間がかかるでしょうし…もしかしたらおばあちゃんになっちゃうかもしれません。それに、どんくさい私のことです。そんな一日で何かが変わるわけないです。
ちゃんと理解してます。
……あ、でも諦めているわけではありませんよ?少しでも進展するように色々努力しました。
もしかしたら漫画みたいに技名を叫ぶ必要があるのかもしれない、と恥ずかしさを押し殺しつつ叫んだこともありました。
ーーーー何も起こりませんでした。私が恥ずかしさで地面にごろごろ転がっただけでした。
「りゅうがきらいっ!」ってもー!ただの好き嫌いみたいじゃないですか!やだぁぁぁあ!
もしかしたら木刀じゃダメなのかもしれない、と自らの拳で地面を叩いたこともありました。
ーーーーふつーにクレーターができました。何も変わりませんでした。あ、物凄く拳が痛みました。死ぬかと思いました。
もしかしたら掛け声が悪いのかもしれない、と「ほわちゃあああああ!!」と叫んだこともありました。
ーーーーめり込んだ後、其処に残ったのは静寂でした。恥ずかしさで死ぬかと思いました。
他にも、もしかしたらもしかしたらと色々試しました。水の中に突っ込んでみたり、お母様の声真似をしてみたり、本当にいろいろです。
結果は…お母様の声真似がちょっと上手になった以外、すべて無駄でした。只々羞恥心が溜まってゆくだけです。
これじゃあ、お母様が帰ってきても、何もできない!変わらない!と言う悲劇が巻き起こりますね!
「はぁぁ…でも、何か奇跡が起こったりして進展しないですかねー」
ぐるぐると、胸に渦巻く行き場のない焦りをため息と一緒に吐き出します。
焦りに任せて木刀を振れど、何も変わらず……です。
リアルにずっと何も変わらない自分が脳裏に思い浮かび、ゾッとしました。
「あぅ……もぅ……どうすれば……?」
苛立ちのままぺちんっと地面を叩くと、鈍く鋭い痛みがジィン……!と腕から身体中を駆け巡りました。
「うぁっ……」
……どうしましょう。痛みがどんどん酷くなっている気がします。うーん……骨折とかじゃ、ないですよね?試しにぐいっと腕を押してみます。
「いづぅっ!?」
「ひぃっ!」
予想外の痛みに思わず仰け反ると、それとほぼ同じタイミングに後ろで可愛らしい悲鳴が聞こえました。
振り返ると、ガタガタと震えているセシルくんの声でした。なんでそんなバイブレーションしているんでしょう?あ、もしかして私痛みですごい顔してたんですかね、私…。我ながら、エクソシストを彷彿とさせるいい仰け反りっぷりでしたしね。
「あ、えへへー♪セシルくんなんですか?」
「はい!え、えっととその朝ごはん…いえその、朝餉をご用意させていただきましたのでお呼びいたしましょうかと…いや本当申し訳ございませんでしたっ!」
「……?えっと……取り敢えず、私そんな怖い顔してたんですかー?」
「いえいえいえいえ!」
そっと近づくと、怯えた様に後ずさりされました。ズザザッ!って…傷付きます…。
「別にとって食べたりしませんよー?」
「ひぃ!嘘です!絶対に嘘です!」
「確定系!?」
「そうやって油断させた所を口から火を吐いて焼き殺した挙句頭からぱくっと食らいつく気でしょう!」
「どっから出てきたんですかそれ!?」
顔を青くして変なことを口走るセシルくん。
私ったらもうどんな顔してたんでしょうか……?バック●アード見たいなものでしょうか?確かあれ睨みつけて眩暈を起こすんでしたよねー……こーのローリコンどもめ!……じゃなくて!
「やだなー、私がそんなことするわけないじゃないですかー♪」
「ひぃっ……」
怯えるセシルくんの背中を優しく叩きつつ、リビングへと向かうことにしました。
「わぁっ!すっごーい!」
「……めっそうも、ございません」
机の上に綺麗に置いてある料理は、凄く、物凄く、予想以上の出来栄えでした。
もうあれですね、朝餉で納得の高級感です。朝飯!とかじゃないです。
もう肉料理を幾つか、何て言葉では表せられません。
まずは、この牛肉を使ったステーキっぽい肉料理。
ジューシーな肉汁が焼き石でで来たお皿に美しく盛り付けられています。ふわふわいい香りがしてきますし、いい感じのお肉の色にうっすらつく茶色い焦げ目がたまらなく美味しそうです。ぱちぱちと油の跳ねる音がしてくるのも堪りません!
そして、この鶏肉を使った唐揚げっぽい肉料理。
パリッとした衣の中に、柔らかなのお肉がぎっしり、宝物のように入っています。鼻の奥まで入ってくる唐揚げの素晴らしい香りにドーパミンがバンバン出て来てる感じがします。
と、長ったらしく説明をしても、私に説明力など皆無に等しいですからねぇ。
手っ取り早く一言にまとめますと……、うん、物凄く美味しそうです。セシルくんは天才でしょうか…?
「ね、ねっ!セシルくん、早く食べましょう!……づっ!」
「え、は、はい……っ?」
思わずくいくいと袖を引っ張り急かすと、腕がズキンっとまた痛みました。
でもだんだん慣れて来たので、セシルくんをさっさと席に座らせ、素早くフォークなどを用意しました。
……腕の痛みより、食欲の方がはるかに大きかったのは否定できない事実です。でもきっと人類はこの肉料理を前に全員肉に食らいつく獣になると思います!
「いただきます!」
「……いただきます?」
小首を傾げているセシルくんをほっぽり唐揚げ(仮)を口に頬張りました。
ーーーーーーーっあぁ!
噛んだ瞬間肉汁がじゅわわ〜です!
美味しいです!これに尽きます!ブラボーです!
「ふぉあ……1年ぶりにハンバーグ以外の物を食べましたぁ…♡」
「……うわっ、本当、だったんだ……」
ドン引くセシルくんはひとまずほっぽり、もぐもぐと唐揚げを咀嚼します。
あぁ、この気持ちを言葉にするとすれば…幸せ、これに尽きます!
柔らかな弾力も、カリカリの衣の食感も、全てが素晴らしく、豪華です。洗練された肉が私の口内で渦となり祝祭を繰り広げています。変な言葉選びに特に意味はないです。
「デリシャーッス!」
「呪文っ……!?」
「えへへ……美味しいってことですよぉ……」
「は、はぁ……ありがとうございます……?」
戸惑った様子のセシルくん。あぁ、この可愛らしい手にどれだけの才能が芽生えているのでしょう?
他のもつくれちゃったりするのかしらーと、そんなことを考えつつにへらーと笑う私の顔を、セシルくんは不思議そうに眺めていました。
◆セシルくん目線◆
ミラさんは、やっぱり物凄くよくわからない。
「美味しい……❤︎」
ご飯を食べて満足そうににまにまと微笑んでいる姿は、平和そうで、子供っぽい。
しかも、頬を染めてきゃっきゃっと花が咲いたようにはしゃいでいる時は、初めて会った時の天使っぷりを彷彿とさせる。
……でも、そのちょっと前に地面を鬼のような形相でアクロバティックな体制をとっていた。
どうしたのだろう、大丈夫だろうか。化け物かもしれない。
何年も前からそこに住んでいるヤマンバで、若い男を食べると若返るので僕を食べてやろうと考えていた上でも何十年も生きているドラゴンでもあって、たっぷり肥えた僕を食ってやろうと考えているのだ。多分。
ドラゴンヤマンバだ。ピンクの髪の…うわ、怖い。
……僕と、何のためらいもなく一緒にご飯を食べているところもよく分からない。
奴隷として扱われると思ってたのに普通に可愛いお手伝いさん、みたいな感覚で僕と話しているし。
「また作ってくださいね!」
にっこーっと、笑顔を向けられた。
……危機感が奪われるその態度は、やめてほしい。
僕は、自分を助けてくれた相手にほいほい心を開くようなそんなバカな思考は持っていない。
感謝はするし、助けてもらった分恩返しはする…でも、それだけ。
この人畜無害そうなそぶりに警戒心を解いたりしない、いや、そもそもそんなことしたくない。
ということで、警戒心を解かないようにこれから幼女の皮を被ったピンクヤマンバだと思おう。
そう自分に結論付けて、おずおずと自分で作った肉料理を口に運んだ。




