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本当の再会

 星夜に向けて放たれた魔法を、一人の少女が防いでいた。

 掲げられた両手の前に見えるのは、魔法による防壁である。


 星夜は横たわりながら、その姿を見上げる。



 星夜はこうして魔法による攻撃を当てられ、倒れ込んでしまうようなことはほとんどなかった。

 それは星夜自身の機動の秀逸さによるものでもあったが、もう一つ、ともに戦っていた相棒のような存在も大きな要因であった。

 その相棒とは、星夜がたびたび回想する、自らの弟子でもあった小柄な少女である。


 グレーと同様、単純な色を持たなかったその少女は、非常に強力な守りを持っていた。速度による攻撃を担う星夜と、鉄壁の守りを持つその少女のコンビは、他の3人の魔法少女とはまた別種の強さを誇っていた。


 結局はそのコンビは、その少女の引っ越しによって解散となり、さらに星夜の引退によって永久に失われてしまったのであるが、その少女は星夜にとって、相棒であり盾となり自分を守って来てくれた存在だった。


 だから自分を守る姿を目にしたとき、自然とその名を口にしていた。


「イージス……。」


 女神の盾。それは色を示すものではなかったが、色以上にその少女を表す言葉だった。

 星夜がその名を贈った少女が、自分の前に現れたのではないか。少しぼんやりとした思考もあり、星夜はそう思ってしまった。


 だがそれは勘違いであった。


「大丈夫ですか?」


 倒れている星夜に声をかけて覗き込んできた少女の顔を見て、星夜はその間違いに気付いた。


(ブルー……。)


「ブルー!その人大丈夫!??」


 星夜と魔人との間に立ちながら、視線をこちらに向けホワイトが叫んでいる。


「ホワイト、目をそらさないで!そいつ手強いやつだよ。」


 そのホワイトに対し注意するのは赤い服に身を包んだレッド。

 誰か自分を助けてくれたのか、星夜はそれを認識して改めてホワイトを眺めた。


(……綺麗になったなあ。)


 状況からすれば随分とのんきなことだが、星夜はついそう思ってしまった。純白の衣装に身を包んだホワイトは、花嫁を連想させる大人の女性の美しさを持っていた。


 しかしそののんきな思考も、ホワイトが放った魔法を見て吹き飛んでしまった。


(追尾式の魔法弾、大きい。それに6つ同時……??)


 敵を追いかける魔法を放ったホワイトは、さらに即座に手に持った剣からまぶしい光条を放った。


(直後に大威力の魔法まで撃てるのか……!?)


 5年ぶりに目にしたホワイトの戦いっぷりに唖然とする。自分が記憶している姿とは、あまりに違っていた。ホワイトの魔法は、格段に進歩していた。

 その戦いっぷりは、グレーとは全く異なる次元にあった。あるいは、かつての自分自身とも。


(これが、今の魔法少女の戦い……。僕がいたところなんかよりも、はるかに高いところにいる……。)


 星夜は思う。これ以上見てはいけない。

 これ以上見てしまえば、自分と彼女たちとの決定的な違いを理解してしまう。


 だがそれでも、目を離すことはできなかった。その姿があまりに美しすぎて。


(僕は……、そうだ。ああなりたかったんだ。魔法少女の戦う姿を見て、僕も戦いたいと思った。でも、もう……。こんなにも違ってしまった。)


 これが、女性として成長した魔法少女の力。

 星夜にははっきりと分かってしまった。自分は、もう彼女たちと違う世界にしか住めないのだと。


 そんな星夜の内心をよそに、戦いに参加していないブルーが星夜の上半身を抱き起す。


「どうです?動けますか?」

「……ごめん、動けそうにない。」

「そうですか、少し休む必要がありますね。ただ、ここでは危ないですし、地面も堅いでしょう。失礼しますね。」


 どうするのか、と星夜が思ったころにはすでにブルーは彼の身体の下に腕を回し、軽々と持ち上げてしまった。

 いわゆるお姫様だっこの形式で。


「あ、えっと。」


 情けないような恥ずかしいような気持ちで、星夜はろくに言葉も出ない。

 だがそんな星夜をさておいて、ブルーは彼を抱えたまま歩き出す。そうして近くのベンチに彼を横たわらせると、頭の下にどこからか取り出したタオルを置き、枕代わりにして彼を寝かせた。


「少し休んでいてください。あ、向こうは終わったようですね。」


 その言葉に星夜はホワイト達の方に目を向けてみると、すでに戦いは終わっているようだった。どうやら魔人は退却していったらしい。

 そうしてホワイトとレッドが星夜たちの方へ向かってきた。


「駄目だ、今回も逃がしちゃった。」


 そう言ってレッドが悔しがる。どうやら何度もあの魔人と戦ったことがあるようだ。


「えっと、その人は……どう?」


 一方ホワイトの方は、戦いのことより星夜のことが気になるようで、ちらちらと星夜とブルーの顔を交互に見ていた。


「動けないみたいです。しばらく休まないと回復しないでしょうね。」

「でもなんで襲われてたんだろうね。」


 疑問を投げかけたのはレッド。


「さあ……普通に人より少し魔力と親和性でもあるんでしょうか。」

「男の人でも、そういう人っているんだ……。」

「女性的な方ですし、そういうこともあるんじゃないでしょうか。」


 ホワイトは不思議そうに星夜を眺める。


「それで、その人どうするの?このまま放って帰る?」

「そ、それはだめだよ!」


 冷たい提案を投げかけたレッドに対して、すぐさまホワイトは反応した。その姿を見てレッドは軽く笑ってしまう。


「ふふっ、冗談だって。ホワイトはその人を放って帰るなんてできないよね。」

「何か勘違いしてるよね!?」


 そんな2人を苦笑しながら眺めていたブルーは、ある提案をする。


「でしたら、後は私に任せてください。」

「「え?」」


 その言葉に2人とも間抜けな声を出す。

 ブルーはその2人に顔を近づけると、星夜に聞こえないように内緒話をする。


「私、彼……星夜さんの家と近いので、送っていくにしても楽に済みます。」

「へえ、よく彼の家知ってるね。」

「近所で見たことがあるんです。まあ、詳しい場所は本人に聞きますけど。」

「じゃあ私は賛成かな。ホワイトはどう?」

「うーん。……悪いけどブルー、お願いできる?」

「ふふ、承知しました。」


 星夜には聞こえていないが、ブルーが星夜の面倒を見るということで意見はまとまった。


「じゃあ、私たちはこれで。いこ、ホワイト。」

「うん。ブルー、あとはよろしくね。」


 そうしてやや名残惜しそうな眼を向けながら、ホワイトとレッドはその場を立ち去って行った。


 その姿を見送った後、礼くらいちゃんと言っておくべきだったかと、いまさらになって星夜は思ったが時すでに遅しである。


 そうしてその場には星夜とブルーの2人だけが残された。ならばと、星夜はブルーに礼を伝えておくことにした。


「……えっと、ありがとう。助けてくれて。あの2人にも伝えておいてくれると嬉しいかな。」

「どういたしまして。ホワイトもそう言ってもらえると喜びます。」


 なぜホワイトだけなのだろうかと、星夜は少し疑問には思ったが、とりあえず礼を伝えることができたので良しとした。


「ごめん、もう少し休ませてくれるかな?そうしたら1人で歩いて帰るから。」

「かまいません。ただ、その間にいくつかお尋ねしたいことがあります。」

「……僕に答えられることなら。」


 そのブルーの言葉に、星夜はやや緊張する。

 昔からブルーは大人びていて、そして察しがいい女の子だった。

 もしかしたら星夜について、なにか気付いているのではないかと警戒したのである。


「ふふ。いえ、簡単なことです。あなたについてのことですから。」

「……何かな?」


「イージスをなぜ知っているのですか?」


 その問いに星夜は心臓が止まるような感覚を覚えた。

 つい口に出してしまったその名前を、どうやらブルーに聞かれてしまっていたようであった。


 どうにかごまかさなければ、星夜はいくらか鈍っている頭を回転させ言葉を考える。



「……言ったかな?」


 その結果、特にいい言葉は出てこず、あまりに苦しすぎる言い訳を口にしていた。


「言いましたよ?」


 それに対し。ブルーはにっこりとほほ笑んで答える。その笑顔が今の星夜には怖かった。


「イージスは、私たちと同じ魔法少女です。彼女のことを知っているのですか?」

「いや、何のことかわからないな。」

「彼女は……。今は私たちと協力関係にありません。」

「えっ……?」


 星夜の反応に、ほらやはり知っているのではないかという笑みをブルーは浮かべる。それを見て星夜はしまったと思うが、どのみち苦しい言い訳を通せるわけでもなかった。


「彼女は魔人と戦おうとしません。それどころか、最近は味方であるはずの、他の魔法少女に模擬戦と称して戦いを挑んでいます。」

「模擬戦……。」


 ブルーの口ぶりからすると、魔法少女は他にもいくらか存在しているようだ。


「だから私たちは彼女を疑っているんです。魔人と通じているんじゃないかって。」

「……イージスが誰だか知らないけど、仮に通じていたとして、なにが問題なのかい?」


 ここまで来ても一応はしらを切りつつ、反論する。魔人と魔法少女は戦っているようだが、だからといって魔人が悪で魔法少女が善であるとも、星夜にははっきり分かっているわけでもない。


「魔人は、私たちに妖精を遣わした魔法の世界から逃げ出してきた、言うなれば犯罪者たちです。放置しておけばこの世界にどんな害を為すかもわかりません。現に、彼らは魔獣を放って人々から生気や魔力を集めています。」


 魔獣のその話は星夜も知っていた。だがその背後の魔人については、存在くらいしか妖精からはろくに教えられていなかった。

 

「その魔獣を私たち魔法少女が倒していった結果、困った彼らはついに自ら私たちと戦うようになりました。」

「へえ……。」

「そんな彼らと通じているとすれば、それは危険なことです。この世界の人々にとってはもちろん、私たちにとっても……。」

「それで、僕に何の話があるのかい?」

「普通の人間は魔人に襲われたりしません。加えてイージスも知っているとなれば、あなたはやはり危険です。」

「……その危険ってのは、あくまで可能性の話だよね?」

「ええ、可能性です。でも私は、あの2人とは違います。私は平穏を守るためなら、どんなことだってやれるんです。たとえ、可能性であっても、排除するくらいのことは。」


 そう言って、ブルーは手に持った杖を星夜に向ける。その顔は、いたって真面目であった。


「……それをやれば、魔人と変わらないんじゃないの?」

「別に私は正義になりたいわけじゃないんです。ただ平穏を望むだけ。あの2人とは違います。」

「参ったな。」

「正直にすべてを話せば、見逃してもいいんですよ?」

「……。」


 じっと2人の視線がぶつかる。

 10秒、20秒と時間がそのまま過ぎていく。


 ブルーの人となりをよく知っている星夜は、この状況の意味を正しく理解していた。

 彼女は勘が鋭い。


 何か後ろめたいことがあれば、すぐに見抜いてくる女の子だった。

 そうしてその勘は、成長してさらに鋭くなっているようだった。


 そして自らを冷酷と称する彼女の性格についても、本当によく知っていた。

 平穏のためには手段を選ばない、その言葉に苦笑してしまいそうなくらいに。


 だから星夜は、観念することに決めた。


「……まったく、相変わらず勘が鋭いね、ブルーは。僕の負けだよ、認めるよ。すべて君の考えている通りだ。」

「ふふ、やっと観念してくれましたか?」

「君にはなにも隠せないね。ただ、君はそんな性格じゃないだろう。」

「ああ言えば、あなたに気付いてるってことが伝わるでしょう?ねえ、ブラック。」


 すべては、茶番だった。

 星夜の正体に気付いたブルーが、星夜に自白させるための狂言だ。


「ああ、ドキっとしたよ。気づかれちゃうなんてさ。」

「私も驚いたんですよ?まさか再会できるなんて。」

「……ああ、そうだね。久しぶり。」

「はい。お久しぶりです。」


 そう言って二人は握手を交わす。

 5年ぶりの、本当に相手の正体を知った上での仲間同士の再会だった。



「にしても、本当に驚きました。まさかブラックが。」

「ん?ああ……えっと、そうだね。説明するとややこしい事情なんだけど。」


 魔法少女が実は男だった、などという事情をどう説明したものか。さらに女装して戦っていたことへの恥ずかしさもあり、星夜は困惑した。


「ブラックが今は男装して男のフリをしているなんて……。」

「へ?」

「あんなに可愛かったのに……そんなに男の子になりたかったんですか?」


 ブルーの勘違いに対して、直前に抱いたものよりさらに複雑な困惑を伴って、星夜は誤解を解く必要があった。

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