第10話 深夜テンション
ぱたぱたとリビングに向かうと、セシルくんはまだご飯を食べていました。
「おぉ……」
食べ方が、すごく上品です。小動物みたいで可愛いく、もきゅもきゅと食べているんですけど、一つ一つの手の動きだとか、口の動かし方だとかは貴族の人みたいに綺麗で…。
あ……今、ちょっと凹みました。
所作が神々しいぐらい綺麗な同年代って見るだけで心が抉れますね……
ふと、少し早めに口を動かしていることに気がつきました。お腹すいてるんですかね?
それが可愛くて、ニコニコしながら近づきます。
そこでやっとセシルくんは私に気が付いた見たいです。
びっくりして食事の手を止めて、こっちを見ました。
さっきのことを思い出したみたいで、ぼっと顔が赤くなり……。
その反応は、こっちも恥ずかしくなるから、やめてほしい。
「え、えへへ、ご飯口に合いました?」
「あ、はい……美味しいです。」
場を和ませようと聞いたら、可愛い答えが返ってきました。
……何故か、その答えが思いの外嬉しいです。
お母さんが旅に出てからこう、人にご飯を食べてもらうことなかったもので、この美味しいですは心にクリティカルヒットしたようですね。キュンって来ました。
「ありがとうございます!」
「え……あ、はい」
満面の笑顔でお礼を言ったら、ちょっと引かれた気がしました。
きのせいです。たぶん。ええ。
「えっと、私も隣で食べてもいいですか?」
「え、はい。宜しくお願いします」
セシルくんの隣に座ると、ぺこりと頭を下げてくれました。
黒い耳がぴこっと揺れます。可愛い!
私のツノはなんか硬くて、あんまり触っても気持ちよくないんですよー。神経通ってないから動かせないし。
思わず耳を凝視していたようです、セシルくんが戸惑ったようにこっちを見ていました。
「えっと……?」
「あ、えへへ、ご、ごめんなさい……」
誤魔化すようにハンバーグを口に入れます。
うん、美味しい!
「あ、あの!」
「はーい?」
「これ、なんて言う料理なんですか……?」
「ハンバーグって言います!」
セシルくんが、おずおずと聞いてきました。
はい、もちろん即答です!唯一の得意料理!
それにしても、セシルくんから話しかけてくれるなんて珍しいですね。
話しかけてくれたこと無かったんですよねー。……今のは自分で言ってて切なかった。
「気に入ってくださいましたか?」
「はい……」
照れたように伏し目がちに答えてくれました。
……あぁあ可愛いっ!!
「ふおおお……」
「……?」
感動してふるふると震えていると、ものすごくドン引いた目で見られました。
うん、傷つく。
ブロークンしたハートを無視して、誤魔化すようにハンバーグを頬張ります。
もぐもぐと噛むと、肉汁がじゅわぁっと…うん、うん!美味しい!
それからしばらく、無言の時間が続きました。
気まずさに押し潰されそう、だぜ……。
ちらちらとセシルくんを見ると、黙々とサラダを食べていました。
うんうん、小さいうちはいっぱい食べようね!……じゃなくて!
ふと、考えました。
このまま気まずいまま過ごしていたら、セシルくんはきっと歪んだ大人に育つのではないか、と。
突如、脳裏によぎる未来予測。
「格下が触らないでください!気持ち悪い!」
頭はリーゼント&ポンパドール。黒い服をずるずる引きずる不良コーディネートは、ワルな雰囲気を醸し出していました。
あぁ、見える……見えます……「天上天下唯我独尊世師流瑠愛死天流(てんじょうてんげゆいがどくそんせしるあいしてる)」と書かれた背中が……!背中が……!
その突き出したポンパドゥルが、私の心を突き刺しました。
これはやばい。
危機感とともに、突如湧き上がる使命感。
━━━━そういえば、私はこの子の親みたいなものなのだ!!
今気がつきました。責任重大です、ね。
実年齢7歳の身で息子ができるとか、なんて早熟なのでしょう今世!
……まぁ、そんなどうでもいい考えは置いておいて、あらためてセシルくんを見ます。
頼りなさげな細い体。その体でどれだけ辛い過去を背負い生きていかねばならないのでしょう?
その辛い過去を踏み台にして素晴らしい大人になるよう教育するのが私の使命なのではないでしょうか。
袖振り合うのも多少の縁といいますし、私がセシルくんとあったのも何かの縁ですよね!
今は真夜中だということと、今日割と色々なことがあったことで、若干変なテンションになっていることは否定できません。
でも!
せっかく助けた子ですし!拾った以上、素晴らしい人生を歩ませるのは義務なのではないでしょーか!
気がついたらむん!と拳を握っていました。
それを怪しげに見つめるセシルくん。
……ぐはっ。
ブロークンし続けるハートは無視しましょう。おもむろにセシルくんを見つめます。
「えっと…?」
戸惑うセシルくんに、私は言い放ちました。
「私を親だと思ってください!」
「……は?」
極寒が、やってきました。
「7歳が、7歳に、親だと、思っ、いやああああああああああ!!!」
翌朝、正気に戻った私が羞恥に身悶えるのは当然のことでした。深夜テンションって、怖い。




